アメリカ版TENNIS
1996年9月号
素晴らしいポイントから学ぶ事
文:Pete Sampras、プレイング・エディター
  Alexander McNab
写真:Dom Furore


1995年USオープン・チャンピオンが、優勝へと導いた
スリリングな22本のラリーを分析する


このポイントのビデオを見ると、いまでも僕はワクワクする。1995年USオープン決勝の第1セット、アンドレ・アガシ4-5でのサービスゲームで、アド・アウト(デュース時のブレークポイント)の場面だった。

2ポイント前の30-40、僕の最初のセットポイント(ブレークポイント)の時、フォアのチップ・リターンをネットにかけてしまった。そしてデュースになり、今度はアガシがフォアのスイングボレーをミスし、僕に2回目のチャンスが巡ってきた。

なんだか奇妙な、風の強い日で、その時まで僕たちのテニスは、あまりいい出来ではなかった。まるでこのポイントのために、それまでセーブしていたかのようだった。そしてそれから、僕たちは2人とも同時に、可能な限りの素晴らしいプレーをした。そのポイントでは、22回のストロークが続いた。アスレチックなポイントだった―――両者が動き続け、打つ方向を変え、走り回った―――そして僕はそのポイントを取るために、自分の運動能力を活用した。

第1セットはとても重要だった。試合のその後の流れを作り出すものだったのだ。そして僕は流れを掴み、第2セットを楽に取り、結局4セットで勝利した。このポイントは試合の大きなカギだった。

そのラリーの中で打った何本かのショットを、再現しようと思う。それを大きな写真で見せ、僕が何をやろうとしたのか指摘する事で、君たちが試合の重要なポイントで、うまくやる手助けができるかも知れない。
(編集部注:すべてのショットは順序どおり、各ページ下の小さい写真で見られる。CBSテレビの好意により、ビデオからおこしたものである)

ポイントはアガシのセカンドサーブで始まった。僕は回り込んでフォアハンドを打った。少し用心して打ち、プレイが続行した。僕の次のショットはバックのクロスだったが、短めになり、中央寄りにバウンドした。彼は回り込み、僕のバックのコーナーに、逆クロスのフォアを打ち込んだ。僕の次のショットはストローク6。

ストローク1:アガシがサンプラスのバックにセカンドサーブを打つ。
ストローク2:サンプラスは回り込んで、逆クロスのフォアリターンを打つ。
ストローク3:アガシはバックで、深いクロスのトップスピンを打つ。
ストローク4:サンプラスはクロスのトップスピン・バックを打つが、少し短く、中央寄りになる。

ストローク5:アガシは回り込んで、フォアの逆クロスを打つ。
ストローク6サンプラスは急いでベースライン後方に下がり、守備的なバックのスライスで返球する。
ストローク7:アガシはその場しのぎのフォアの逆クロスを打つが、短くなる。
ストローク8:サンプラスはトップスピン・バックをダウン・ザ・ラインに打つ。

ストローク6:踏みとどまろう

僕が3回目に打ったクロスのバックハンド・スライスは、この写真で示したのと同様で、守備的だが、ラリーに戻るためのものだった。カギは深く打つ事。ラリーに戻る時間を稼ぐだけでなく、実際アガシに、次の決定的なショットを打たせなかった。彼の次のボールに対し、僕は踏み込んで攻撃的なバックのダウン・ザ・ラインを打ち、彼を走らせる事ができた。

ここから学ぶ事:重要なポイントでは、ボールを返すためには何でもやろう。愚かなショットを強く打つより、賢い守備をしよう。




ストローク9:アガシは走って、高く深いトップスピン・フォアをライン沿いに打つ。
ストローク10:サンプラスは後方で備え、高く深いトップスピン・バックをセンターに打つ。
ストローク11:アガシはフォアの逆クロスを打ち、サンプラスのアド・コートのサービスライン内側でバウンドする。
ストローク12サンプラスは回り込んで、フォアのダウン・ザ・ラインをアガシのフォア側に打つ。

