Coffee Break back#4 2004年9月18日更新
BBSやメールのご相談で一番多いのは、○○をどう弾いたらいいでしょうか、というタイプです。ご存知の通り、これにはネットを介しては如何せん答えようがない、というのが私の回答です。
しかし、その背景には、自分の先生に質問しにくいという現実があるのだと思います。ピアノを一生懸命習っている人ほど、例えば一度聞いたことを聞き返しにくい、「こんなことも分からないの。」と言われたらどうしよう、等、ついつい言葉を引っ込めてしまうかもしれませんね。
あるテクニックを手ほどきして貰う際に、一度言葉で説明してもらっただけではとてもマスター出来ないものが沢山あります。少なくとも、家に帰ってから独りでもう一度迷わず練習できるようになるまで、レッスンの中で指導を受けるには相当時間がかかるものもあります。
でも、自分の努力も必要ですが、全然理解できなければ練習もできません。そんな時は、もう一度勇気を奮って先生に教えを請いましょう。
先生は、生徒が分かってそれを身に着けて上達してくれることが一番嬉しいのです。質問がなければ分かったものとみなされますから、次のレッスンでその点が直っていなかったら叱られるかもしれませんし、やる気を疑われることさえあり得ます。
ですから、どうしてもよく分からない時は、素直にそう伝えてもう一度教えてもらうようにしてください。それは教える側にとっても決して失礼や迷惑なことではありません。
私も芸大を出られた先生お二人にはとても丁寧に根気良く、いろいろ直していただきました。お二人ともとてもお忙しい先生でしたが、その場で何度も繰り返し確認しながら、手取り足取り解決の糸口が掴めるまで指導して下さいました。(私も決して飛びぬけた生徒ではありませんでしたので。)
お互いに密度の濃いレッスンをする/受けることはあらゆる意味でとても大切なことです。是非次の機会には、再度先生に質問して、解決できるようにしてください。
ピアノを小さいときから始めた人にとっては、多分ソナチネ・アルバムというと、初級の必須の曲集ではあるけれど、大したことはないという印象しかないと思います。
小学生位でさっさと"通過"してしまったからということもあるかもしれません。演奏会で弾かれるような曲もないし、クーラウやクレメンティなどは、その後は(練習曲以外では)お目にかからないでしょう。
しかし、このソナチネ(小さなソナタ)は、改めてよく見ると、とてもよく出来ています。特に大人の初心者には好適な曲集と思います。ついつい、ショパンだベートーベンだ、と先へ先へと目が行ってしまいがちですが、大人の趣味の人にはちょうどいい難しさと長さであり、綺麗な曲ばかりです。
子供の頃とは全く違う視点から、弾きなおしてみるのも決して無駄ではありません。普及している全音の楽譜でいいので、(もう)一度その良さを"発見"してみるのてはいかがでしょうか。
ベートーベンの易しいソナタも入っています。余裕のある人は、曲想も含め、全部自力で仕上げてから先生に診てもらうのにも適しています。
とてもいい勉強になると思いますので、改めて取り上げてみませんか?
