テニスマガジン
1994年12月20日号
独占ロング・インタビュー
僕は、ラケットにものを言わせる。
インタビュー:Craig Gabriel
訳:後藤 裕子


あなたはテニスに対して歴史的視野を持っていますが、他のほとんどのプレーヤーは持っていないように思われます。興味をそそられていない、と言ったらいいのでしょうか。あなたはそれを、テ二スが進歩する上で落胆すべきことだと思いますか。

ピート そうは思わない。僕が成長してきた環境はかなり変わっていたんだ。僕の最初のコーチであり、プレーの仕方を教えてくれたピート・フィッシャーは、レーバー、ロ−ズウォールといった昔のオージー(オーストラリア人)プレーヤーを、本気で僕の中に植えつけようとしたんだ。それはかなり変わった状況だったから、落胆すべきことだとは思わないけど、僕は彼らがコートの内外で行なってきたことを尊敬している。それは、僕が常に敬服してきたものなんだ。

あなたに歴史的視野を開かせたのは、本当にピート・フィッシャーだったのですね。

ピート 間違いなく彼のおかげだ。

テニスにおけるあなたの地位について、いろいろと書かれてきましたが、自分自身、偉大なテニスプレーヤーたちの中で、どのあたりの位置を占めていると思いますか。

ピート 偉大なプレーヤーの一員だといいと思う。僕は23歳で、望んでいるのは、とにかくどんどんいいプレーヤーになっていくことなんだ。それと、当然グランドスラムのタイトルを取ることが重要だ。自分の名前を歴史の1ぺ−ジに刻むためにね。

ロラン・ギャロスは大きな挑戦で、いつかあそこで大きな勝ちを収めたいと思っている。なぜなら、そのとき僕はすべてのグランドスラム・タイトルを手にすることになるだろうし、それを成し遂げたプレーヤーは多くはないからだ。レーバー、ドン・バッジ、それに偉大なフレッド・ペリーの3人だけなんだ。

ジミー・コナーズ、ジョン・マッケンロー、イワン・レンドルといった先輩と、肩を並べた、あるいはすでに追い越したと思いますか。        

ピート いや、肩を並べたとも追い越したとも思っていない。彼らはもっとずっと長い間プレーを続けてきて、ずっとたくさんのグランドスラム・タイトルをとっているから。コナーズは3年かそこらナンバーワンを維持していたし、僕があのレベルに達するにはまだ長い道のりがあると思う。僕が今どんな状態であるのかは、これから5、6年の成果を見届けなければわからないだろう。なぜなら、その頃僕は20代の後半で、自分の最高のテニスをしているだろうと思うからなんだ。

あなたが以前「歴史に残る偉大なプレーヤーのひとりだと思われたいということは、傲慢だとは思わない」と言ったとき、あなたはほとんど謝罪せんばかりでしたが。

ピート 僕は歴史に残るような試合をして、大きなタイトルも取った。だから僕はみんなが知っていることと自分の感じ方を伝えようとしているだけなんだ。僕は歴史の中に、時代を超えた偉大なプレーヤーのひとりとして記されたいと思う。

僕はこれからの10年間をとても楽しみにしているんだ。僕はいつでも全体の計画を考えてきたんだ。それが僕がやろうとしていることなのさ。

これからのプレーヤーがマーガレット・コートやロイ・エマーソンの業績についてあまりよく知らないということは、あなたにとってがっかりすることであり、偉大なプレーヤーの業績を損なうかもしれないとは思いませんか。

ピート 前にも言ったように、僕の環境はかなり特殊で、僕は他の大勢のジュニアとはかなり違ったふうに育ったんだ。僕はボルグやレンドルなど、もっと最近のプレーヤーを尊敬していたんだけれど、ピート・フィッシャーは昔のオージーについて本気で教え込もうとした。

