アメリカ版TENNIS
1998年6月号
主要なライバルたちから学ぶ事
文:Pete Sampras、Alexander McNab



僕にとっては、最もシンプルな戦略が、通常ベストのものである


カギとなる1つか2つの着想が、相手に勝つためのすべてだったりする。作戦やパターンをあれこれ考えすぎると、混乱してしまい、リラックスできず、かえって必要なショットを打てなくなる危険性がある。つまるところ、自分のベストのショットを打ち、相手にはそれをさせない事が、おおかたの試合の結果を決定づけるものである。

ここで、僕の主要なライバルたちとの取り合わせについて要約してみよう。
彼らに対して僕に有効な事は、君なりのレベルで、似たスタイルの相手と対戦する時にも有効だろう。

攻撃的なベースライナー
同僚のアメリカ人と対する時

アンドレ・アガシ、マイケル・チャン、ジム・クーリエは、各人のバリエーションはあるが、似たスタイルのプレーをする。彼らはベースライン中央に位置して、強いフォアハンドを打ち、僕を走らせる時、最も危険な存在となる。

ベースラインでのカギは、コート全体を使う事だ。ボールをコート中央から遠ざけよう。もしクロスのバックを打ち合っているだけだったら、遅かれ早かれ相手は短いボールに対して回り込み、強いフォアを打ってくる。だからライン沿いにバックを打って相手を動かし、バックのコーナーを空けさせよう。

攻撃的なベースライナーに対しては、ネットにつきたい。アガシ、チャン、クーリエに対してネットにつく事で、僕は試合の流れの主導権を握る。サーブ&ボレーを効果的にするには、ファーストサーブの確率を高くする必要がある―――65〜70パーセントはほしい。

彼ら3人に対して、僕のサーブの戦略は同じだ。いろいろ混ぜる事。身体の正面に打ったりワイドに打ったり、時にはセカンドサーブでサーブ&ボレーをしたりもする。

アガシはリターンがとてもいいので、サーブ&ボレーをするには厳しい相手だ。僕のファーストサーブの確率が下がってくると、彼は僕をステイバックさせる事ができる。ベースラインのラリーでは、彼はグラウンドストロークで僕を走り回らせ、疲れさせる事ができる。
攻撃的ベースライナーに対しては、しばしばファーストサーブがカギになる。

チャンはアガシやクーリエよりも多彩だ。もし僕が短い球を打つと、彼はネットに詰めて僕をやっつける事ができる。僕は先にネットに出たい。
だから彼のセカンドサーブに対しては、リターンでチップ&チャージをかけたり、攻撃するようにしている。

またチャンは走るのがとても速く、動きも素速いので、相手に無理に打ちすぎるようにさせてしまう。彼はそうやって多くの試合に勝つ。

敏捷なプレーヤーと対戦する時には、常に自分に言い聞かせなければならない。「もし彼が追いついても、それはそれだ。とにかくミスをするな」と。危険を冒してもより強く打ちたいという誘惑を、意識的に避けなければならない。

クーリエのサーブは他の2人よりいい。彼はバックのサイドに位置して、逆クロスの強いフォアハンドを僕のバックに打ち、ポイントをコントロールするのが好きだ。

彼のような相手に対しては、
コート全体を使って、ボールをその強いフォアから遠ざけなければならない。バックハンドをライン沿いに打って、彼にランニング・フォアハンドを打たせ、次のショットのためにバック側を空けさせよう。

パワーのあるプレーヤー
ベッカーと闘う時

ボリス・ベッカーと僕は似たタイプのプレーをし、僕たちの試合は接戦となってきた―――特にインドアでは。彼は多分、僕が対戦した中で最高のインドア・プレーヤーだろう。ベッカーとの対戦は、アガシやチャンとの対戦とは違う―――彼らは少なくとも多少の時間をくれる。

ベッカーはサーブで相手に力勝ちする事もできれば、リターンで力勝ちする事もできる。
サーブにもリターンにもパワーのある相手と対戦する時は、気を張り詰めていなければならない。1本か2本のショットがセットを決めるのだ。

ベッカーとの対戦のカギは、彼のセカンドサーブを僕がいかに上手くリターンできるかだ。もしそれをできれば、彼のサーブはそれほど良くなくなる。ベッカーは動きもとてもいいが、多くのパワープレーヤー同様、大きい男である。
パワープレーヤーの力を削ぐ1つの方法は、走らせる事である。

僕のサービスゲームでは、目的は堅実にプレーする事だ。アガシが最高のリターンをする事は、みんな知っている。しかしベッカーに対して、もし僕が2回くらいファーストサーブをミスすると、彼はリターンで安全策をとったりしない。大きく振りかぶり、叩いてくる。それは大きなプレッシャーとなる。
自分のセカンドサーブでは、パワープレーヤーに大きなスイングをさせないようにしよう。

粘り強いベースライナー
ムスターに対してやり抜く時

トマス・ムスターには、アガシやクーリエのようなベースラインでの破壊力はない。彼はたくさんウィナーを打つわけではないが、めったにミスをせず、相手をじりじりと苦しめていく選手の1人である。

粘り強いベースライナーは、しょっちゅうネットに詰めてプレッシャーをかけてくる者を好まない。もし一貫してネットに詰めるプレーができれば、彼にとっては危険な取り合わせとなる。そしてそれが、僕が彼に対してかなりいい結果を残している理由だ。