今回は特に大人の初心者の方のためのヒントです。
ポイントは、
1.上がらない人はいない。
2.段階的な目標を立てる。
3.暗譜にこだわらない。
としてみました。
まず、誰でも上がります。「上がらない」方法は無いけれど、「上がっても最低限の演奏ができる」方法を考えましょう。上に挙げた項目は相互に関連していますが、上がる原因をはっきり認識することで、かなり解決できます。
たいていの場合、実は選曲に問題があります。舞台の上で上がらずに、更には80点以上の演奏をしようと思ったら、『易しい』曲を選ばなければなりません。しかも、発表会の1ヶ月前には「もう完璧!」と自信の持てる水準に達している必要があります。
舞台の上に立ち、大勢の人の前で弾くことは、これ以上緊張する機会がほかにあるだろうかと言うほどの"怖い"体験だろうと思います。舞台の上をまっすぐピアノに向かって一人で歩いていくことだけでも大変なくらいです。
しかも、普段とは全く違うピアノに向かい、眩しいほどの照明を浴びた鍵盤は真っ白です。(もしかして、このピアノに黒鍵は無い?!というくらい上がってしまう人もいます。)
そう、ここで緊張しないはずがありません。緊張するのが当たりです。そんな場所では、普段の6割の演奏が出来れば上出来です。ということは出来が4割、5割に目減りしてしまうことも珍しくないのです。
それで、殆どの方は当日のご自分の演奏に不甲斐なさを感じたり、大いに落胆したり、あるいは恐怖として記憶に残ってしまったりするのです。これは困りますよね。
そこで、一度に満足のいく結果を出すのはなかなか大変なので、自分なりの目標を立てて、1つ1つ(1回2回と回数を重ねる度に)達成していくことが大切です。そうやって自信をつけて次回に臨めば、きっと3回目位には満足のいく演奏にたどり着けるでしょう。
さて、まず選曲ですが、考え方は2つあります。1つは技術的には易しい(今の自分にとってある程度余裕が持てるレベル)で、聞く側には素敵に聞こえる、演奏効果の高い曲を選ぶこと、もう1つは敢えて自分にとって難しい曲を選んで挑戦すること、です。どちらでもそれは構いません。
その際に、易しい曲を選んだ方は、その演奏内容で勝負することを目的とします。細部にまでこだわって自分なりの演奏ができるように、余裕を持って練習を開始し、じっくり弾きこんでください。
難しい曲を選んだ方は、もしも苦手なら今回は暗譜は諦め、現時点での自分なりの演奏内容を求めることを主眼にします。暗譜は次回に回せばよいのです。
一度に何もかも求めるのは欲張り過ぎというものです。また、大人になって弾いてみると、見かけは簡単な曲でも、丁寧に弾くととても素敵な曲だと分かるものでもあります。そんな再発見も楽しみながら、折角の機会を楽しむくらいの余裕を持って発表会に臨めるといいですね!
初めてのバッハとの出会いは『2声のインベンション』でしょうか。対位法による楽曲に恐らく初めて遭遇して、新鮮な驚きがあると思います。もし出会いが小学生の時ならば浮かばない疑問、それが装飾音をどう弾くのかということです。
楽譜が違うと指示が全く違っている場合もしばしばあります。大雑把に言えば、wのような記号があって、例えばこれがドについていれば「ドレド」と弾きます。1つ上の音加えてを弾くわけです。
このwのような記号の真ん中に縦棒が入っているものもあります。この場合は、1つ下の音を加えて「ドシド」となります。
これが概略ですが、隣の音と言っても半音から1音まで、#や♭が入る場合もあります。
更に言えば、バッハが作った当時、これらの装飾音をどこにつけ、どう弾くかは殆ど奏者の判断に任されていたことです。(CDなどで演奏を聞くとかなり違います。)
ですから、まず最初は、装飾音をすべて無視して練習してもいいと思います。
実際には、楽譜を選ぶ時点で判断を校訂者に任せてしまうのが実情でしょう。これが絶対的に正しいということはないのですから、過度に神経質になる必要はないでしょう。(演奏会で弾こうという人は別として。)
沢山書き込みがあるのは、例えば春秋社版(井口先生の校訂版)でしょうか。強弱(これもバッハ本来の指示ではありません。)やフレージングなど、初心者が迷うどころか、疑問を感じる隙も無いほど懇切丁寧です。これが妥当かどうかは別として、何も考えなくていい楽譜ともいえます。
原典版になると、これは真っ白です。初めてインベンションを弾きます、という人には実際問題としては不向きかもしれませんね。私自身は、昔、先生の指示で春秋社版を使いましたが、今自分の生徒には特に勧めません。
