アメリカ版TENNIS
1998年1月号
相手に自分がやりやすいプレーをさせよう
文:Paul Annacone、ピート・サンプラスのコーチ
  Alexander McNab


テニスにおいて戦略上の戦いに勝つには、自分の力を最大限に発揮し、相手の力を削ぐような状況に持っていく事である。簡潔な方法は、さまざまな相手に対して、自分がどんなポイントをプレーをしたいのかを認識する事。そして覚えておくべきなのは、何をするかの手がかりとなる1つか2つの言葉だけである。

それは複雑なショットのパターンを思い出して実行しようとするより、ずっとシンプルだ。たとえば、もしアスレチックなポイントをプレーしたいとすると、相手を前後左右に動かし続ける事を意味する。実行するに際し、戦略面のアインシュタインである必要はない。

私は過去数年ピート・サンプラスと一緒にやり、満足させてもらってきた。彼は変化に富んだ多様なショットを持っているからだ。彼の最大の強みはサーブであり、フォアハンドであり、サーブ&ボレーもステイバックもできる能力である。だから彼はアスレチックなポイントも、速いポイントも、忍耐すべきポイントも、圧力をかけるポイントも、同じように器用にプレーできる。

しかし、いずれも相対的なものだと認識しておこう。どんなレベルでも、さまざまなタイプの戦略を生かす事ができる。君はサンプラスほど上手くはやれないかも知れないが、君の相手もまた、彼の相手ほど良くはないのである。クラブプレーヤーとして、ゲームに多様性をつける事ができる。さまざまなタイプのポイントについて、どんな相手に最も有効か、どうやってプレーするかを見ていこう。


アスレチック・ポイント

どんな相手か:主導権を握るベースライナー(アンドレ・アガシ・タイプ)

どうやるか:相手を動かそう。サイドからサイドへ、あるいは短い球や深い球を打って、どれだけ相手に負荷をかけられるか見てみよう。たとえばクレーコートの試合なら、アスレチック・ポイントとは、まずドロップショットで相手をネットに出させ、次にロブで相手の頭上を抜くようなやり方だ。ベースライン・ラリーなら、クロスコートやダウン・ザ・ラインにボールを打ち分ける事を意味する。同じ側に繰り返し打ってはいけない。パターン化するのを避けよう。

なぜ有効か:もしアガシやジム・クーリエのようなタイプのプレーヤーに、コート中央か多少バック側に留まってプレーするのを許してしまうと、君は深いトラブルに陥る。彼らはそこからフォアで強いショットを打ってプレーを支配し、君はひたすら走り回ってボールを追いかける事になってしまう。

さらに、ラリーが長く続くほど、彼らはさらに左側に移動し、バック側には君の打つ場所がなくなってくる。バックのダウン・ザ・ラインを、主導権を握る相手(ディクテイター)のフォアに打てば、彼を走って打たせる―――アガシのようなディクテイターはそれを好まない―――事ができるばかりか、彼のバック側を空けさせる事ができる。

それでもディクテイターは、危険なランニング・フォアハンドを叩けるかも知れないが、いずれにせよオープンコートが生まれる。そして君の運動能力を生かしてそのショットに追いつけば、いまやディクテイターのバック側には、大きなターゲットが空いている。そして君はポイントの支配権を得られるのだ。

速いポイント

どんな相手か:安定したベースライナー(セルジ・ブルゲラ・タイプ)

どうやるか:初めの2〜3回のストロークで、何か非常に攻撃的な事をやって、ネットに出たりウィナーを打てるポジションを得るようにしよう。サーブ&ボレーをしたり、リターンして前に出たり、強いリターンを打って次の短い返球を叩く準備をするなどである。

なぜ有効か:1996年フレンチ・オープンのブルゲラ戦、あるいは96年USオープンのアレックス・コレチャ戦で、サンプラスは長いポイントを何回もやりすぎたと言えるだろう。安定したベースライナーは、パッシングショットを打たなければならない場面の前に、8〜10回はボールを打つのを好む。君がターゲットとなる前に、彼らはリズムを掴みたがるのだ。

たとえ彼らがウィナーを打たなくても、長いラリーになると、君の方がより走る側になってしまう。速いポイントにすると、彼らにリズムを作らせない事で、君に有利になる。

圧力をかけるポイント

どんな相手か:根気強いカウンターパンチャー(マイケル・チャン・タイプ)

