「終わりなき平和」

表紙

ジョー・ホールドマン 著/中原尚哉 訳
カバーイラスト 加藤直之
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ
創元SF文庫
ISBN4-488-71201-0 \920(税別)

 西暦2043年、世界はアメリカを中心とした先進諸国連合軍と、開発途上国の連合体の"ングミ軍"の二大勢力に分かれて果てしない戦いのさなかにあった。ングミ軍が次々と命を的にしたゲリラ戦を挑めば、連合国側は"機械士"と呼ばれる、電脳空間にジャックインした操縦者たちによって行動するロボット兵器、"ソルジャーボーイ"で対抗する。本体が破壊されても操縦者が致命的な損傷を受けることの少ない、一種の不死身の兵器であるソルジャーボーイを前にして、戦局は急速に終結すると思われたが、次々と命を的に立ち向かうングミ軍兵士を前に、戦線は膠着状態にあった。いっぽう、長引く戦争とは別のところで、人類の科学史上空前の規模のプロジェクトがいよいよ完成しようとしていた。木星軌道上で進行中の、膨大な宇宙資源を利用した史上最大の粒子加速器の建造。だが………

 ハードでシビアな戦争SFの傑作、「終わりなき戦い」のジョー・ホールドマンの、ヒューゴー/ネビュラ、ダブルクラウンに輝く長編SF。タイトルはそこはかとなく似ていますが、直接的な続編というわけではなく、新たな視点から描き出される大作。

 桁違いにインテリジェントなサイコミュ兵器、といった感じのソルジャーボーイ、という新兵器が登場しますが、これは単なる戦記SFではありません。主人公のジュリアンはソルジャーボーイをコントロールする"機械士"の一人ですが、戦場にいないときの彼は大学で物理学を研究する博士、この時代の連合軍の兵士たちはみな、パートタイム兵士なんですね。この、戦争までもがルーティン化した世界を支えるテクノロジーとして存在する"ナノ鍛造機"、超大型の粒子加速器によって行われようとしている実験の内容、といったSF的アイディアと、世界がナノ鍛造機というハイテク・養老の瀧で物質的充足を甘受できる陣営と、そうではないがゆえに貧困にあえがざるをえない陣営、さらにそこに絡んでくる狂信的なカルト集団、という未来史観か織り成す、一種異様、というか、不思議な読後感を残す作品であると感じました。

 その独特の切り口のせいかあらぬか、読んでる側が「くるくるくる」と期待しはじめると微妙にお話の流れが思わぬ方向にずらされてしまって食い足りない気分を味わったりすること(特に前半から中盤にかけてはそういう部分がありますね)もあるのですが、それはホールドマンが狙っているものが、単なる戦記SFではない、さらに大きなテーマを描くための方法の一環に戦記物をもって来たから、ということなのでしょう。その大きなテーマが何なのか、ということについては僕自身は今のところ確信が持ててはいないのですけれども(解説を書いておられる冬樹蛉さんの説にもうなずけるものがありますが、「そうなのかな?」と思ってしまうのもまた確かで………)、ハデな戦記SFだったら映画やアニメに任せておけばいいわけで、小説でなければできない、あいまいな部分を自分の思考で補っていく必要のある思考実験のような意味合いを持たされているのでしょうね。

 その事がかえって「お話」としてのドライブ感みたいなものをスポイルしてしまっているところは確かにあると思うのですが、それでもなお先を読みたいと思わせる魅力にあふれた作品ではあると思います。うむ、久々にSFを読んだ気分だ(^o^)。

00/1/12

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