ブリーチャー・レポート(外野席からのレポート)
2009年12月13日
メカニックス - メカニックス:フェデラーとサンプラスのテニスの相乗作用
文:Marianne Bevis

ソウル、韓国。2007年11月20日:エキシビション・マッチが終わり、話し合うロジャー・フェデラーとピート・サンプラス。フェデラーが6-4、6-3で勝利した。

これは2人の選手の類似性と相違点について、詳細を検討してきた共同作業シリーズの最終版である。こちらの半分では、ロジャー・フェデラーとピート・サンプラスの類似性について述べる。彼らの相違点については、antiMatters の記事をチェックしてほしい。

人間の身体がテニスにもたらす才能は、複合的なパッケージである。

それは身体のみに関連する多くの要素を包含する:身長と体重、手足の長さと足の速さ、手と目の調整力、瞬間的な反応速度、忍耐力と強さ、などである。

しかしまた、精神的な特質の独特な組み合わせをも必要とする:自信、信念―――チームメイトはいない。集中力―――試合の勝敗は、最後の1ポイントで決する事もありうる。戦術的な知性―――相反する何百というプレースタイルに適応する能力。そして冷静な内なる強さ、などである。

身体的・精神的な特質が、調和して存分に発揮される時、そこには2つの名前を持つ一種の相乗作用がある―――ロジャー・フェデラーとピート・サンプラスである。

ある者たちの目には、彼らのプレースタイルとショット・メイキングは対照的に映る。確かに、サンプラスは主としてサーブ&ボレー・ゲームで名声とタイトルを獲得し、一方フェデラーの成功は、オールコート・ゲームによってもたらされてきた。

しかしサンプラスの最盛期には、サーフェスはより速く、そして現在はパワフルなベースライン・ゲームが優勢を占めてきたのだ。

フェデラーはボリス・ベッカー、ステファン・エドバーグ、サンプラスといった憧れの選手たちを見て成長し、自らに彼らのプレースタイルを重ねてゲームを創り上げた。なおかつ、21世紀に成功を収めるために要求される、バックコートのゲームを熟達させた。これはクレーで勝ち進むために必要な事だった。彼が模範とする選手たちは誰も、ローラン・ギャロスで優勝する事ができなかったのだ。

したがって我々がフェデラーに見るものは、21世紀のベースライン・ゲームである。しかし20世紀のサーブ&ボレーヤーが持っていた最高の特質によって強化されている。

それでは、サンプラスのゲームの中で、厳密にはどの要素がこれを可能にしたのか?

相手を惑わせるサーブ

テニスにおける最も重要な「統治の鍵」はサーブである。これが、サンプラスとフェデラーに最も共通しているところだ。サンプラスのサーブは有効性と堅実さで名高いが、統計値はフェデラーのサーブも非常に似通っている事を示している。両者とも最高速度は時速135マイルあたりで、テニス界最速という訳ではない―――時速140マイル超の最高速度はロディックとルゼツキーに属する。

サンプラスもフェデラーも、ファーストサーブの平均速度は時速115〜125マイルである。セカンドサーブでもほとんど差がないが、フェデラーのキックサーブよりもサンプラスの方がもう少しフラットで、平均で5〜10マイル速い。

両者とも対戦相手にまさるのは、身体の動き、読みにくさ、多様性である。両者ともスピンとスピードを組み合わせて、サーブに「重さ」と予測の難しさを与える事が可能だ。

始まりのモーションは異なっている―――サンプラスは後ろ足に体重をかけ、前足の爪先を上げる。フェデラーは前足に体重をかけ、後足を打つ方向に向ける―――が、トスが上がるにつれて両者とも身体を大きく反らし、膝も曲げ、脚部は一方が他方の後ろになった状態で、ベースラインに対して対角に構える。肩はコートから遠ざかるように、斜めに傾いている。対戦相手に見えるのは、彼らの背中である。

サーブの狙い所にかかわらずトスはほぼ一定なので、相手はほとんど予測ができない。このテクニックに、彼らの類似した身長・リーチ・ほっそりした筋肉質の体格が合わされば、最終的には同様の成果を得ても、驚くにはあたらない。

フェデラーがサーブに続いてネットへと出る時、その類似した体格は、サンプラスのように効率的で鋭い肩の高さのボレー、あるいは膝の深い曲げと正確なタッチが必要なハーフボレーを実行する助けとなる。

オーバーヘッドにおいても、両者は地面から跳び上がる軽やかさとバネを持っている。ツアー最終戦でフェデラーがダビデンコに浴びせたスマッシュは、サンプラスが名高いスラムダンクを叩き込む思い出を甦らせた(その分野では、フェデラーはサンプラスに追いつく途上ではあるが)。

キラー・フォアハンド

サンプラスはまた、傑出したランニング・フォアハンドでも知られている。彼は並はずれたスピードでフォア側ワイドへの攻撃に追いつき、極限のペースを持つショットで、多くのポイントを明快に勝ち取る事ができる。