最近、全音のインベンションの楽譜を見ましたが、市田先生の校訂版になっていました。バッハの研究者として有名ですが、確かになるほど、という感じでした。
この楽譜は手に入れやすいし安価ですから、いいかもしれません。インベンションの1番などは、冒頭から装飾音の指示が春秋社版と違っていて面食らいましたが、弾いてみるとこの方が綺麗な気もします。まあ、お好みで、かもしれませんが。
ということで、本当に奏法を極めたい方は、いろいろ本が出ていますから、そちらでじっくりご研究下さい。
生徒さんのレッスンでは、どこを合格ラインにするかは様々です。勿論専門的に勉強するのが目的ならば、非常に厳しくなりますし、趣味で楽しく、なら一通り弾ければOKともなります。
しかし、その合格ラインの設定にはいつも私は悩みます。
楽譜に書いてある通りに弾けばよい、と言うものの、それさえ出来ない場合もよくあります。音を間違えずに弾いたり、強弱や速度・曲想を楽譜の指示通り弾くだけなら、ある意味で(特にピアノ専攻の)先生は要らないでしょう。
一人で出来ることだからです。でも、3週間経っても4週間経ってもそれらが出来ない生徒さんの場合は、そこを『合格』ラインとするしかないでしょう。
勿論、毎回譜面に書かれた指示を繰り返し言うだけでは、教わる側もつまらないでしょう。
楽譜の指示だけでなく、タッチや腕・指の使い方等は指導しますが、これも教わった後で、家に帰って練習してくれないと体得できません。練習しない→いつも同じ間違いをする→毎回同じ指摘をされる→つまらなくなる→もっと練習しない・・・という悪循環の始まりです。
教える者にとっては常に頭を悩ませる問題であり、あの手この手で対策を考えるものの、うまくいくとは限りません。そんな時には指導力不足を痛感します。
また、曲の完成度は本当にまちまちです。一口に「私は『月の光』が(上手に)弾けます。」といってもその演奏レベルは天地の差があります。実はこれが大変曲者です。
指定の速さで間違えずにそれなりに『弾ける』と言っても、例えば音大を目指そうという人に求められる水準は非常に高く、例えば中学生であっても人を唸らせるような技術と内容が必須です。
簡単に言えば、ある人が『上手に弾けました』という完成度が、別の人にとってはその曲をレッスンに持っていく初回の完成度と同じということも充分あり得ます。
つまり、ある人にとっては「これでOK」の水準が、別の人にとっては『自力でこなすべき最低ライン』であるわけです。
また、こうなると、毎日練習の中身も自分で考えながら練習できる人でないと、とても続きません。また、趣味でいいという生徒さんにここまで求めると1年かかって2,3曲になってしまいます。
でも、細かいところまで表現力を磨くことは決して労苦だけではないはずです。こう弾くとこういう音になる、ここはタッチを固めにして、などという指示の通りに自分で弾けるようになることは、楽しみでもあるでしょう。難しさが面白さ、達成感にもつながるからです。
先生としては、生徒さんの目的や能力、環境や性格に応じて、選曲から『これで合格』の規準まで、毎回試行錯誤ですがときに厳しく、時に甘くを使い分けることになります。
恐らくどの先生もホンネのホンネでは、『楽譜に書かれたこと位自分でしっかりやってきて欲しい。もっとその上のことを教えたいのだから。』と思っているでしょう。
楽譜に書かれたことは最低限、書かれていない様々なことを沢山教えたい訳です。
でも現実にはそこまでなかなか到達してはくれません。
ですから、もしも先生にもっといろいろ教えて欲しい、と思ったらまずは自分で出来ることを完全に仕上げてからレッスンに行ってみて下さい。
何も言わなくても先生にはすぐに分かります。「あ、やる気が出てきたな〜。」と。先生は教えることを一杯持っています。もっとうまくなりたいと思う方は,是非先生にその意気込みを演奏で伝えてください。
先生も喜びますよ。(笑) たまには、先生の教える意欲を刺激してくださいね。
楽譜を正確に読みなさい、とよく言われると思います。しかし、時には楽譜が間違っていることもあります。
間違っているのは、作曲・出版が新しい曲が殆どです。いわゆる誤植にあたるものですね。
その例として、丁度いいので、以前ここで取り上げた久石譲さんの「ENCORE」(アンコール)を挙げましょう。
私はまず楽譜を買って、最近CDの方も手に入れました。それで聞いてみて気付いたのです。
"One Summer's Day"(「あの夏へ」)しか弾いていないのでこれに限定して挙げます。