僕は、ダラスで行なわれた1971年と72年のWCTファイナルでの、レーバーとローズウォールの試合を見たのを覚えている。彼らのプレーを見れば見るほど、面白さが増し、彼らが本当にどんなに偉大であったかますます理解できるようになったんだ。それはきわめてまれな物語であり、今では偉大な物語となっている。

ロッド・レーバーや彼の仲間があなたのことを大いに賞賛していることについて、どんな感じがしますか。

ピート とても名誉なことだと思う。僕の心の中では、彼はテニス史上でもっとも偉大なプレーヤーのひとりだから、彼が僕を認めてくれるということは大きな自信を与えてくれる。僕がテニスでやってきたことは正しいことだったんだ。僕は進歩していて、これからもますますうまくなるんだっていう気にさせてくれる。30年くらい前の人からそれを聞くことは、今の人から聞くよりも、ありがたいことだ。名誉なことだよ。

エベレストの頂上に立つのは、どんな感じなのですか。

ピート 実にいい気分だけど、あまり考えてはいないんだ。ランキングは気にかけていない。ただ自分のやるべきことをやるだけさ。試合でプレーするとき、僕はとにかくうまくプレーしようとしているだけで、そうすればランキングはおのずとついてくるんだ。

僕は自分のことを圧倒的な勝者だとも無敵だとも思っていない。ただ本当にいいテニスをしていると思っているだけなんだ。僕はとても安定したプレーをしてきたから、たぶんそれでランキング上でこれほどリードできたんだろう。

誰かが書いた文章を引用します。「サンプラスは実際には同世代の競争相手はいない。彼のライバルはすでに歴史の本の中にいる者だけだ」。これについてコメントしてください。

ピート そういういいことばかりで頭を一杯にしたくはないね。僕について、親切な人たちが好意的なことを言ってくれるのを聞いたり、テニスを知り尽くしている人の尊敬を得たりするのは名誉なことで、これはすばらしいけど、僕は謙虚でいたいんだ。でも家でガールフレンドといるときだったら、僕は現実を直視するのさ(笑)。わかるだろう?

いいことばかりで頭を一杯にしたくないと言いましたが、ということは、そういったことをあれこれ言われたり書かれたりすることについて、どのようなプレッシャーがあるのでしょうか。

ピート あまり考えたことはないね。そういったことをあれこれ考えたり、みんなの言うことを気にしたりはしない。僕に関する発言や記事はそれほど読まないんだ。僕は良くないことは僕の背後で勝手にさせておき、いいことはまあそれはすばらしいことだけどその成りゆきに任せて、より向上しようとするだけだ。

私は、あなたが初めてナンバーワンになったとき、東京のホテルの部屋でひっそりとお祝いしていたことを覚えています。今、ほんの1年半が過ぎたばかりですが、ピート・サンプラスにとって、世界のナンバーワンであるということは、コンピュータ上で5位とか10位であることとどのような違いがあると思いますか。

ピート ナンバーワンのランキングは、1年の終わりには重要だと思う。1993年のように、年の最後にナンバーワンだということは、ケーキの飾りのようなもので、自分が世界でベストのプレーヤーだと確信させてくれる。1991年にランキングが4位か5位だったときには、それはそれで全然かまわなかった。ナンバーワン・ランキングは特に1年の終わりに大切だから、今年もそうであればいいと思う。去年やったことを繰り返すことは、また別の達成感があるだろうしね。

ナンバーワンの位置を保ち、歴史に残る偉大なプレーヤーを目指すことの、大きたプレッシャーは何でしょう。

ピート グランドスラム・タイトルを狙うこと、それが僕にとっては重要なんだ。ランキングもいいけど、僕が去年USオープンで勝ったり、ウインブルドンで優勝した気分とは比べものにならない。それと比べられるものなんてないよ。

