「戦艦大和誕生」

「西島技術大佐の未公開記録」
「『生産大国日本』の源流」

表紙

前間孝則 著
デザイン 鈴木成一デザイン室
講談社α文庫
ISBN4-06-256401-7 \940(税別)
ISBN4-06-256402-5 \940(税別)

 去年テレビで海底に眠るその姿が放映され、再び脚光を浴びた戦艦大和。これまでにもさまざまな書物や映画が出ていますが、技術系ノンフィクションライター、前間孝則さんによる本書は、その戦闘記録に焦点をあてるのではなく、日本の産業史上に類を見ない、超巨大プロジェクトとしての「大和」建造の記録を中心に、日本の戦後経済を支えた造船業の発展の起訴ができる様子を記録した本。

 欧米先進国に追いつき追い越せと言う、がむしゃらな工業化を進めてきた日本ですが、資源のほとんどを輸入に頼ると言う物理的な不利を別にしても、その急速な工業化の流れのなかで、基礎体力みたいな、裾野の技術の発展をなかば置き去りにした形でのいびつな発展を遂げざるをえなかったがゆえに、一定の品質の製品の大量生産という、近代工業にとって不可欠な条件をクリアできないままに消耗戦に突入せざるをえなかった日本にとって、アメリカを相手にした総力戦での勝ち目がなかったことは明らかなのですが、そんな不利な状況下で、あらゆるタイプの工業製品を造り、組み込んでいかなければならない「軍艦」を造るために苦闘する技術者たちを鮮やかに描き出して読み応えは充分。前間さんファンの僕としては、新春そうそうの、ちょっとした読むお年玉ですね(^^;)。

 モノを造るということは、検討し、計画し、実行していくという作業の流れのなかで、いかにそのプロセスを、少ない工程で、要求される品質水準を保持していくか、というところに頭を使っていかなければいけないことであると思うのですが、軍艦という一品ものの製造という少々特殊な条件の下、できあがったものがよければ生産効率などは二の次、みたいな風潮が支配的な軍人たちの世界にあって、合理的な生産方法の導入を推進した、西島技術大佐の存在が、大和という巨艦の建造に当たって、記録的な工数の減少をもたらし、その方法論が、敗戦からたちなおりつつあった日本を世界の造船大国にのし上げる原動力になったのだそうです。

 バブルがどうしたこうしたと言う一種の狂乱時代のなかで、日本人は楽してお金をもうけることばかりに目を向け、かつて辛酸を嘗めた末に身につけた基礎体力の向上、という部分を忘れてしまい、バブルが弾けてしまったときに気がついてみると、もはや競争力でよその国に対抗できないぐらいひ弱な体質になってしまったように感じているんですが、つまるところこれは、敗戦直前の日本の姿に、今の日本が近づいているという気がしないでもないですな。

 富国強兵をむき出しにして近代化の道をひた走る中で、大国意識に伴う驕りによって、いつしか自らの位置を見定める醒めた目を曇らせ、失っていった。その事が、実際に船をつくりあげる役割を与えられた造船の現場からより一層明確にみえてくるのである。

 たえず欧米先進国の後ろ姿を追いかけることに終始して来た後発国日本の超エリートは、たとえ時代が転換期にさしかかっても、依然としてそれまでの路線に固執して、その延長上でしかものごとを見ることができなくなっていた。

 「あとがき」の前間さんのこの一文、戦時中の日本の姿を鮮やかに浮かび上がらせていると同時に、現在ただいまの日本の須方をも洗わしているように感じられますね。

00/1/7

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