フェデラーもまた、全般にわたって強烈なフォアハンドを持っている(antiMatter が述べるように、異なったタイプのものではあるが)。彼のランニング・フォアハンドは、よりトップスピンのかかった鞭のような一撃である事が多いが、そのメカニックス―――走るスピード、予測、腕の力―――は等しい破壊力を生み出す。

功罪あい半ばするバックハンド

サンプラスあるいはフェデラーにとって、弱点と呼ぶに最も近いものはバックハンドである。彼らのフォアハンドが持つ決定的な強さは、スピードと動きが結合したもので、それは両者とも、短いショットに対してはフォアハンドを生かすために、通常は回り込んでいた事を意味する。

対戦相手は彼らに対して、バックハンド側へ高い「キックサーブ」を打つべきと学んできた。また両者とも片手バックハンドであるため、攻撃的に対処する事が難しい。同様の戦術は、ラリーでも採用されている。対戦相手は彼らのバックハンドを弱らせるべく、そちら側をひたすら攻撃する。ナダルはフェデラーに対して、この戦術で著しい成功を収めてきた。

しかし、片手打ちはワイドへの高いボールに対して不利になりがちだが、強力なトップスピンの攻撃を和らげる、きわめて重要な武器にもなり得るのだ。サンプラスもフェデラーも、ネットにほとんど背を向けるようにしながら、鋭い角度でボールをクロスにスライスさせ、低いバウンドのワイドショットを放つ事ができる。これによって彼らは適切な位置に戻る時間を得て、対戦相手を守勢に回らせ―――特に、相手がトップスピンのカウンターパンチャーである場合は―――ラリーのペースと戦術を変える。

同様のショット、ボールを短く低く保つショットは「チップ&チャージ」の基本で、守備から攻撃へと流れを変える事も可能にする。サンプラスはこのテクニックの達人で、フェデラーも2009年には、より効果的に使い始めた。

そしてこれは、 フェデラーがサーブ&ボレーの達人から学んできた他の主要なレッスンへの手がかりともなっている。

戦術的な知性

フェデラーは成熟するにつれて、肉体的資質を維持するために戦術を適合させている。ラリーと試合を短くできるように―――さらには対戦相手を緊張させ続けるために―――彼はサーブからネットに攻撃するサンプラスのパターンを踏襲し始めている。ラリーの最中に様々なショットを取り混ぜ、サーバーに対してしばしばネットへと突き進む。

時に忘れられがちだが、これこそが、サンプラスが進化してきた方法なのである。彼はキャリア早期のオールコート・ゲームから、サーブ&ボレー中心のゲームへと移行してきたのだ。彼は30代に入っても、この勝利の方程式を続けた。そしてフェデラーも、同じ方向を目指している。

これらの戦術は、両者にとって有利な速いサーフェスでは、特に効果的である。彼らがウィンブルドンで最も良い記録を挙げている事は、決して偶然ではない。そして彼らが2001年にそこで初めて対戦するまでに、フェデラーが自分のアイドルに注目し、参考にしてきた事を思い出すと、興味深いものがある。フェデラーはめったに―――恐らく今年まで―――あの日サンプラスに対してしたように、頻繁にネットへと攻撃を仕掛ける事はなかった。すなわち対戦相手をネットから遠ざける意図的な戦術。

ごく最近の事だが、サンプラスはフェデラーに、なぜこの戦術を続けてこなかったか尋ね、そうする必要がなかったという答えを受けとった。今やフェデラーは、ネットをとる新しい理由を理解しているかも知れない―――主要なベースライン・ゲームの規則的なリズムを崩し、ラリーを短くするため、という理由を。

理性と感情

フェデラーはサンプラスを―――もちろんエドバーグも―――見習う中で、自分の気分をコントロールする事は、その他多くの精神的な側面をコントロールする事にも繋がるのだと学んだ。まずいライン判定、公正でない対戦相手、偏った観客、荒れもようの天候、あるいは最も肝要な、負けているスコア等の気を散らす事柄は、それで試合の方程式から取り除く事ができる。当面の仕事への集中を保ち、それぞれのポイントを勝ち取り、戦術を査定し、そして自分のリズムへと持ち込む事が可能となるのだ。

この精神的な強さは、サンプラスの堅実な記録の基盤となってきた。彼は冷静を保ち、めったに腹を立てたりせず、そしてゲームのルールを守る。

しかし両選手とも、冷静な見かけの奥には、テニスへの深い情熱がある。サンプラスはかつて「このゲームをプレーするには、人々が考えるよりも多くの情熱を必要とする………簡単そうにプレーするために、どれほどの努力をしているか、皆に知ってもらえたらなぁ」と語った。それはフェデラーのゲームにも当てはまる決まり文句である。彼はプレーをとても簡単そうに見せる。

しかし確かに、2人のチャンピオンにこのような成功をもたらしたのは、プレッシャーの下での冷静な合理的判断、勝利に対する巨大な願望に、並はずれた身体的技能、 運動能力、知的な戦略とが合わさったものなのである。


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