まわりの人から「ピート、君は最高だ」とか「サンプラスはテニスの不滅のプレーヤーとして、歴史の本に残る運命にある」と言われることに、ちょっと食傷していませんか。

ピート その話もあまりしたくないな。記者会見でもしょっちゅうその話が繰り返されているし。それより試合の話をして先に進みたいな。レーバーとの関係は、少しばかり繰り返して伝えられすぎている。僕はただ成りゆきをそのまま受け入れただけなんだ。

コートに出て試合をするときや、卜ーナメントの予定を考えるとき、記録を目標にしますか。

ピート 記録については考えない。僕が考えるのは勝つことだけだ。本当にそれだけなんだ。ポイントでどれくらいリードしているかも考えないし、今年いくつタイトルを取ったかも考えない。タイトルはみんな素敵だけど、やっぱり本当に価値があるのはグランドスラム・タイトルだね。

ここ何年か、あなたをずいぶんと見てきて、最近の12か月の間にあなたがとても成熟したことに気がつきました。最近の12か月の成長を、その前の12か月と比べてどう評価しますか。

ピート とても大きく成長したと思う。僕はコートの外での出来事もかなりうまく処理してきた。テニスのスケジュールもうまく作れたし、19歳でUSオープンを取ったときには、基本的にただそれを経験したという感じだったけど、マスコミに対処し、いろいろなこと馴れ、有名になることにも馴れていくうちに、2、3年前に比べてて、今の方が楽にできるようになったんだ。

前よりもっと適応できるようになったと思うし、有名になること、記者会見をすること、インタビューを受けることは自分の仕事の一部だということがわかったんだ。いい成績を上げるほど、プライベートな生活がプライベートでなくなることもね。基本的には、それが自分のやりたいことだったから受け入れたんだ。

レンドルはナンバーワンであることを楽しんだ、と言っていました。逆にマッケンローはナンバーワンであることをあまり楽しんではいませんでした。あなたはその地位を楽しんでいるように思えるのですが。

ピート 僕が自分の心の中にナンバーワンになるという目標を置いたとき、もしいつかその位置に到達したら、絶対に楽しみたいと自分に言い聞かせたんだ。僕はいろんなプレッシャーとか、マスコミとか、ナンバーワン・ランキングについての他人の取り沙汰で悩みたくはない。ただコートに出ていってそれを楽しみ、自分にプレッシャーをかけすぎたりしたくないんだ。

それが僕の姿勢で、去年はそれがけっこううまくいったよ。ビランデルやクーリエの問題について読んだり聞いたりしたけど、僕はコートで「これで終わりだ。もうやることはなくなった」なんて言いたくはない。とにかく向上を続けて、楽しみたいんだ。

あなたは、常にあらゆることをコントロールしたい、あるいはしなければおさまらないというタイプですか。

ピート テニスとか、練習のスケジュール、試合のスケジュールに関する限り、たしかに自分でコントロールして最終的な決定はしたいね。でも、僕はコントロール・マニアじゃないよ。

僕はガールフレンドやティム(ガリクソン、彼のコーチ)にあれこれ指図したり、みんなをアゴで使ったりするような人間じゃない。それは僕のやり方じゃないんだ。でもテニスに関しては、それが最優先だから、何が自分にベストかについては、かなり頑固に主張するよ。

あなたは気性の激しい人ですか、あるいは要求の多い人ですか。

ピート いや、どっちも違う。僕はそんなにキツい人間じゃない。でも、1日のうちのある時間、コートにいるときは、激しい人間になる。でもそれをあまり表には現さず、すべて内に秘めているんだ。僕はとても気さくなタイプで、1日のうちでもカッとすることはあまりない。僕はけっこうお気楽な奴なんだ(笑)。

ジンクスについてはどうですか。プレーするときに守っているパターンはありますか。

ピート いや、ジンクスについて言うことといえば……全然ないな。

ピート・サンプラスが地に足のついた人間であることは広く知られています。あなたはヒーローであることに気乗りがしないのではないですか。

ピート たくさんの人が、僕が普通なんでびっくりするんだ。僕が世界のナンバーワンで、いいプレーヤーだからといって、普通と変わっていたり、かけ離れているに違いないとみんなが思っていることに、逆に僕がびっくりしているよ。