どうやるか:自分のサービスゲームに気をつけて、相手のサーブの時には、攻撃したり強いリターンを打って、圧力をかけよう。

なぜ有効か:カウンターパンチャーは、一般的に激しい闘争心を持ち合わせ、君が受け身のプレーをしたり、あまり良いプレーができていないと、攻めたててくる。1996年USオープン決勝で、サンプラスがチャンに対してやったように、君は試合の早い段階で力強さを見せつけ、テンポを握らなければならない。初めに恐る恐る安全にプレーし、4オールになったところで突然ガッツをもってハードヒットするよりも、初めに攻撃的にやって、その後少し安全策をとる方が、より楽である。

闘争心の強い競技者でも、弱点はある。チャンの場合は、他の多くのカウンターパンチャー同様、セカンドサーブだ。その場合、セカンドサーブに対して回り込み、君の意志を見せつけるべく、パワーを込めたフォアハンド・リターンを叩き込もう。もしくはチップ・リターンを打って前に出よう。サーブの場合は、コーナーに上手くボールを打とう。

チャンのような競技者は、激しく闘う事を決してやめないので、そういう相手とやっていくのに、少し順応する必要があるかも知れないが、それはかまわない。カギは、君がプレーを支配するのだと、最初にハッキリさせる事である。

忍耐すべきポイント

どんな相手か:ビッグサーバー(マーク・フィリポウシス・タイプ)

どうやるか:自分のサービスゲームに気を遣い、もし相手がエースをたくさん打ってきても、落胆しないようにしよう。そして彼がファーストサーブをミスした時は必ず、そのポイントを続けさせるために何でもやろう。さらに、ボールを低く保つようにしよう。

なぜ有効か:ビッグサーバーのサービスゲームを破るのは困難かも知れない。だからまず自分のサービスゲームに気を遣おう。サービスゲームでは先行する事を目標に据え、各ポイントで自分が何をしたいのか、はっきりさせよう。ビッグサーバーは、君のサーブで突破口を開けないと、イライラしてくるだろう。

彼のサーブに対しては、忍耐強くあろう。彼がコーナーにガンガン打ってきても、精神的に忍耐強く、気落ちしないようにしよう。リターンが返った時には、戦術的に忍耐強くやろう。彼がエースを打った時には、頭を上げたままで「良すぎる」とだけ自分に言い聞かそう。しかし彼がセカンドサーブを打つ時には、返球するために何でもやろう。彼はサーブでフリーポイントを得るのに慣れているから、プレーを続かせて、エラーを引き出そう。

ビッグサーバーは背の高い傾向があるので、ボールを低く沈めるか、あるいは高く深い返球をしよう。そしてセンターから遠ざけよう。4オールや5オールだと、リターンゲームでは賭けに出なければならないかも知れない。しかし早い段階で相手のサーブにインパクトを与え、自分のゲームはキープするよう心がけよう。そうすれば、形勢は君に有利になるだろう。

規則的でないポイント

どんな相手か:純粋なボール・ストライカー(エフゲニー・カフェルニコフ・タイプ)

どうやるか:毎回違った風にボールを打とう。ペースや軌道、回転を変え、高いボールや低いボール、フラットのボールなど取り混ぜて打とう。

なぜ有効か:カフェルニコフやアガシのような純粋なヒッターは、またサンプラスでさえも、ボールを一定のやり方、一定の場所で打つのを好む。アガシはこれをストライク・ゾーンと呼んでいる。そこで君がやろうとすべき事は、ポイントの間じゅう、純粋なヒッターに対して、連続してさまざまなストライク・ゾーンを作り出す事だ。

まず低い球を打ち、次に高く弾むヘビーなトップスピンを打ち、次はフラット・ドライブを打つといった具合に。目的は彼にリズムを作らせず、短い返球を作り出す事で、そうしたらウィナーを狙う事もできるし、ネットに詰める事もできるだろう。

誰もがこのような変化に富んだ、予想しにくいショットを打てるわけではない。しかしクラブプレーヤーはエラーをする確率が高い。もし君がアガシとプレーして、低いスライスを打とうとしたのに浮いてしまい、サービスラインでバウンドしたら、君はもう終わりだ。しかしもし君がその辺のジョー・スミスとプレーして、スライスが浮いてしまっても、おそらく大丈夫だろう。ショットにリズムのないパターン化されていないポイントでは、君がそこそこ上手くやれば、多くのプレーヤーに対して有効なのである。

ご都合主義的なポイント

どんな相手か:クラブレベルの、ただボールを押し返すプレーヤー(プッシャー)

