アメリカ版TENNIS
1994年2月号
ピート・サンプラスのサーブ
文:ティム・ガリクソン&トニー・トラバート
  アレクサンダー・マクナブ



編集長コラム/ベストからのレッスン

我々の指導ページが教室だとすると、最高の指導陣をそろえていると言えよう。指導記者アレクサンダー・マクナブは、今月号の指導記事を準備しながら、私にそう話した。アレックスは1987年から1990年まで本誌の編集者を務め、その後フリーランスとなった。昨年の5月、彼は「テニス」誌の指導記事の監修に戻ると了承してくれ、我々はとても喜んだ。これは彼にとっても楽しい仕事である。たとえば、39ページから始まる「ピート・サンプラスのサーブ」で彼の仕事ぶりを見てみよう。

「テニス」誌に再び加わった初日、スタッフ・カメラマンのドム・フローレと私は、ピート・サンプラスのサーブを3つの違ったアングルから捉えたら、どれほど素晴らしいかについて論じた。それはドムが姉妹誌の「ゴルフ・ダイジェスト」で、プロゴルファーと共にした事だとアレックスは語った。

フォト・セッションはフロリダのサドルブルック・リゾートで行われた。「ピートと一緒にやるのは素晴らしかった」とアレックスは言った。我々はサンプラスのサーブを「ストローク・オブ・ザ・イヤー」、そして世界ナンバー1の彼を「プレーヤー・オブ・ザ・イヤー」(22ページ)に選出した。これは今年から始めたものである。

サンプラスのコーチである指導記者ティム・ガリクソントニー・トラバートが、連続写真でサンプラスのサーブを分析する。

他の指導スタッフ―――ヴィック・ブレーデン、ピーター・バーワッシュ、クリス・エバート、ジャック・グロペル、ジム・レーヤー、スタン・スミス、デニス・ヴァン・ダ・ ミーア―――らが、54ページから始まる「プロのお気に入りのプレー」の編集に協力してくれた。結局のところ、学ぶならベストから教わるのが最善ではないだろうか?

同じくこの年鑑の号では、プロツアーの1993年を振り返り、94年を見通す。特別レポート「女子ツアーが直面する未来」(28ページ)では、編集主任スーザン・フィスク提携編集者マーク・プレストンが、女子プロテニスの挑戦と変化を検証する。

最後に、おそらくお気づきだろうが、ページ数が約11パーセント増えた。また判型をワイドにしたので、新鮮でスッキリしたデザインの中で、より多くの、そしてより大きい写真を使用できる。読者が我々の新しい装いを気に入ってくれるといいのだが。

―――ピーター・フランセスコーニ/ 編集長



ピート・サンプラスのサーブは、1993年テニスシーズンのテーマ・ショットであった。

いくつか統計を見てみよう。サンプラスは4つの主要なサーブ・カテゴリーで、ATPツアーのトップだった:エース(1,011本)、サービスゲーム・キープ率(90パーセント)、ファーストサーブ・ポイント獲得率(82パーセント)、ブレークポイント・セーブ率(69パーセント)。

ウィンブルドンでは、彼は108本のエースを打ち、ファーストサーブの平均スピードが時速110マイル、セカンドサーブの平均は時速97マイルだった。最速サーブは時速123マイル。USオープンでは、83本のエースを打ち、109サービスゲームのうち102ゲームをキープして、ファーストサーブが入った時には、309ポイントのうち277ポイントを獲得した。そして時速127マイルの、大会最速サーブを打った。

しかしスピードは、サンプラスのサーブを決定づけるものではない。抜群のスピンとプレースメント、特にデュースコートのワイドに打つスライスサーブは、対戦相手のバランスを崩す。たとえばUSオープン決勝で、サンプラスはデュースコートのワイドに、時速88マイルのスライス・セカンドサーブで、セドリック・ピオリーンからエースを取った。2ポイント後には、センターに時速123マイルのスピードサーブを打ち、再びエースを取った。彼のサーブが好調の時には、リターナーはサンプラスのオプションすべてをカバーする事ができない。

次ページから、サンプラスのサーブを3方向から捉えた特集を組んでいる。連続写真の分析は、サンプラスのコーチである指導記者ティム・ガリクソンと、トニー・トラバートが受け持った。撮影はフロリダのウェスリー・チャペルにある、サドルブルック・リゾートの芝コートで行われ、スタッフ・カメラマンのドム・フローレがサンプラスの写真を撮った。我々はサンプラスに、基本的なフラットサーブをセンターに打つよう頼んだ。



文:ティム・ガリクソン、指導記者
撮影:ドム・フローレ

1)リラックスして始める

ピート・サンプラスのサービス・スタンスを記述する際、私が使う言葉は「快適」である。彼はリラックスしており、バランスが取れている。硬さが全くない。

ビッグサーブを打つために彼が行っているのは、ラケットを短く持つのとは反対に、掌の下部を余らせてラケットを握っている事だと、私は堅く信じている。

彼が左足のつま先を上げるのは個人的な癖なので、読者は変える必要はない。
2)肩を回す

この角度では少し分かりづらいが、サンプラスがトスを上げる方の腕は、すでに側面へと出ている。それは肩のターンを行っている事を示す。彼の身体は確かにひねられている。

その間、ラケットを握る腕は後ろへ引かれているが、まだ低い位置にある。

多くのプレーヤーはラケットを引くのが速すぎ、従ってバックスイングが高くなりすぎる。この段階では低く保った方が望ましい。それはボールへの加速が増す事を意味する。
3)前方へトスを上げる