でも、僕は道の向こう側を歩いている見知らぬ男と同じくらい普通の奴さ。たまたまいいテニスをしているに過ぎないんだ。みんなは、ときどき僕を神様かなんかのように見るけど、それはおかしいよ。僕はたまたまテニスがうまいだけで、普通の人間なんだ。それが基本だよ。

お金はテニスをする動機になりますか。あなたはおそらく人生を2度送っても、稼いだお金をすべて使いきることはできないでしょうが。

ピート グランドスラム・タイトルやイベントに関する限り、お金は関係ない。ケーキの表面を飾ることもいいけど、重要なのは、優勝すること、いいプレーをする興奮なんだ。もしウインブルドンの1回戦の賞金が5万ドルだったら、さらにハクがついてトーナメントの歴史に残るだろう。採算はとれないだろうけどね。

でも僕はただでも絶対にこれらのグランドスラム・タイトルのためにプレーしたいと思う。だってトロフィをもらう瞬間はそれはすばらしくて、誰だって望むことなんじゃないかな。それだけで、ただでプレーする価値があるよ。

テニスは今、問題を抱えていると言われています。現在その点に関して議論の余地はありませんね。用具の売れ行きは30パーセント落ち、テレビの視聴率は下がり、観客数は激減しています。1994年のオースーラリアン・オープンは3万人以上観客が減り、アメリカのテニス人口は、ここ15年で平均100万人ずつ減少しているんです。これは悲しいことですが、この問題をどう考えますか。そしてその原因は何だと思いますか。

ピート 僕にはその問題はよくわからないんだ。リプトンの決勝でアガシと戦ったとき、会場は満員だった。USオープンのチケットを取るのにはいつもたいへんな思いをするし、僕が行くところでは観衆の入りはとてもいいようだ。

アメリカは確かに不況の中にあるから、ラケットや靴に簡単に150ドルも払うことはできないんだろう。だから、それはその他の収支の問題と同じなんだと思う。視聴率が下がっているのは、僕たちが現在はそういうサイクルにいるだけで、次の何年かでは持ち直すんだと思う。僕は依然としてテニスは力を持っており、アメリカでの大会をみんなサポートしてくれていると思っている。

わかりました。あなたはテニスは力を持っていると思っているのですね。しかし、テニスをさらに力あるものとし、イメージを高めるためには、何ができると思いますか。

ピート 多くのテニスプレーヤーのイメージは、すごくスポイルされていて、自分のことしか頭になくて、マスコミが近づくのを許さない、といったものだと思う。でも僕個人としては、できる限りマスコミの要求に協力したいと思っていて、そう努力している。彼らの言い分もある意味ではわかるけど。マスコミはロッカールームに入れない、プレーヤーをつかまえることができない、試合のあと20分しか時間がない、といったことはね。

でも、さっき言ったように、テニスにはサイクルがあるから、すっかり滅び去ってしまうなんてことはないと思う。たぶん最近の何年かよりは不調なんだろうけど、それでも十分活気がある。NBAのようにね。10年前、ニックスのゲームを応援に行かないからといって、NBAを見捨ててしまうことはできなかっただろう。

テニスは今でもとても人気があるよ。∃−ロッパではもっとも盛んなスポーツのひとつに入るだろう。アメリカでは、他のすごい選手やスポーツと競合してしまうから、ヨーロッパほど盛んというわけにはいかないけど。我々はテニスを良くするために努力しているし、ATPツアーから、プレーヤーやファンの人気をさらに高めることのできる何か新しいアイディアが見つかるといいと思う。