まず、冒頭の4小節目、和音がタイで結ばれています。ここで真ん中のシだけはタイがなかったので、これは弾き直すのだと思っていたら、CDではどうやら打鍵されていませんので、ただタイが脱落しているようです。
次に一番大きな誤りは、区分[B]に入ってから4小節目のアルペジオです。
左手が順にミラレソとなっていますが、最初の音はCDではドになっていました。(ドラレソ)
これは間違いないと思います。それは、その前2つ前の小節(ほぼ同じ音型)と比べると分かります。響きもこの方が綺麗です。
あとは細かいことですが、区分[D]の4小節目で、右手の2音目にあるラに♭がついていますが、4拍目のオクターブで弾くラ(→シ)の箇所にはナチュラルが必要です。そうしないと、一オクターブで下の音は「ラ♭」、上の音はただの「ラ」では不協和ですから。
また、[F]の中でも同じパターンがもう1度出ますので、そこも訂正が必要です。)
★補足★
メールで問い合わせをしたら丁寧に確認してくれました。
『ド』ラレソの箇所は改訂版では訂正されているそうです。他は付け忘れだそうです。素早い回答、嬉しかったです。
校正しても人間のすることには見落としがあります。それは仕方ありません。新しい楽譜ではこのように指摘されたことを改訂のたびに直していくしかありません。
他には、出版社によるのか作曲者によるのか分かりませんが、私が良く使うブージー版のプロコフィエフでは上記のことは茶飯事です。(笑)
ヘ音記号が落ちている箇所さえあります。また、私もそれを無意識のうちに訂正して弾いていたりします。
それは、作曲上の様々な"約束事"が分かるからできるのです。つまり、同じ音型の連続の中で1箇所だけ音程関係がおかしければ、そこは誤り(誤植、あるいは作者自身の錯誤)と考えられます。逆に言えば、そういうことを常に考えながら弾いていなければなりません。
他にもありますが、誤りなのかこれで正しいのかどうしても分からないこともあります。(古典派あたりではまずそういうことはありません。研究しつくされているからです。勿論、版によって音が違うことは非常によくありますが、それと今お話していることとは別の問題です。)
そんな時は仕方ないのでCDがあれば複数聞いてみます。例えばプロコフィエフなら旧ソ連のピアニストの演奏を聞きます。それで大抵解決できます。
初めて練習する時は必ず片手ずつ、とよく言われると思います。私もそのように指導しています。
時々その指示を全く守らずに、いきなり両手で練習を始める生徒がいます。しかし、これでは時間がかかる割にうまくなりません。なぜでしょうか。
まず右手から始めると思いますが、普通(特に初級)は右がメロディーで、しかも少し長い曲なら、冒頭だけでなく途中や最後にも繰り返し現れます。
右手から練習することで、一番大切なメロディーから覚えられることになります。そのメロディーは最低4小節(後は4の整数倍の長さ)で書かれており、それをフレーズ(楽句)と呼びますが、フレーズを理解して弾くことが大切です。
つまり、音楽は縦(右手と左手)ではなく横(右手の旋律+左手の伴奏)に流れていくものですから、片手ずつの練習でフレーズを自然と理解していくことが出来ます。
いきなり両手で弾き始める子は、その方が速く上達できると思っているようですが、自分のレベルより相当易しいものでない限りは、最低4小節といえども間違えずに両手では弾けないはずです。
そこで、何度も間違えたり弾きなおしたりしながら進むのですが、このように「速く」・「両手で」だけ練習していると、いつまで経っても完璧には仕上がりません。
逆に「急がば回れ」で、難しい箇所ほど片手ずつ、さらにその後で両手で合わせる時は「絶対に間違えない速度」で「弾きなおさないで」やるように言うと、みんな本当にゆっくり頭を使いながら(「ここをこうしよう、ここで間違えやすいんだったな」と考えながら) 弾くので1度この「超ゆっくり」でキチンと弾けるようになれば、すぐにでも速度を上げてうまく弾けるようになります。
両手で弾いていても、耳は常に(出来れば両方の音、最低でも)メロディーを担当する手で出している音をずっと追うことが出来なければなりません。
そのためにも「いきなり両手で練習」はフレーズをよく考えないと、曲の構成に全く目が行かないことになりかねません。
勿論、新しい曲でも7〜8割をいきなり両手で弾けるような場合はそういう練習でも構いませんが、弾きにくい箇所があるときはそこだけでも上記の練習をする方が、結局一番楽です。
