中小企業白書を読む(2005年) |
作成日:2005-07-21 最終更新日: |
版形が A4 であるのは去年と同様。また、 CD-ROM がもれなくついていること、総天然色であること、 発行元がぎょうせいという会社であること、 白書の表紙の地が白くないため、白書とは呼べなくなったことは、去年と同様である。 価格は 2100 円(税込み)と安くなった。 内容は充実しているのだろうか。
今のところ、怪しい誤植も含めて次の通りである。
ページ | 誤 | 正 | 備考 |
---|---|---|---|
59 | 将棋ソフト(1970) | 将棋ソフト(1990) | 注1 |
67 | 川上行程から川下行程 | 川上工程から川下工程 | 右列上から7行 |
316 | (スーパーエコシップフェーズ。) | (スーパーエコシップフェーズ) | 左列下から2行(注2) |
333 | 11%上乗せダミー | 11%超上乗せダミー | 上から11行 |
注1 ()内は普及した年代という注釈があるが、将棋ソフトは1970年代には普及していない。 私の感覚で1990年代としたが、これも90年代前半は普及したとは言いがたく、どちらかというと90年代後半である。
注2 「モーニング娘。」「藤岡 弘、」の影響か?
私は、論理を追うのが苦手である。また、全体を見るのも大変である。 そこで、ケチをつけやすい細かな統計手法から、考えてみる。
まず、71ページ、第2-1-74図である。販売活動の積極さと顧客確保の有無である。 原図を少し変えて表現すると次のようになる。
顧客確保できている | 顧客確保できていない | |
---|---|---|
販売促進に積極的 | 66.8% | 15.5% |
販売促進に消極的 | 13.2% | 4.6% |
この表から、「販売促進活動を積極的に行なわなくとも十分顧客を確保できる企業は高々13.2%でしかなく、 大部分の中小企業は顧客確保の努力が必要なのである」という結論を導いている。 私は、後半の結論は認めるが、結論を導くのに前半の事実だけでは弱いと考える。以下はその証明である。
まず、13.2%という数字は、「販売促進活動を積極的に行なわなくとも十分顧客を確保できる企業」の割合である。 一方、「販売促進活動を積極的に行なわず、十分顧客を確保ができない企業」の割合は4.6%である。 この4.6%という割合が、仮に0.0%であったらどうだろうか。販売活動を積極的に行なわない場合にもかかわらず、 確実に顧客を確保できるのだ。これはおかしい。だから、13.2%という割合だけにこだわらず、 13.2%と4.6%という割合の比を考えるべきである。そして、販売促進に積極的な場合の、顧客確保の成否の割合の比、 すなわち66.8%と15.5%の割合の比との比較が必要である。
仮に、企業のサンプルが1001社だったとしよう。すると、上記の表はこうなる。
顧客確保できている(S) | 顧客確保できていない(U) | S/U | |
---|---|---|---|
販売促進に積極的(P) | 668 | 155 | 4.3 |
販売促進に消極的(N) | 132 | 46 | 2.9 |
このように比較すれば、次のように言える。 販売促進に積極的(Positive)であれば、顧客確保に成功する(Successful)企業は 顧客確保に失敗(Unsuccessful)する企業の4.3倍になる。しかし、販売促進に消極的(Negative)であれば、 同様の比較をしてもせいぜい2.9倍である。したがって、販売促進は積極的に行なうべきである。
しかし、上の議論はまだ足りない。サンプル数が十分かどうか、言い方を変えれば、 4.3倍と2.9倍という差は有意(意味がある)かどうか、という議論が必要だ。 本調査のサンプル数は不明である。p.336の記述からは調査の分析対象は4665社とあるが、 本分析はそのうち従業員数を300名以下の企業に絞っているため、対象社数がわからない。 (統計では、その母数を明示することはイロハのイである。中小企業庁に猛省を促す。) とはいえ、従業員数の平均値、中央値、標準偏差などから見れば、 サンプルは1001社を超えるとみていいだろう。仮に、上記の表を仮定してAICで推定してみると、どうなるだろうか。 母比率の差の推定を利用して数値を入れてみると、 両者、すなわち販売促進の態度である積極性・消極性は影響を及ぼさないとするモデル(AIC(0))と、 積極性・消極性に違いがあるとするモデル(AIC(1))を比べると、AIC(1)の値が、AIC(0)より2以上小さい。 したがって、積極性・消極性に違いがあるといえる。すなわち、比率の差は有意であるといえる。 しかし、サンプル数が異なれば、有意でなくなる可能性は十分にある。 たとえば、サンプル数を101に減らすと、AIC(0)がAIC(1)より1以上小さくなる。すなわち、有意とはいえなくなる。
ここで言いたかったのは、何を何と比較すべきか、またサンプル数は十分かどうかを確認することである。 (2005-07-21)
こんどはもう一つ、別の図を考えてみよう。第2-1-62図「ヒット商品の見込み」である。 「現在のヒット商品(売れ筋商品)は、販売当初からヒットすると考えていたか」を尋ねている。 これに対して、確実にヒットすると考えていた16.9%、ある程度ヒットすると考えていた72.5%、 あまりヒットするとは考えていなかった9.3%、ほとんどヒットするとは考えていなかった1.6%である。 この結果そのものには、私も認める。 私が気になるのは、「結果的にヒットしなかった商品(死に筋商品)」に対しても同様の設問をしたか、 ということである。本文62ページには次の記述がある。
販売前から「売れる自信がない」「売れるかどうかわからない」ような商品はやはり売れないのである。
少なくともこの記述は、「売れなかった商品に対しても見込み統計を取り、その結果をヒット商品と比較しなければ、 正しいとはいえない。上記引用は「ヒット商品に対しては、予想に反して売れたのは稀なケース」 というだけのことを誤って解釈している。極端なことをいえば、売れなかった商品の見込みの統計をとってみた結果、 事前のヒットの見込みは100%だった、という結果が得られるかもしれない。そして、その理由として、 ヒットするという思い込みが強すぎたがために市場が読めなかった、というもっともらしい理屈がつくかもしれない。 いくらなんでもこのようなことはないだろうが、いずれにせよ、売れなかった商品に対する見込みの率を表す統計もほしかった。 (2005-07-22)
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