そのもう一歩を踏み出すために努力しているということですか。あなたは自分をテニスの重要な大使であると自負していますか。

ピート そうだね。ナンバーワンプレーヤーとしてある意味ではそうだと思う。でも、議論を巻き起こすようなことを言ったりしたりするつもりはない。僕はラケットにものを言わせたいと思っている。それが自分のテニスにとって一番いいことだからね。コート外で話題を提供する必要はないんだ。でも自分の発言には気を配っている。みんなは僕のランキングとテニスでの実績ゆえに僕の言うことに耳を傾けるんだから、それは自覚しているよ。

でもそれは、僕が政治的発言をたくさんするとか、僕の気持ちをテニスからそらすことをあれこれ言うとか、誰かが言ったり書いたりすることをもっと心配するということじゃない。そんなことはしたくない。物事がとても順調に運んでいるので、何のためであれ、自分のイメージや人間性を変えたくはないんだ。

サリー・ジェンキンスによるスポーツ・イラストレイテッド誌の特集記事『テニスは死にかけている』は、テニスをかなりこき下ろしていましたが。

ピート 本当だね。あらゆる意味において好意的な記事じゃなかった。がっかりしたよ。何て言ったらいいのかわからないけど、あれを読んでがっかりした。彼女は状況に関係なく意図的に否定的であろうとしているみたいだ。彼女は悪い部分ばかり見ようとしていた。僕や、クーリエや、アガシの悪い部分を。僕たちは巨額の保証金をもらって負けているってね。でも彼女は、ときには僕たちも負けるってことがわかっていないんだ。

僕はあの記事にざっと目を通しただけで部分的にしか読まなかった。あれについてどう言えばいいのか本当にわからない。彼女が書きたいことを書くタイプだということは明らかだけど、あれがスポーツ・イラストレイテッド誌の特集で7、8ページもあって、完璧にテニスをけなしているんだから、ダメージは大きいね。テニスのためにならないよ。

テニスは死につつあるって? そんなことはない。絶対に死に絶えたりなんかしないよ、みんなテニスが好きで、テニスをプレーしているんだから、彼女に会ったら何て言ってやろう。彼女に僕の汚れたソックスを片っぽやるよ(笑)。

もっと軽い話をしましょう。ピート・サンプラスを幸せにするものは何ですか。

ピート 負けるより勝った方が幸せになるね。それから、くつろげる人たちといっしょだったり、くつろげる状況にいるときなんかだ。僕はみんなの注目の的になろうとは思わないんだ。30人に取り囲まれて群衆の間を歩くことは、あんまり僕を幸せにはしないけど、家にいておいしい食事を食べて、面白い野球の試合を見られるなら、オーケー、スマイルだって浮かべちゃうよ。

多くの人は、コートを離れたあなたを見たら、魅力的で面白く、ユーモアのセンスのある人だと思うでしょう。一般の人もコートであなたのそのような面を見るべきだと思いませんか。あなたはそう振る舞えますか。

ピート 実際には両方はできないな。コートに出ていって集中し、相手が自分を負かすことはできないぞという眼差しをすることと、明るく振る舞って、相手をちょっと安堵させ、観客にジョークを飛ばしたりすることとの間にははっきりとした境界線があるんだ。たぶんそんなことをしたら集中力をなくして試合に負けてしまうだろう。

そんなことにはなりたくない、ビジネスだからね。相手は僕を負かそうとする。コートに出たら、勝つためにできるだけのことをするんだ。ときには気持ちを軽くしたくなって観客と言葉を交わすこともあるかもしれないけど、僕のテニスにとってそれはいいことではないと思うし、その結果は悲惨なものになる危険がある。

バスケットボールのマイケル・ジョーダンを見ても、彼は明るく振る舞うためにあそこにいるんじゃない。彼はゴールを決めるために力の限り懸命にプレーしているんだ。僕がやろうとしているのもそれだ。サーブを打ってネットに詰めるとき、できるだけ懸命にやるんだ。