ピアノを始めて数年でツェルニー30番に達すると思います。練習曲には最初にその曲の速度指定が載っています。
ハノンなどではメトロノームで1拍が60〜108位になっていると思いますが、30番も指示がありますね。
この数字、曲者ですが、ここで敢えて断言します。この数字にこだわる必要は全くありません。
こんなに速く弾くのはある意味で非現実的と言ってもいいでしょう。特に独学の方、ご注意下さい。
例えば、1番は指示では二分音符=100ですが、これはその半分の50で充分です。2番も然り、大体50〜60%で途中で止まらずに綺麗な音で弾ければ「合格」です。
また、全曲を順次完璧に弾けたら先に進もう、という考えも捨てて構いません。年齢が若いほど、大胆に取捨選択してもいいですし、曲によってはさらっと弾いておしまい、にしても構わないのです。
それらは、手の大きさや体格から見て、小学生では無理があるものや、この曲集が終わるころ(1〜2年後)に再度トライすれば今度は楽に弾けるようになっているものだからです。
40番になると、それなりの技術の練成が目的ですし、初心者の域を越えていますから、指示された速度の7,8割を目標にしても構わないのですが、
30番はまだまだ成長過程の真っ只中で弾いていく曲集ですから、先生の指導のもとで適宜判断して、どんどん進めても構わないものです。
指揮者って格好いいし、何だか偉そうでもあります。例えばバイオリニストやピアニストとどこが違うのでしょう。
演奏会で格好よく指揮棒を振る姿は、指揮者のほんの一面に過ぎません。
演奏会で振る前にはオーケストラのメンバーとの音合わせがあります。常任指揮者などでは数回あるのではないでしょうか。ここで、指揮者は自分の解釈を楽団員に伝えなければなりません。
つまり、確固たる自分の解釈があり、それを楽団員に納得させられない限り、オケは思うように鳴りません。
また、そのためには普段から楽譜(総譜=スコア)を読んで、頭の中でいわゆるシミュレーションをしたり、文献や録音を聞いたりして様々な角度から勉強しているのです。
ですから、演奏会当日には何となく"気楽そうに"指揮棒を振っているように見えるときがあっても、それはもう自分の意図はオケに伝わっているからです。
私の以前のピアノの恩師のご主人はチェロがご専門でしたが指揮に転向されました。(指揮科には途中から転科して入ることができます。)
なぜ?とお聞きしたら、「チェロでは自分の思うことが100%は表現できないと感じたから。オケなら自分の思うような演奏ができるからね。」ということでした。
ちなみに、ピアニストから指揮者に転向したり、兼ねたりしている人が多いことにお気づきでしょう。よく言われることですが、楽器の中ではピアノはオーケストラに匹敵する、恐らく唯一のものです。
それは、一度に出せる音の数や音量などにも依ると思いますが、例えばピアノ協奏曲を弾く時に、自分の解釈の延長上でオケも自分好みに合わせて欲しい、となりますよね。そんな所をきっかけに、
スコアを読んでいくうちに、協奏曲以外でも自分の音を追求したくなるのもある意味で自然の流れかもしれません。
私たちがベートーベンやドビュッシーなど様々な曲を演奏するときには、殆どの場合、ここは弦楽四重奏的、ここはフルートの音色のよう、ここはティンパニかな、などと考えています。
それがオーケストレーションに拡がっていくのです。
ちなみに、棒振り3年?と言うようですよ。指揮者になるのもやっぱり大変!です。(笑)
最近「なぜソナチネを弾かなければいけませんか」や「どうしてもバイエルを全部弾かなければいけませんか」というご質問がありました。
それぞれ意味は少し違いますが、改めてこのことを取り上げてみたいと思います。
ソナチネの意義は、例えば古典派の楽曲形式を身につけることといえるでしょう。いわゆる西洋のクラシック音楽を考える時、バロック・古典派・ロマン派・近現代と大まかに4つに分けることができます。
これらの区別は、曲風が大きく異なること、つまり楽曲の形式がそれぞれ異なることにあります。
バロックは対位法、古典派はソナタ形式、ロマン派は自由で様々な形式と広い音域、近現代はピアノの可能性の追求など、特徴があります。これらをできるだけ早いうちから全てに慣れていくことは非常に有意義です。
実際問題としては、最近は近現代の子供向け作品が非常に沢山出てきましたが、ソナチネ等に相当するような、1冊で全てを網羅したような曲集はまだない、と言えるでしょう。その意味でソナチネは古典派の作品の入門コースに最適です。
