2005/May/26
ミラノ(2日目)
相変わらず晴れ。
シャワー、
散歩写真、
朝食、
と来て、
日本人客が話をしているのを漏れ聞き、
ようやく昨晩の結果を知る。
あらら。
火が消えたよう、
とまではいかないが、
心なしか、
街も沈んでいるように見えてくるから不思議だ。
タクシーの運ちゃんも無言。
職場でもその話は出ない。
F氏も自分の仕事を始めている。
私の仕事はローマについてから決まるので、
なんとなく手持ち無沙汰。
ツールを適当にいじったりしてるうちに、
ローマのエンジニアが本格的に使用し始めたらしく、
動作が重くなってきたところで、
客先オフィスから単身引き上げ。
自社オフィスでメールチェックなんぞやってると、
F氏から携帯にTEL。
「もう帰るから」
「ありがとうございました」
「ローマに行っても、
まぁ、
連絡取り合おう」
「ぜひぜひ」
気づけば庶務さんはすっかりお帰り。
タクシーどないしよ・・・、
まぁ、
バスにでも乗るか。
とテキトーに退社。
交差点を渡ってバス乗り場。
行き先はさっぱりわからない。
とりあえず地下鉄の駅まで辿り着ければ、
中央駅にもホテルにも行けるので、
出発待ちのバスの運ちゃんに、
「バスの切符を売ってくれ」
「ほにゃらら〜ら、
まるぺけ〜にゃ」
「いや、
イタ語わかんないし」
「英語話せません」
それでも、
身振りを交えてイタリア語でなにやら説明してくれる。
おかしなもので、
相手に伝えようという気持ちからか、
大きな声でゆっくり話してくれるのに対し、
こっちもつい必死に聞き取ろうとしてしまう。
機器と機器が情報交換を行う際には、
プロトコルの規定が必要となる。
Windowsマシンとマックがネットを等しく閲覧できるのも、
携帯とPCでメールのやり取りができるのも、
すべからく、
このプロトコルの規定に準拠して作られているからである。
そして、
そのプロトコルというものは、
扱う情報のレベルによって、
レイヤー化されている。
コネクタの形状やケーブルは銅線なのか光ケーブルなのか、
といった最低限守らないとつながりませんよ、
ということを規定する物理レイヤー(レイヤー1)から、
機械同士が、
送りました、
受け取りました、
てなやりとりをするレイヤーから、
ソフトウェアが人間にわかるように情報内容を表示するところまで、
ぜぇんぶ規定されているのである。
で、
私と運ちゃんの会話である。
人間同士の情報交換のための物理レイヤーは、
音声情報に限るなら、
音波を使用し、
可聴帯域で発声すべし、
ということになる。
われわれは、
そのさらに上のレイヤー、
つまり使用されている言語のレベルで通じ合えないと知りつつ、
大声を出し、
耳をそばだてることによって押し通そうとしていたわけである。
などと考えながら、
一人さ迷いタクシーを探しつつ、
つい笑ってしまうのであった。
運良くタクシーを発見。
中央駅まで。
目的は、
ミラノ〜ローマ間の鉄道の切符を購入することにある。
中央駅は、
ドゥオモに勝るとも劣らない巨大建造物である。
しかるにその中にあるチケット売り場のなんと矮小なことか。
ずらり並んだブースはほぼ全てClose。
2つぐらいの窓口に長い行列が出来ている。
しかも一人一人がやたら窓口で時間を使う。
行き先・時間・人数、
ぐらいしかやりとりすべき内容はないであろうに、
延々うんたらかんたらやっている。
辛抱強く待って、
さくっと、
「ローマ・テルミニまで、
明日、
時間はこのとおり」
と時刻表の写しを差し出す。
カンペキ。
と、
「明日の切符は向うで買って。
けど、あと20分ぐらいで閉まるで。
しかも行列できてるはず。
閉まっちゃったら、
明日やね。
ここに並んで買ってもらうことになるね。」
「あっちってどっち?」
「あの向う側」
「あっちね、
おおきに」
まぁ、
時間がかかるわけが分かったような気がしたよ。
行列は出来ていなかったが、
引いた整理券の番号から判断するに、
窓口のちんたらペースを考慮せずとも到底無理。
帰るかどうしようか迷いつつ、
駅前の広場をぷらぷらしてると、
現地の若い衆が、
「じゃっぽーね?」
軽く手を振ると、
「ノカータ、
ノカータ」
え、
あぁ、
中田ね。
と思うが早いか、
一人が笑顔で駆け寄ってきて、
私の手を取り、
なんかやろうとしている。
どうやら、
ナカタがゴールを決めた時とかにやるパフォーマンスを再現したいらしい。
いや、
知らないって。
機械同士の通信の場合、
レイヤー1が最もベーシックな仕様となるが、
人間同士のコミュニケーションのためには、
「レイヤー0」とも呼ぶべき層が必要である。
それは機械同士が何の目的で通信しあうのかが前提条件として与えられているのに対し、
人間同士のコミュニケーションには、
バスの切符の購入のための情報収集や、
鉄道の切符の予約のための情報提示や、
さらには目的のない情報交換すら行われることがある、
ということが前提となるために必要とされるレイヤーである。
このレイヤーがお互いに整備されていないと、
- 物理レイヤーで音波のやりとりができ、
- 言語レイヤーで情報の内容が解読できたところで、
コミュニケーションとしては成立し得ないことになる。
一般的にはこのレイヤーには、
「常識」
という名称があてがわれている。
私と若い衆との間には、
サッカーに関するこの常識と呼ばれるレイヤーに相違(私が持ち合わせていないだけだが)があったため、
双方、
とくに発信側が期待するコミュニケーションの結果に至らなかったわけである。
などと考えながら、
ホテルへの帰路、
つい笑ってしまうのであった。
この一件が、
まさに「バタフライ・エフェクト」とも言える事態をのちのち引き起こそうとは夢にも思わずに。
ソースがたまらなく美味なミディアムステーキをいただいて、
ミラノの夜、
終了。
ぼなのって。
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