16歳のとき、あなたがこう言ったのを覚えています。テニスと恋は両立しない。女の子は相手のエネルギーを搾り取り、コントロールしようとするから、と。その理論は明らかに変わったようですね。

ピート その理論はどっかに行ってしまったよ(笑)。誰だって間違いは犯すと思うし、僕にはここ4年間ガールフレンドがいるから、明らかにそれは自分のためになっているんだろう。

あなたのガールフレンドのデレイナ・マルケイさんについて話してください。彼女はあなたに、あなたの人間としての成長にどのような影響を与えたのですか。

ピート たくさんの影響を与えてくれたと思う。僕はすごく甘やかされた子供として大きくなり、ほしいものは何でも手に入れていた。それが今になって突然、別の人の気持ちというものがあることに気づかなければならなくなったんだ。僕は兄や妹にしたみたいに、ただ彼女の感情を傷つけてそのまま立ち去るなんてことはできない。兄妹には何を言っても良かったけど、僕は大人になり、人間関係や他の人の気持ちをより理解できるようになったんだ。

デレイナはとても自立していて、それはテニスプレーヤーにとってとても大切なことなんだ。ほとんどの時間、僕らは練習ばかりしていて、かなり自己中心的だから。ある意味では、それが僕たちの仕事だから、そうでなくてはならないんだけど、彼女はそれを理解してくれている。彼女は観光に行ったりして、自分で時間をつぶしている。彼女を接待しなければならないなんて思わなくていいのは、最高だよ。

どこでどのようにして出会ったのですか。

ピート 4年前、ダラスでお互いの友人を介して出会ったんだ。実際に会ったのは、いっしょに出掛けたテニスのエキジビションだった。この共通の友人が僕たちを引き合わせ、僕たちは何度かいっしょに出掛けて、それ以来ずっとつきあっているんだ。

一目惚れだったのですか。

ピート そうでもない。よくわからないな。とにかく彼女に会って、自分たちのやり方に従っただけだ。話したいことはそれだけだな。

デレイナさんの一番いいところはどこですか。

ピート 彼女は善良で、いい人だ。彼女は僕がどういう状況にあって何をしているのか理解し、つらい負け方をしたときなど、遠ざかっているべきだと思ったときには遠ざかっていてくれる。テニスプレーヤーの良いときと悪いときを理解している。彼女は僕を本当にわかってくれるんだ。彼女はすばらしい女性さ。

どんなことをいっしょにやるのが好きなのですか。

ピート 僕らはけっこう家にいて、あまり外出はしない。いつもくつろげる環境にいたいと思うから、カクテルパーティに出掛けたり、盛大なディナーを計画したりはしないんだ。かなり地味なもんだよ。

もうひとつあなた自身のコメントをぶつけてみましょう。オーストラリアン・オープンのあと、これでデレイナのショッピングの請求書を払えると言っていましたね。

ピート (笑って)あれはジョークだよ。女性が誰でも買い物が好きなように、僕はいつも彼女にひどいことを言うのが好きなんだ。彼女は何か買っても一回着ただけでクロゼットに放り込むから、何か月かでホコリだらけになってしまうんだ。あれはジョークだよ。面白かったね。

あなたには楽しい生活ですよね。皮肉で言うのではありませんが、すべてが本当にうまくいっているのですね。

ピート テニスで学んだことがひとつあるんだ。トーナメントで優勝すると、すごい高みに立てる。僕の身にもそれは起きた。でも次の日には負けてしまったり、早いラウンドで敗退してしまうこともある。するとあっという間にどん底に転落してしまう。僕は勝利を喜び、次の試合やトーナメントまで、できる限り長く味わうんだ。僕には自分のやっていることのいい点も悪い点も理解できるんだ。

最後に仕事上でも個人的にでも、一番ほしいものを教えてください。

ピート 幸せになること、それが一番だ。僕はいっしょにいる人にも自分の仕事にも満足している。それが大切なんだ……幸せになることがね。



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