USA トゥデイ
2009年9月10日
統計値は語る。テニスでトップに達するには、リターンがすべてである
文:Douglas Robson

数字に見るテニス

下の図表は、サーブに比較してリターンが、そ
の重要性を増している事を示している。「USA
トゥデイ」紙は過去10年(1999〜2008年)
を通して、年末ランキングのトップ10選手に着
目した。ATPワールドツアーが追跡調査した10
の統計部門(6つがサーブ、4つがリターン)
の各々について、彼らがどこに位置するかを吟
味し、それらの数字を合計する(低い数字ほど
優れている)事によって、年末の高順位にはど
の統計値が最も寄与しうるかを示すという概観
が現れる。


サーブとリターンの部門を合計して平均化し
た時の、男子トップ10の傾向

ATPワールドツアーによって追跡調査された
10の統計部門


ニューヨーク―――アンディ・ロディックが爆弾サーブを放って2003年USオープン・タイトルを獲得した時、ファーストサーブが常に成功への鍵であったスポーツで、最有力のサーバーがまた1人登場してきた事を示していた。だが実際は、スポーツの発展における例外を示していたのだった。

「僕はずっと、僕が最後の本物のビッグサーバーだと言ってきた」と、世界5位のアメリカ人は語る。彼は時速155マイルの最速サーブを記録した。

ロディックの発言は、それほど的はずれではない。

「USA トゥデイ」紙の統計分析は、最近10年にわたる男子ツアーでますます顕著になってきた傾向を、ゲームの研究者および気楽なオブザーバーに対して例示している。サーブはリターンと比較して、重要性が減少してきているのだ。しかし、それが統計学的に表された事は、これまでほとんどなかった。

たとえば昨年、年末トップ10順位をうらなう最も正確な統計バロメータは、リターン部門で2つ現れた。ファーストサーブにおけるリターン勝率と、ブレークポイントの奪取率である。

対照的に1999年と2000年はサーブ部門が優勢で、サービスゲームの勝率、エース、セカンドサーブの勝率が、シーズン最終のトップ順位とほぼ連動していた。

「かつて選手は攻撃を主としていた」と、15回のメジャー優勝を遂げたロジャー・フェデラーは語る。彼は1998年にキャリアを始動した。「現在は守備に重きがおかれている。(分析は)誰もが感じている事をまさに確証している」

あるいはピート・サンプラスの元コーチ、アメリカのポール・アナコーンが語るように、「ビッグサーバーであっても、かつてのようには行かないかも知れない」

なぜなら ATP ツアーは10の統計カテゴリー―――サーブ部門で6、リターン部門で4―――のみを追跡調査しているが、戦績は図表に現れている以上に、特色を伝えている。

他の要素として、ストリングスやラケット技術の進化、プレースタイルなども同じく関わっている。それでもなお、分析結果はゲームがベースラインへといかに進展してきたかを示している。ロディックがニューヨークでメジャー優勝を果たしてから6年の間にさえ。

統計値は信念を後押しする

セイバーメトリクスが発達する時代に、集計・統計値の分析という点で、テニスは他のスポーツに遅れをとっている。ATP ツアーはようやく1991年から、10のカテゴリーを追跡調査してきた。女子ツアーは昨年10月に、同じカテゴリーを集計し始めた。
訳注:セイバーメトリクス。野球においてデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法。1980年代には広く知られた存在となったが、メジャーリーグでチーム戦略の一環として重視されるようになったのは、1990年代後半。

フェデラー同様、選手・コーチ・オブザーバーは調査結果を見せられると、同意を示した。彼らは、振り子の動きがサーブから遠ざかり始めていた事は承知していたが、数値的な図表を見て、コート上で経験していた事に納得したのだ。

「それが何を示しているか?」と、26位のマーディ・フィッシュは語った。「ベースライン・プレーヤーの支配だ」

クイーンズ出身で7回のメジャー優勝を遂げたジョン・マッケンローは、スリル満点だった2008年ウィンブルドン決勝戦の最中に、ゲームがどれほど変化してきたかを実感したと語る。その試合ではラファエル・ナダルが5セットでフェデラーを破った。

