回 ・ ヤナギハラ ヨシミツ 思いかえした

「サナちゃん、なんで、ここに?」
俺はあごをさすりながら、尋ねた。
ドウマエ・サナは意外そうな顔をした。
「アレ、ヨシミツ、あたしを探しに来てくれたんじゃないの?」
「なんで、俺が…」
おまえなんぞをと言いかけて、俺は口をつぐんだ。口に出したら、また、殴られちまう。

「俺の知り合いが二人もここで行方不明なんだよ。」
「そうなの。お気の毒。あたし、昨日の朝、ココにヒューンと落っこちちゃったんだけど。」
サナちゃんも、足場が崩れて落っこちたらしい。
「俺、サナちゃんが、ここに来てるってこと、知らなかったんだが…
行方不明者リストには、名前出てなかったしな。」
「まあ、そりゃそうね。あたしは届け出なんてしてないもん。」
サナちゃんはニッと笑った。

ワーウルフハンターになるには、政府の認可が必要だ。
だが、その免許試験が結構、狭き門だったりするので、無免許でハンター営業している者も少なくはない。
もちろん、違法行為だし、生命保険もかけられないが、ハンター数が不足気味なので、政府も今のところ、割と見てみぬ振りをしているらしい。
無免許ハンターは猟友会には入会できない。
っていうことは、会への届け出なしで、自由に猟に出かけられるってことでもある。
賞金だって、まるまる自分の懐に入れられる。高い会員会費なんて払う必要はないのだ。
だが、その代わり、会の恩恵は受けられないし、行方不明者リストには名前が載らない。
どこでくたばろうと、誰も気づかない。
好き勝手に猟をして、好き勝手にくたばるのが、無免許ハンターだ。
サナちゃんはその違法ハンターである。

3ヶ月前ばかりのことだ。
妊婦ばかりを襲う最低な人狼が標的だったんだが、俺がそいつの足跡を辿って発見した時には、ヤツは他のヤロウにコテンパンにノされてる最中だった。
先を越されて悔しかったが、他のハンターがどんな狩りをするのか興味があったので、少し離れた場所からその狩りを見学した。
妙なことに、ハンターはムチじゃなく、鉄パイプを振りかざしていた。
鉄パイプハンターは、バッティングセンターで球打ってるようなノリで、ズバンズバンと遠慮会釈なく打ちこみつづけ、見る間に人狼はボロ雑巾のようになってしまった。
それでも、ハンターは打ちこみをやめなかった。
憑かれた様に打って打って打ち据えていた。

俺はずっと見ていた。いつしか俺は、ウットリしてた。
アレでシバかれたら、どんな感じだろう…死ぬな…死んでもいいかな…
俺にそう思わせるくらいの、力強く凄い打ちこみだった。
ズバン。ズバン。ズバン。ズバン。…
ハッと気づくと、鉄パイプで肉を打つ鈍い打撃音はいつのまにか止んでいた。

背後に気配を感じて、慌てて振りかえると、そこに鉄パイプハンターが立っていた。
「ずっと見てたよネ。どうよ?あたしの鉄パイプ?」
ニッと笑った。えへんと胸を誇らしげにそらす。
俺の目はその胸に釘付けになっていた。女?!
ショートカットとあのモーレツな打ち込みのせいで、ハンターが女だってことに、俺は全然気づかなかったのだ。
「あんた、女、だったのか?胸がなければ、わからな…」
思わず口走った俺の頬が音をたてて鳴った。
「なんだと思ってたのよ?このバカ!」


女のコにイヤな思いをさせたままってのは、気持ち悪かったので、お詫びをかねてメシをおごった。
メシを食いつつ、どうして、あのとき、ボロ雑巾みたいになった人狼を打ちつづけたのか聞いてみた。
彼女のような無免許ハンターは政府から報奨金がもらえるわけじゃないので、人狼の毛皮なんかも収入源になってるはずだ。それをあんなに損壊しちまったんじゃ…
稼ぎを減らしてまで、打ちつづけたことの理由は?

鉄パイプハンターは、ニッと笑ってアッサリ答えた。
「殺しても飽き足らない奴っているじゃない?お母さんになろうってヒトばかり狙うような奴は、あれで、まだ足りないくらいダヨ。」
ふむ。もっともだ。公明正大、勧善懲悪、正義が理由だ。
でも、その後で、ちょろっと口走ったことを、俺は聞き逃さなかった。
「…それにさ、キモチいいじゃない」

それが、ドウマエ・サナである。

俺の第一印象は最悪だったはずなのだが、サナちゃんはなぜだか俺を気に入ったらしかった。
俺が、ウットリして、見惚れていたのを知っているからだ。
別に俺はサナちゃん自体に見惚れてたわけじゃないんだが。

以来、女とヨロシクやってる時に、酔っ払ってアパートに押しかけてくるわ、違法ハントに付き合わされ、危うく俺まで検挙されかけ、違反キップ切られるわで、俺は散々。
ロクなことがない。
俺はサナちゃんと知り合ったことを後悔しはじめてた。
ここんとこ見かけなかったんで、もう飽きられたかと、ホッとしてたが、まさか、こんなところで…

       To be continued…