このタイプのベースライナーはかなり後ろに立っている―――特にリターンの時は―――ので、プレーする際は気持ちが楽だろう。1997年オーストラリアン・オープンでの対戦前にムスターを見て、サーブのトスアップ後、4〜5フィート後ろに下がる事に気づいた。相手がリターンの時かなり後ろに構えていたら、ワイドに逃げるサーブを多用し、彼のポジションを利用してネットに詰めよう。ファーストボレーをサービスラインの内側で打つ事ができるだろう。

時にはしてやられる事もあるだろう。相手が前に出るのを見たら、彼はリターンでいいパスを打てるからだ………ムスターが僕たちの試合でやったように。時折パスで抜かれるのは、サーブ&ボレー・テニスの一部だ。自分に有利に働くのが明らかになるまで、プレッシャーをかけ続けよう。


すさまじいサーバー
イワニセビッチに立ち向かう時

速いコートでの、ゴラン・イワニセビッチとの試合は恐ろしい。彼のサーブにはすさまじいパワーがあるからだ。加えて彼は左利きだ。彼のビッグサーブは僕のサービスゲームに多大なプレッシャーをかける。もし1回落とせば、それでセットが決まってしまうのだ。調子のいい日は、グレッグ・ルゼツキーも同様だ。

すさまじいサーバーに対して優勢に立つには、彼にプレーさせる必要がある。とにかくできる限りリターンを返そう。テイクバックを短くし、しっかりとインパクトしよう。瞬間的な反応だ。

彼はかなりのエースを打ってくるが、セカンドサーブに向かうチャンスもあるのだと割り切ろう。各ポイントは非常に速く進む。

左利きのビッグサーバーに対し、自分のサービスゲームを守るには、彼のバックへワイドのスライスサービスを多用しよう。これはあらゆる左利きの選手と対戦する際の基本である。

安定したベースライナー
スペイン選手にプレッシャーをかける時

セルジ・ブルゲラ、アレックス・コレチャ、アルベルト・コスタ、カルロス・モヤを含む、僕が対戦してきたスペイン選手たちは、みな同じようなプレーをする。彼らはみなベースライナーだ。

多少の差はあっても、彼らはみなバックのコーナーに陣取って、強いフォアハンドを打つ。彼らの多くは厚いウェスタン・グリップだ。トップスピンをたくさんかけて打つので、ボールはバウンド後に高く弾み、やりにくくさせる。

フォアにスライスサーブを打つと、極端な握りに対する利点を生かす事ができる。ウェスタン・グリップのプレーヤーは、身体を伸ばしてフォアを打つ時には、あまり効力が発揮できない。

そこでサービスをワイドに打ったり、チャンス時には角度をつけたクロスのフォアハンドを強打して、相手をワイドに振ろう。

安定したベースライナーは、良いパッシングショットを打つ。しかしとにかく攻撃しなくてはならない。僕が避けるよう心がけているのは、ハードコートで30本もラリーが続くような、「クレーコートの試合」に入り込まない事だ。少しの間そうするのは構わないが、それは僕が勝ちにいくやり方ではない。しかし、前に出るのは厳しい時もある。彼らの球はとても深くて重いからだ。

ワイドサービスでネットに詰める事に加え、試合の早い段階で、リターンの時にチップ&チャージもやってみよう。初めはしょっちゅう抜かれるかも知れない。だがイーブンを保っていれば、決定的な場面が来た時は、多分抜かれないだろう。ずっとプレッシャーをかけられているので、相手はミスをするかも知れない。あるいはセット終盤の大切なポイントで、ダブルフォールトを犯すかもしれない。こちらがチップ&チャージをかけてくると予想するからだ。

チップ&チャージで攻撃するプレーヤー
ラフターをはねつける時

ステファン・エドバーグのように、パトリック・ラフターはいつもプレッシャーをかけてくる。彼はすべてのサーブで前に出てくるし、可能な時は、こちらのサーブの時も前に詰めてくる。それが彼をタフにしている。こちらはいつもパッシングショットを打つ側になるのだ。

ラフターは25本もエースを取るようなサーブを持っているわけではないが、ネットに詰めるには有効なサーブだ。
そこでリターンは低く保たなければならない。もしちょっとでも浮いたら、彼はボレーがとても上手いから、決めにくるだろう。僕はできる限り上手くリターンを返し、そこから始められるよう心がけている。

試合が進むにつれて彼をすり減らす事を期待する―――安定してリターンを返す事で、充分なプレッシャーをかけ、ついには彼がファーストサーブを何回もミスするようになり、こちらが彼のセカンドサーブを叩けるようになる事を望むのだ。

チップ&チャージャーは、ステイバックする相手を好む。ラフターがバックのスライスで実に効果的にやるように、相手をコントロールできるからだ。僕はチップ&チャージを好む相手とやる時には、自分も前に詰めるようにしている。
相手をネットから遠ざけよう。僕は30オールの時に、パスを打つ側にはなりたくない。

自分のサービスゲームでは、彼をベースラインでプレーさせるようにしたい。そこは彼が最も心地よくない場所だ。
相手のチップ&チャージを妨げるため、セカンドサーブでもネットに出るようにしよう。セカンドサーブで相手のボディを狙おう。チップ&チャージを好む者は、身体の脇へのボールがほしいのだから、もしボディ中心へ打てば、彼はそれで前に出る事はできないのだ。


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