アメリカ版テニス
1996年2月号
勝つ事を習慣づける方法
文:Pete Sampras、プレイング・エディター
  Alexander McNab


目標、指導、フィットネス、そしてストロークの上達が、
成功を持続させるカギ



奇妙に聞こえるかも知れないが、試合に負けるのも良い事である。負ける事で、勝利を習慣づけられるのだ。

何が悪かったのかを学び、何に取り組む必要があるのかを理解できる―――ショット、戦術、精神的な取り組み、フィットネス、それともそれらの要素の組み合わせなのか。

ジュニアの頃、もちろん僕は負けるより勝つ方が好きだった。しかしたとえ負けても、それは世界の終わりではなかった。それが変わったのは、プロのアスリートになってからだ。

自分が負ける事を本当に憎んでいると知ったのは、2つのつらい敗戦を経験してからだった。それに気づいてから、僕はもっと堅実な勝者となっていった。

1つ目の敗戦は、1992年ウィンブルドン準決勝 / ゴラン・イワニセビッチ戦だった。タイトルに近い所までは行ったが、大きなタイトルを獲れると自分に証明する必要があった。

それから1992年USオープン決勝で、ステファン・エドバーグに敗れた。僕は本当に打ちのめされた。その試合は、1993年にウィンブルドンで初優勝するまで、僕の感情を食い荒らした。

僕はそれらの試合に負けた時の気持ちを憎んだ。5年前だったら分からないが、いまは言える。勝利へ駆り立てるものを僕自身の中に見つけるのには、このような敗戦が必要だったと。


峠を乗り越えると、勝利はさらなる勝利を生み出す。自分を信じる事が習慣となる。トップ選手とたとえば50位台くらいの選手を分けるものは、試合の決定的な場面で現れる。3オールや4オールの場面で、トップ選手は勝つのに必要なだけレベルを上げるのだ。

その中には評判・名声も含まれる。僕自身、それだけで勝った試合もたくさんある。ひとたび勝者と認められると、対戦相手は硬くなり、加えて自分は試合に勝つ経験を積んでいる分、重要な場面で何をすべきか知っているだ。

たとえばブレークポイントを握ったら、僕は回り込んでフォアを打とうとするだろう。相手はダブルフォールトを犯したくないので、少しサービスを加減するだろうと分かるからだ。また心構えも進歩する。「僕は勝つだろうと思われている。そして僕自身、何があっても勝つぞ」と。勝ちを期待・予期する事で、より勝つようになるのだ。

モチベーションを持とう

高い目標を設定する。
ウィンブルドンのタイトルを獲得する事や
他のメジャー大会は、
僕のモチベーションとなる。

常に勝者となるためには、目標が必要である。僕にとって1位になる事は重要だったが、むしろ二義的なものだった。ジュニア時代からの長期的な目標は、メジャー・チャンピオンシップ、特にウィンブルドンで優勝する事だった。過去の偉大な選手たちを振り返る時、グランドスラムで優勝した回数に目がいく。それが僕をやる気にさせ続けるものだ。

君の目標は、多分クラブのチャンピオンシップ優勝だろう。長い目で見た取り組み方をしよう。まず当座の目標を据えるのだが、決して最終目標を見失ってはならない。その目標に向かって努力する事で、より優れた勝者になれるのだ。

また試合の中でもモチベーションが必要だ。僕に有益な事は、君にも有益なはずだ。僕は劣勢にある時、いつも自分に言い聞かせる。「相手に僕を負かす満足感を与えたりはしないぞ」と。そして勝つためにはなんでもする。みっともない勝ち方でもかまわない。なぜなら、勝つという自分の目標を達成したからだ。


良いアドバイスを得よう

専門家の意見を求める。
ティム・ガリクソンのコーチングは、
僕を成功へと導く重要な要素となってきた。

協力的な人々―――友人、家族、コーチ、トレーナーが周りにいてくれる事は、勝利を習慣づけるのに不可欠だ。コーチもしくはティーチング・プロがカギである。自分では分からない時に、君のしている事を見る「眼」を持っている人が必要だ。

ティム・ガリクソンと仕事を始めた時、彼はまず、僕のストロークの抜本的な変更はしないと明言したが、必要ないくつかの目立たない点を指摘した。たとえば、僕は左利きの選手が苦手だった。ティムと僕は、まずデビスカップでのギー・フォルジェ戦とアンリ・ルコント戦の反省から始めた。彼は僕がサービスをリターンする時、右利きとの対戦時と同じ位置に立っていると指摘した。