ソナチネを弾くことによって、古典派作品の調性感や主旋律・副旋律の対比、楽曲形式感などを自然に(楽に)学べるのです。
勿論、同時にロマン派の小品や近現代ん作品に触れられれば一層それぞれの特徴が良く理解できるでしょう。
バイエルの場合は、初心者の方にとって、という前提での話になりますが、やはりこの先長くピアノを続けていくには、いずれにせよきちんとした基礎を身につけることが、結局は上達の近道です。
勿論、教材はバイエル以外のものでも全く構いませんが、これもバイエルやメトード・ローズなどは様々な短所はあるものの、やっぱり優れた系統的な教本といえるでしょう。特に大人の初心者には向いていると思います。
バイエルを全部弾くのに1年2年とかかるのなら、代わりに自分が弾きたい曲に時間をかけて取り組みたい、という気持ちは理解できます。しかし、ピアノのテクニックとして最小限必要と思われる程度の内容は、身につけるには結局、最低1年や2年は
必要です。これも、近道はないのです。ですから、その意味ではどれを使っても構いませんし、バイエルなら全曲を練習する必要もないかもしれませんが、いずれにせよ何か必要になるはずです。
最近様々な教材を使ってみて、改めてバイエルの強みを感じる事が多くなりました。それは、反復練習の有効性ということです。ABAのように、同じ旋律でも繰り返すことによって、練習効果があがります。バイエルは小学校のようなもので、1年生から6年生まで使えるものなのです。
つまり、最初と80番や90番あたりでは天地ほどの差があり、いきなり80番から始めても、その分だけ上達が早くなることはありません。
基礎はやっぱり大切です。焦らず時間をかけて、しっかりした土台を作ってください。
時々BBSでも質問があるのですが、「〇〇の曲がうまく弾けません。何かコツはありませんか。」と聞かれると、考えてしまうことがよくあります。
それは、例えばすぐに「この点に注意して練習してみて下さい。」と回答できる技術もありますが、「コツはありません。」としか答えようがない場合も多々あります。
勿論、個別のテクニックではなく「〜という曲がうまく弾けないのですが」と言われては、漠然としすぎて答えられないという面もありますが、その問題を解決するには近道はなく、地道な練習で長い時間がかかる
場合が多いからです。
技術の習得にはどうしても時間がかかります。効率的でないのです。簡単に身につく技術は少ないのです。また、それが出来ないのは先生の教え方が悪いから、と言えない場合もありますし。
どんなに優れた先生に師事し、一生懸命練習しても、どうしても完全には習得できない技術というものが、存在するのです。それらは、勿論、私にとっても同じです。その数は少なくなりますが、
どうしてもうまく弾けない箇所というのは必ず残ります。誰が悪いのでもありません。敢えて言えば、それができる人は生まれつき"才能"に恵まれた人なのかもしれませんね。
というわけで、近道もなければ「こうすれば絶対にできるようになる」ということもないのです。
でも、だからといって全く出来ないという場合は殆どなく、ある程度までは誰にでも可能になると思います。それでいいのではないでしょうか。
それは別の言い方をすれば、自分の今の限界を知る、ということにもつながります。私も勿論自分の限界は痛感しています。それが分からない人には真の上達はないかもしれません。
知った上でできることも沢山あります。だからこそ、いつまでも意欲を持って練習したり、難しい曲にトライしたりして、何十年もピアノとつきあっていけるのではないでしょうか。
勿論、行き詰まったら専門家(先生)にアドバイスを求めてください。でも、100%でなくても60%できればよし、とすればいいときもあるのです。
今出来なくても数年後には楽に可能になっていることも大いにありえるのですから。
・・・うまく弾けなくて思い悩むような時は、そんなことも考えてみてください。
・私が初めてこの言葉を目にした時、一瞬その意味が分かりませんでした。出てきたのは、ヤマハで出している「ピアノの本」という小冊子で、出入りの山野楽器の人が持ってきてくれました。
その中に「レスナー」という言葉が頻出するのです。いろいろ読んでいくうちに、どうやらこれは「ピアノの先生」の意味で使っているようだと分かりました。一体何語なのかと思いましたが、「レッスン」から
レッスンをする人、という意味での造語ではないかと推察しています。(ご存知の方があれば、是非ご教示下さい。)