4時間48分の決勝戦で、ベースラインを固守するスペインのスピン・マスターは、最終ゲームで3回ネットへと攻めた―――1度などは、試合全体で初めてサーブの直後に―――普段からすると勇敢な戦術であった。

「(ボリス)ベッカー、(ピート)サンプラス、(ゴラン)イワニセビッチ等を見て、さらに2人の男がウィンブルドン決勝戦で戦うのを見た後で、いったいぜんたい誰が考えただろうか―――私にとっては今までで最も素晴らしい試合で―――10回のうち9回、サーブの後にステイバックするとは?」と、名誉の殿堂入り選手でテレビ解説者のマッケンローは言う。

今日のベースライン主体の規準では、10回のうち9回という見方はむしろ多いかも知れない。それはサーブ―――テニスにおいて、完全に選手のコントロール下にある唯一のショット―――の再考を意味するのではない。すべてのポイントを始めるストロークは、なお欠く事のできないものである。

この10年間、サービスゲームの勝率やセカンドサーブの勝率といった部門は、成功への強力で堅実なバロメーターである。

今シーズン、現在のトップ10中の6人は、セカンドサーブの勝率でもトップ10に入っている(ロディックが57%で1位)。

しかし他のサービス部門は、特にエースとファーストサーブの勝率は時を経て低下してきており、明らかなサービス・ウィナーというものは、重要性が下がっている事を示唆している。

同時に、トップ10の過半数―――7人―――は、リターン部門(セカンドサーブでのリターン勝率)で他の選手よりも優っている。

「脚力をいっそう重視」

なぜサーブの重要性は減少したのか? 理由の一端として、新しいシンセティック(人造)ストリングスがある。リターンで選手が大きなスイングをして、なおかつボールを生かす事を可能にしているのだ。両手バックハンドの数的優勢はもう1つの要因である。両手バックハンドはリターンで安定性を増す事に繋がっている。

ロディックはコーチのラリー・ステファンキの下でフィットネスと動きを向上させ、ウィンブルドン優勝にあと一歩のところまで進み、トップ5に返り咲いた。ゲームは下肢により重きをおくものとなった。

「それは実際のショットメイキングよりも、脚力をいっそう重視するものだ」と、今大会は同国人ジョン・アイズナーに3回戦で敗れた27歳のアメリカ人は語る。

現在の最も良い例の1つがアンディ・マレーである。イギリス人の彼は慣例にとらわれないカウンター・パンチング・スタイルで、ナンバー2にまで順位を上げている。USオープン出場時に、マレーはリターン部門の4つすべてで1位か2位につけていた。

22歳のマレーは、最近10年における相違の計測に該当するほど長くはツアーに参加していなかったが、彼はどのようにゲームが変化したか気付いていた。

「子供時代にウィンブルドンを見ていた時は、男子トップ選手はみんなサーブ&ボレーをして、エースも多かった」とマレーは語る。

マレーは多くのプロと同様に時速130マイルのサーブを打つ事もできるが、より優る反応スピードと進化した道具によって、最も厳しいサーブをも角度を変えてリターンする事が可能だと語る。それは、順序として、選手がサーブを利用する方法を変更した。

「選手はファーストサーブで必ずしもエースを打とうとせず、プレースメントを重視して、コート後方からプレーの主導権を握ろうとしている」と彼は言う。

進化してきたのは技術とテクニックだけではない。選手もまたしかりなのだ。

56歳のホセ・ヒゲラスは、マイケル・チャンとジム・クーリエのコーチを務め、彼らをフレンチ・オープン・タイトルへと導いた。そして現在は USTA エリート開発プログラムのコーチング監督をしているが、多数のビッグサーバーが選手を順応させたと語る。順応し、なじんだのだ。

「人間はスピードに慣れるものだ」と、スペイン出身の元ナンバー6選手は言う。

トップランクのダブルス選手マイク・ブライアンは、ロディックが現れた時、彼の時速145マイルのサーブは「人々を怖がらせた」と語る。

多くの選手が「爆弾」サーブを放つ現在、生き残る命題として、彼らは順応する事を学んできた。

「みんな目がもっと良くなってきている」とブライアンは言う。「(ロディックのサーブは)今なおゲームにおける最大の武器だが、選手は落ち着いてそれをリターンしている」

目が変化してきたと同じく、サーフェスのスピードも変化してきた。芝生、クレー、セメントともこれまでになく同質になり、テニスを1つのプレースタイルですべて間に合うものとしている。