ストローク12:主導権を握ろう

アガシはボールを早いタイミングで打ち、相手を走り回らせてプレーを支配するのが好きだ。彼は中央に位置し、回り込んでフォアを打つのがとても上手いが、コーナーに走っていってのフォアは、それほど効果的ではない。だから試合全体を通して僕が狙っていたのは、チャンスが見えたらすぐさま主導権を握り、彼を動かす事だった。

それが、バックのダウン・ザ・ラインで僕が試みた事だった(ストローク8)。しかし彼はループの球を返し、僕に高いバックを中央に打たせた。それは効果的なショットになった。深くて、彼は後ろに下がる事になったからだ。

それで僕は回り込み、12番目のストロークで、バックのコーナーからダウン・ザ・ラインにフォアを打ち込む事ができた。これを僕のヒッティング・パートナーのアルバロ・ベッタンコは「インサイド・イン」と呼んでいる。そのショットで僕はポイントを取ろうと試みた。糸口が見え、攻撃をかけたのだ。

主導権を握るチャンスが見えたら、それを逃してはならない。特に重要なポイントでは。慎重になりすぎてはいけない。ちょうどいいバランスを見つけなくてはならない。僕はそれを「コントロールされた攻撃」と呼んでいる。




ストローク13:アガシは走って、クロスのフォアを打つ。
ストローク14サンプラスは走って、角度のあるクロスのフォアを打つ。
ストローク15:アガシは走って、深いフォアをライン沿いに打つ。
ストローク16:サンプラスはトップスピン・バックをセンターに打つ。

ストローク14:頭を使い、相手の強みに攻撃しよう

自分がプレーの主導権を握り、彼を走らせる事ができたら、僕はアガシの強みであるフォアハンドを攻めた。この場面では、もし彼が僕の「インサイド・イン」に追いついたら、多分クロスに打ってくるだろうと分かっていたが、彼はその通りにした。僕のお気に入りのショットの1つである、ランニング・フォアハンドのお膳立てができた。フォアのいいスイングができる時はいつも、僕は強く打っていく。
選手の強みに攻めていく事ができる………正しいやり方なら。

そこで僕はもう一度彼のフォアに、鋭く角度をつけたクロスを打ち、彼を激しく走らせた。彼はコートの外に追い出されたれただけでなく、守備に回らなければならなかった。しかし次のバックを打つ時、僕はちょっと入れ込みすぎて硬くなり、クロスに角度を充分つけられず、ポイントを終わらせる事ができなかった。

彼はバックでセンターに返してきて、僕はまたクロスのフォアを打った。そこからは、ただもうすさまじかった。僕たちはお互いに3回続けて、より角度をつけたフォアを打っていった。




ストローク17:アガシは立ち直り、バックでセンターに返す。
ストローク18:サンプラスは深いクロスのフォアを打つ。
ストローク19:アガシはワイドにクロスのフォアを打つ。
ストローク20:サンプラスは走って、クロスにランニング・フォアを打つ。

ストローク21(左側):アガシはワイドに走らされ、フォアを中央に打つ。
ストローク22(右側)サンプラスはオープンコートに、トップスピン・バックでクロスのウィナーを放つ。

ストローク22:最後まで集中を保とう

最終的にアガシを走らせた後、火の出るような打ち合いの中で、僕は2回目のクロスのフォアを打った。彼は完全にコートから追い出された。彼の返球が中央寄りのバックに来た時、僕がバックのサイドライン近くに打ちさえすれば、彼は追いつけないと分かった。

最後のバックを打つ時、僕はただ正しい事をやろうとした。それはボールに集中する事だ。
オープンコートに打つ時は、コートや相手を見たりせず、ボールから目を離さない事。

スコアを気にせず、どのポイントも同じようにプレイすべきだという意見を聞くが、それは不可能だ。アガシと僕があの素晴らしいポイントで頑張ったのは、両者とも、その重要性を知っていたからだ。

僕はためらったりせず、激しく攻撃するよう自分に言い聞かせていた。もしそれでミスをしたら、それはそれで仕方がない。

ラリーの間に僕は3回クロスのフォアを打ち、それはウィナーになったかも知れない球だった。しかしアガシはこのポイントがいかに重要かを知っていたから、追いかけたのだ。そのようなポイントをプレイする時には、尻込みしてはならない。


テニス指南目次へ戻る  Homeへ戻る