勿論、幾ら英和辞書をひいても"lessoner"なる語は載っていません。
あえて英語でいうなら、やっぱりpiano teacherでよいようです。・・・ということで、恐らくヤマハ関連以外の場所ではこの言葉は一般的ではありません。余り使わないほうがいいかな、と思いました。
・お礼を渡す立場として・・・
ピアノに限らず、習い事では折に触れての謝礼という習慣があります。世代によっても随分と実態も異なるようですし、差し上げる側として迷うことも多々あります。
例えばコンクールに出るとなるとお礼もいるだろうと思いますが、コンクールといっても様々です。
社会通念からみて常識的な額で構わないと思います。謝礼を渡すのは感謝の気持ちからであって、それに相当することを先生がしてくれたと思うからでしょう。
月謝制の場合は、普段よりレッスン回数が多くなったり長時間見てもらったなら、それに相当する額が妥当でしょう。
発表会などで先生にお礼を渡す場合もあります。出演者全員で渡す場合には、人数割したら余り負担にならない程度の額が妥当と思います。
一番大切なのはお礼の気持ちだと思います。言葉と態度で十分なお礼の気持ちを表すことがまず第一で、金額や品物などは「相場」よりも各家庭なりの常識的な判断で構わないと私は思います。
音大受験などでは合格すればお礼をするでしょう。でも、それも1レッスンが1万円なら2万円でいいと思います。(勿論、中にははっきりいくら、と金額を言う方もおられます。盆・暮れも品物でなく商品券で頂戴、と言う先生もいます。)
疑心暗鬼になる必要はありません。先生が人間的にも尊敬できる方なら、お礼の額で扱いが変わることはないはずです。
それに、実際には謝礼と言っても、初めての皆さんが聞いても"常識的"な金額です。
余談ながら私はその点では恵まれていたと思います。20年来の恩師も、初めてのレッスンで月謝を持っていったら、「多すぎるから返します。」と言われましたよ。
・お礼を貰う立場として・・・
私は音大の講師でも教授でもありませんし、ピティナなどのコンクールに門下生を沢山送り込んでいる訳でもありませんから、実際問題としては余り頂く機会はありません。(笑)
でも、お中元やお歳暮にしても、下さる方もあれば無い方もありますし、それでレッスンの対応が変わることもありません。基本的にはお月謝をきちんとお持ちいただけることで、十分だと考えています。
盆暮れに何も届け物がなくても、旅行のお土産を持ってきてくださる場合もありますし、形にこだわることもないと思います。
やはり、一番嬉しいのは、言葉と態度できちんとお礼を述べてくださることで、それがあれば何も要りません。
かえって、余り気を遣われて、高額なものを頂いたりすると本当に恐縮してしまいます。
(貰い過ぎだなあと思うこともしばしばです。)・・・ですから、何事もそうですが、相手の立場に立って考えれば大抵のことは判断できると思います。
つまり、ろくにお礼の言葉も無くお金を包んでこられるよりも、菓子折りだけでもわざわざ出向いてご挨拶にみえれば、十分気持ちが伝わります。私はその方が嬉しいですね。
それから、きっともっと多くの方に参考になると思うのは、結婚式や何かの折にピアノの演奏を頼む場合の謝礼でしょう。
これも気の遣い過ぎは禁物です。依頼人と演奏者の関係にも大きく左右されます。
例えば、私は従兄弟や親戚なら当たり前ですがノーギャラです。お祝いの気持ちを込めて弾くわけですから。あるとき、従兄弟側ではなくお嫁さん側の親族が気を遣われて、お礼を差し出されたことがあります。
丁重にお礼をいって、気持ちだけを頂き、お金は辞退しました。それでいいのです。
結婚式などで言えば、むしろ、依頼するならできるだけ早く(理想は3ヶ月位前に。遅くても1ヶ月前までに)することと、ピアノはアップライトかグランドかを伝えてください。
実はアップライトでは演奏困難な曲があります。会場の制約などもありますから、予め分かっていれば、アップライトでも弾ける曲を選べますし。
理想を言えば、グランドを用意していただければ、それだけでも十分な待遇ですので弾く側も嬉しいです。
それ以外で依頼する場合は、最初にきちんとお礼は幾ら、と相談してください。
また、1つだけご留意いただきたいことがあります。
人前でピアノを弾くとなると、練習には(曲のレベルと演奏者のレベルによって千差万別ですが)想像以上の時間がかかります。その時間と労力を思いやってください。
普段練習している曲の中から演奏できるなら、「2週間後にお願いします。」でもいいのですが、リクエストがある場合には最低3ヶ月位はみて下さい。