2001年にウィンブルドンは、新しい芝生の組成を発表した。それはさらに堅固で、より安定して正確な高いバウンドを生み出してきた。選手たちは同じくより遅くなったと主張するが、オール・イングランド・クラブの役員は、そういう事実はないと言う。

多くの選手たちは、大多数の ATP 大会が行われるハードコートのペースもまた、遅くなってきたと言う。クレーの方がむしろ速いと言う者もいる。またある者は、ツアーや4つのグランドスラム大会で使用されるボールは遅くなってきた(あるいはローラン・ギャロスの場合は、スピードアップ)と主張する。

「ウィンブルドンのボールは、転がるグレープフルーツのようだ」と、ロディックのコーチで元プロのステファンキは皮肉る。

「現在コートが遅くなり、ラリーで勝つ事がより重要になっているのは、サイエンス・フィクションではない」と、クロアチアの元トップ5選手イワン・ルビチッチは言う。

結論:プレースタイルの幅は狭くなってきた。いっそう攻撃的なリターンとサーブ&ボレー戦術の緩慢な衰退が結びついて、ベースラインプレーを主要なスタイルにしてきた。

これは発達上のレベルにおいてさえ起こっている、と高名なテニスのカリスマ的指導者ニック・ボロテリーは語る。フロリダにある彼の名を冠したアカデミーからは、アンドレ・アガシからマリア・シャラポワまで多くのナンバー1を輩出している。

「現在リターナーはずっと大柄で、そしてサーブは幾分おろそかにされている」とボロテリーは言う。

「本当に、本当に荒々しい」

サーブの後にネットへ詰める男子はほとんどいないという状況では、サーブを返してプレーを続けられる選手は、ステイバックして最終的にラリーで勝つ見込みが高いのだ。

「それが最も重要な戦術だ―――ファーストサーブをリターンしてラリーに持ち込む事が」とセルビアのナンバー4、 ノバク・ジョコビッチは同意する。「サーフェスはずっと遅くなっていて、身体的にとても良い準備ができていて、なおかつベースラインに基づくゲームを持っている選手により多くの好機を与える。僕はそういう選手の1人だ」

身長6フィート4インチで最も強烈なサーバーの1人であるルビチッチは、1996年ウィンブルドンでジュニアの決勝進出に役立ったネットへ攻撃するスタイルを、放棄せざるを得なかったと語る。

1998年にツアーに参加してから5年後、スイスのバーゼルで開催された室内大会の準決勝で、2つの厳しい3セットでの勝利―――1つは対フェデラー戦―――の後、自分が空気の抜けた状態だと直感的に悟った、とクロアチア人は言う。

「気づいたんだ。順調にやっていくには、走らなければならない―――大いに」と彼は言う。彼はその後、初めてフルタイムのフィジカル・トレーナーを雇った。

「テニスはこうなってきた。本当に、本当に荒々しいスポーツだ」と彼は付け加える。

オーストラリア人のプロ、ダレン・ケイヒルは、アガシの名高いキャリアの終盤にコーチを務めたが、「USA トゥデイ」紙の分析を見て語った。この分析は、自分のサービスゲームであろうがなかろうが、なぜ現在の選手たちがすべてのポイントを猛烈に戦うかを示している、と。

「現在、テニスには安全地帯というものがない」と、ESPN 局の解説者であるケイヒルは付け加える。「最近では、ただサービスゲームをキープしてタイブレークに持ち込む事はできない」

ルビチッチのような少数の選手は、リターンへと重要性が移行している事、それに付随するプレースタイルの一様性には、芸術性の犠牲が伴っていると言う。

「僕の意見では、テニスはその強烈さをほんの少し失ってきた」と彼は言う。「なぜなら、我々はみんな同じ方法でプレーしなければならないからだ」


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