どうやるか:高く深い球を中央に打ち、チャンスが来たらネットに忍び寄ろう。

なぜ有効か:プロの世界では、プッシャーはほとんどいなくなった。どんなスポーツでも、現在の選手はみな、より大きく、強く、優れたアスリートだからである。ベースラインの後ろから緩い山なりのボールを打って、逃げ勝つ事のできる選手はどんどん少なくなっている。相手はとても強く打ってくるので、その餌食になってしまうのだ。

しかしながらクラブレベルでは、プッシャーはいまだに悪夢のような相手だ。しかし彼は、君が考えているほど危険な相手ではない。彼は普通、ベースライン後方の真ん中辺りに位置する。たとえ彼の高くて遅い、安定したショットがコーナーからコーナーへ来ても、打ち返すポジション取りに苦労するほどのハードショットではない。

そこでカギとなるのは、忍耐強くやって攻撃するチャンスを作り出す事だ。プッシャーの両側には、君が利用できるスペースが空いている。自分の位置と相手の位置には注意しておかなければならない。

僕はこのアプローチ・プレーを好む:高い山なりの球を、中央付近に深く打とう。そして相手がベースラインの後方へ10フィートほども下がるのを見たら、ネットに忍び寄ろう。アプローチは深くなければいけない。もし短いと、彼は角度をつけたパッシングショットを楽に打ってくる。君はネットへ詰める充分な時間がとれないからだ。ボールが深いと、相手はパスに角度をつけにくくなる。もちろん、クラブレベルの多くのプッシャーが好む返球は、深い位置からのロブである。だから君はオーバーヘッドに備えるべきだ。

覚えておきたいのは、プッシャーの基本的なプレーは、深い球を中央に打つという事だ。そこで君が突然前へのプレッシャーをかけると、彼は慌てるかも知れない。彼には、ベースライン後方から角度をつけるほどの器用さはない。そして彼がいつもの高いセンターへの返球を打ってきたら、ボレーやオーバーヘッドで狙う充分なスペースが空いているのだ。

鏡のようなポイント

どんな相手か:攻撃的なアタッカー(ジョン・マッケンロー、パトリック・ラフター・タイプ)

どうやるか:両方のサーブ、そしてリターンの大半でもネットに出よう。

なぜ有効か:ひたすら攻撃してくる相手に勝つ1つの方法は、マッツ・ビランデルのような、典型的なカウンターパンチャーになる事だ。もしくはレンドルのような、より攻撃的なカウンターパンチャーになる事。しかしアタッカーがベストのプレーをすれば、よほど遅いコートでもない限り、カウンターパンチャーの勝つ可能性は少ないと思う。アタッカーは激しいプレッシャーをかけ、素晴らしい運動能力を発揮するからだ。

勝つための別の方法は、私がしたように、アタッカーに対して非常に攻撃的なプレーをし、彼にパスを打たせる事だ。彼がプレッシャーをかけてくる前に、彼にプレッシャーをかけよう。私にできたのは速い、攻撃的なポイントだけだったが、それでマッケンローを2回ほど負かす事ができた。もちろん、彼は私を何回も負かしたのだが。

私たちは2人ともサーブが良く、リターンの後ネットに出た。私はリターンにアンダースピンをかけたが、マッケンローはフラット気味のブロックリターンを打った。そういう違いはあったが、ポイントの組み立ては同じ―――リターンを打ってネットに出るというものだった。

1997年USオープン決勝では、パトリック・ラフターとグレッグ・ルゼツキーが、ネットで向かい合うという光景が見られた。彼らはこの「アタッカーをアタックする」という作戦をとっていたからだ。

退屈なポイント

どんな相手か:明らかな弱点を持つプレーヤー(たとえば、バックの弱い、君のクラブのライバル)

どうやるか:弱点をひたすら攻めよう。ボールをそちら側に、繰り返し、繰り返し深く打ち、苦手な場所から、彼に悪いショットを打たせよう。

なぜ有効か:君の相手にとっては、速いポイントはむしろ楽なのだ。彼が自分の弱点の事で、精神的な苦境に立たされる時間がないからだ。もし君がポイントを引き延ばす事ができれば、相手が硬くなる見込みはもっと高くなる。相手の弱点を攻めたいが、ネットに詰めて相手にパスを打たせる必要はない。ステイバックしてボールを繋いでいても、勝つ事ができる。おそらく彼は、君とラリーを続けるだけの忍耐心も、手段も持っていないだろう。そして君は勝つだろう。彼はエラーをし続けるからだ。


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