1994年ウィンブルドン決勝 / ゴラン・イワニセビッチ戦の前、彼はそれを僕に思い出させ、ゴランのベストサーブ―――僕のバック側へ切れていくスライスサーブ―――に対処するため、少し後ろのより左側に構えるよう指示した。それは効いた。以後、左利きに対する僕の成績は向上した。

ティムはまた、プレッシャーのかかった場面では、僕のトスは充分コートの内側に上がっていないと指摘した。それはいつも僕が取り組んでいる事だ。このような、細かい事に対する鋭い「眼」をコーチが持っていてくれると、勝ち方がよくなってくる。

良いコーチとは、自分のゲームを理解していてくれるだけでなく、意志の疎通がうまくいき、なおかつ尊敬でき、好意を持てる人だ。ポール・アナコーンは、僕がツアーに参加した17歳の時からの友人だったが、ティムが病に倒れた時、ポールにしばらくの間、助けてもらおうと決めた。ポールはいま挙げた資質をすべて備えていたからだ。ポールのアドバイスがもたらしてくれたものは、見ての通りである。

体調を整えよう

テニスに特有のトレーニングをしよう。
僕はサービスやグラウンドストローク強化のため、
メディシンボール投げをよくやる。

才能だけではトップになれない。助けとはなるが、同時にハードワークも必要だ。勝利への1つのカギは健康を保つ事だが、僕にはそれが時々問題になってきた。総合的な体調も大切だが、テニスに特有のフィットネスも必要なのだ。

1994年USオープンで起こった事がその例である。あの夏、ウィンブルドン優勝後にオランダで行われたデビスカップで足首を痛め、僕は5週間プレーができなかった。その間ずっと、エクササイズ・バイクを漕いでいた。だからエアロビクス的な体調は整っていた。

しかしテニス向きの体調はなかった。USオープンでは、僕の身体は3セットまでしかもたなかった。5セットをプレーするより、ツール・ド・フランスに出た方がうまくやれたかも知れない。

プロになって以来、僕はあらゆるトレーニングをやってきた。重量挙げ、バイク漕ぎ、メディシンボール投げ―――サービスのためには頭上から、グラウンドストロークのためには左右両側から―――、コーンを使ったテニス特有の前後へのフットワーク等々。何が自分に最も有用か理解しなければならない。

助けも必要かも知れない。僕には、あまりトレーニングをやる気の起きない時も、プッシュしてくれる人が必要だと感じている。現在トッド・シュナイダーと取り組んでいる強化トレーニングのプログラムは、大会に出ていない時は少し厳しさを緩め、大会中はより熱心にやるというものだ。それは怪我を避け、勝つ事を助けてくれる。

上達しよう

目的を持って練習する。
僕はサーブに取り組む際には、
具体的なターゲットを据える。

ティムと組む以前、僕は飽きっぽくて、練習もあまり真剣にしていなかった。いまでも2時間ほどすると飽きてしまうが。そこでティムは「パンクするほど1時間半やろう、それからゴルフコースへ行こう。だが90分間は、試合をするのと同じ気持ちで練習するんだ」と提案した。

僕はそういう心構えをした事がなかったし、とてもきつい。だが効果がある。練習を短く楽しいものにできる。真剣に1時間やるのは、ただおざなりに3時間やるよりも有益なのだ。

大会に備える時の、僕の練習の日課は、以下のようなものである。

午前中は、特定の技術的な練習に取り組む。たとえば、僕のサービスの正確さは、集中した練習の賜物である。

コート中央、身体の正面、ワイドコーナーに、テニスボールのピラミッドをターゲットとして置くのだ。多少の運も作用するが、充分練習を積めば、実際ターゲットに当てられるようになる。

午後は、誰かと試合形式の練習をする。この時、試合中にあまりやりたくない事を、敢えてやるべきだ。それが上達する方法だからだ。

試合形式の練習では、僕はセカンドサービスでもサーブ&ボレーをより多く試みる。練習試合でも勝ちたいけれど、そのために違う事への試みをやめたりはしない。僕のゲームに新しい要素を加え、大切な試合に勝つのに役立てるのが目標だからだ。


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