また、音大卒の人なら極力グランドを用意し、調律も依頼するのが礼儀と思いますし、「ずっとBGMで弾いていて。」というのは失礼です。
(でも、生徒の結婚式や従兄弟・親戚なら、実際にはピアノがアップライトでも喜んで弾きますが。(笑)
大人もこどもも、練習時間が取れなくなってきて、何を弾かせるか迷うことがよくあります。
小学生でも5年生くらいになり、塾通いが週3日になると、平日は殆ど練習できなくなりますし。
しかし、それでもピアノは好き,という子には最近はギロックの「ピアノピースコレクション(1)」(詳細・ご注文はこちらへ→ギロックピアノピースコレクション1を練習してもらっています。
これは大変優れた教材だと思います。
一見難しそうに見える楽譜も、黒鍵と白鍵の固まりを見て視覚的にも理解しやすいものだったり、手の位置の移動が最小限で、しかも音楽的にも優れた曲になっています。
以前から定評のある教材ですがなるほど、使ってみて納得しました。
バイエル終了直前くらいからなら楽に使えると思いますし、大人の中級の方にも楽しんで気分転換に使えると思います。
また、もう少し弾ける大人の場合には、時間がある生徒には、一通り弾けるまで数ヶ月かかることを説明した上で、憧れの曲にトライしてもらうか、練習が楽しくなるようにショパンの前奏曲集や、バッハのパルティータから選んで弾いてもらっています。
前奏曲は、短いがショパンらしさが凝縮されていて、レベル的にも(あくまで一通り弾けるというレベルで、の話ですが)何とかなる曲が意外と多いですよ。
それから、ベートーベンのソナタの場合は、指使いや強弱・フレーズの解釈が丁寧で使いやすいことから、外国版ならペータースの原典版で校訂者が(クラウディオ・)アラウのものをお奨めします。
誰でも4番(薬指)、5番(小指)の指は弱いものです。解剖学的に見ても手の構造から当然のことらしいですよ。
ですから、2や3の指のような強さを求めるのは無理なのです。というより無謀でしょう。ですから、ひたすら4や5の指だけを強くしようと無理な練習を繰り返すのは
故障の原因にもなりかねません。
では、どうするのか、ということですよね。
大切なことは、まず無駄な力が入らないように十分に注意しながらハノンなどのパターン練習をゆっくりすることです。
指によって音の強さが違って全く構いません。強い指は強いなりに、弱い指は弱いなりに無理なく出せる音量でいいのです。
音量ではなく、弾く時に不要な力を抜くことを最大の目的にします。
手首、手の平、更には4や5の指を上下するときに動いている筋肉をしっかり意識してください。
予備練習として、ピアノの鍵盤の上でやる前に、机の上でもできる運動をしてみるのもいいと思います。
手の平の力を全部抜いてください。お風呂で腕を浮かべてみるときの感覚、冬に手がかじかんで文字も書けないときのような感覚です。
そうすると手は自然に丸くなります。その形のまま手を机の上に置きます。
すると、5本の指先の他に手首のあたりも接地しますね。(親指の付け根、小指の付け根の最も大きな筋肉のある盛り上がった部分のことです。)
その状態で1の指、2の指、というように順番に指先が丸いまま指を引き上げてみます。(力が抜けていれば指は弓なりに丸くなったまま動くはずです。つまり、ピアノを打鍵する時の理想的な形のままで。)
特に4の指はほんの少し上げただけで手の平に力が入るでしょう。これ以上引き上げようとすると無理な力が入るのが分かるはずです。
ほんの5ミリしか上がらないかもしれません。その、無理なく上がる高さまで、何度かゆっくり1本1本の指をくり返し上げたり下げたりしてみます。
大切なことは、引き上げるときは少し筋肉を使いますが、降ろすときは「打鍵する(叩く)」のではなく、力を抜いて「ストンと落ちる」ような感覚で動かしてください。また、練習するのは弱い指だけでOKです。1本の指で5回〜10回位ずつくり返してから、次の指に進みます。
このような練習で、指を動かす時にどこの筋肉を使っているか、また不要な力が抜けているかどうか、確認できるようになったら、鍵盤の上でも同じように動かしてみます。
そして音を出して練習してください。
丁寧に動かし、自分で確認しながら弾くには当然非常にゆっくりのテンポになるはずです。そう、ゆっくりでいいのです。
ゆっくりを何度も繰り返すうちに、自然に少しずつ無理なく速く弾けるようになってきます。
そうすれば、ずっと楽に弾けるようになってきますよ。
お試しください。