トスは上方・前方に上がっている。実際は、サンプラスはこの写真よりも、さらに前方へトスを上げる方が望ましいと思う。試合の時には、彼は多分そうするだろう。

より前方へトスを上げれば、それだけ打点に体重がかけられ、サーブ&ボレーをする場合には、ネットへのより良いスタートが切れる。またボールにより良い手首のスナップを利かせられる。

トスを上げる腕がきれいに伸びている事に注目しよう。
4)肩を傾ける

サンプラスの肩の傾きは、彼がいかに上手くサーブするかのカギの1つである。

この姿勢から、彼のラケットは急角度で上がっていく。それは打点に、多大なてこの作用による力を与える。

この姿勢からは、肩が水平の場合よりも、明らかにより強くボールを打つ事ができる。

いまや彼のほぼ全体重が、前足にかかっている。
5)ボールへと振り上げる

ここでサンプラスの足はまっすぐになり、ボールを追って空中へと跳び上がっている。同じく前方へ向かっている。

彼の肘がいかに上方を指しているかに注目しよう。多くのプレーヤーはボールを低く落としすぎ、そのため肘はより横に回ってくる。

彼はこの姿勢から、強大な鋭い振り抜きを生み出していく。
6)インパクトで伸び上がる

インパクト時、サンプラスの身体がいかに伸びきっているかに注目しよう。他のプレーヤーはもっと低いポジションにいるだろう。

サンプラスの頭は起き、目はボールを見つめている。彼はおそらく、ベースラインの前方2〜2.5フィートの所でボールを打っている。

同じく、彼の下半身もラインの内側にある。それはとても重要である。打つ際の上方・前方への加速を助長するからである。もしトスを前方へ上げ、下半身が後ろに残っていたら、頻繁にサーブをネットにかけてしまう。

長い腕、鋭いスイング軌道、そして頭からつま先まで体重が前方へかかっている事で、サンプラスは打つ際に大きな効力を得るのである。その結果、レシーバーが扱いかねる、高く跳ねるサーブとなる。

7)手首のスナップを利かす

ここに、サンプラスが始めにリラックスしていた結実がある。彼は途方もない手首のスナップと前腕の回内を生み出してきた。それは筋肉がリラックスしていなければ、できなかった事である。

スナップを利かせる動作は、彼のパワーの源である。それはラケットヘッドを動かし、ボールを打ち出すものである。

回内を学ぶには、親指と人差し指だけでラケットを握ってみよう。後ろで振り上げる位置から打点までラケットをスイングさせるにつれ、面がボールに対して直角になるようにしよう。そのためには腕を回内させなければならない。

緩いグリップはスイングを限定しないから、ラケットを直角に振り上げようとすると、ただそのようになるはずである。そしてまさに回内のフィーリングを感じ取るだろう。
8)コートの内側で打ち終える

サンプラスのフォロースルーは、始まりと同じぐらいリラックスしている。

悪いモーションでも、どうにかして身体の向こう側に行くフォロースルーをこしらえる事はできる。しかしサンプラスは、その前に起きたすべての良い事の最終結果として、自然にそれを行う。

彼はコートの内側でフィニッシュする。パワーを最大限に活かすには、そうしなくてはならない。

多くのプレーヤーは、ファーストサーブではサンプラスと同じくらい強くボールを打つ。しかし彼らは充分にトスを前方へ上げない。だから彼ほどの加速力とスナップを得られないのである。



パワーにおけるレッスン
文:トニー・トラバート、指導記者

ピート・サンプラスはテニス界でベストのサーバーである。彼にはパワー、多様性、そしておそらく最も重要な事だが、誰よりも良いセカンドサーブがある。彼は1試合に平均10.3本のエースを打つ。また平均してその2倍のサービス・ウィナーを打つとするなら、それは31のフリー・ポイント、ほぼ8回のフリー・ゲーム となる。大いなる強みである。

左のつま先を上げるサンプラスのユニークなスタート・ポジションは、彼の前足にほとんど重心がかかっていない事を意味する。彼のスタンスは充分に広く取られているので、ただサーブへと向かうのではなく、体重を前方へかける事ができる。彼はトスを上げる腕を完全に伸ばし、望む位置へボールを上げる。正確なトスのために不可欠な事である。同時に、前方へと重心を移し始める。

私はサンプラスが膝を曲げたところから、上方・前方へと伸び上がるのが好きだが、個人的には、サーブの際に空中へ跳び上がるのは指導しないだろう。適切にタイミングを取るのが難しすぎるからだ。彼は腰と肩をひねり、振りほどく事でパワーを得る。ボールを打つ時までに腰と肩は回転するので、腕が身体によって妨げられない。

後ろから振り上げる際、彼の肘がいかに高い位置にあるかを見定めよう。ラケットヘッドが下を向いているのは、手首を後ろへ引いている事を示す。それはパワーの主要な源であり、ヒットする引き金を引くための最終段階である。彼の肘がもっと低かったら、あの位置までラケットを下げる事はできないだろう。もし読者がサーブの速度を得るのに手こずっているのなら、おそらく肘を充分に高く上げていないのだろう。

インパクトの瞬間、サンプラスは完全に伸びきり、ベースラインの内側で前方へ傾斜している。それはかくあるべきように、トスが前方に上がっていた事を意味する。トスを真上に上げると、体重を前方へ移す時、ボールは後方にある事になる。それは次の事を意味する。1) ボールを見る事ができない。 2) ボールを打ち込むのではなく、引っ張る形でコンタクトする事になる。

最後に、ラケットヘッドが手より下にある形でのフィニッシュは、彼がいかに上手く手首のスナップを利かせたか、ラケットヘッドがいかに速くコンタクト・ゾーンを通り過ぎたかを示している。彼は良いバランスでコートの内側に着地する。それゆえ、彼がネットにつきたい場合は、その途上にいるわけで、そうしない場合は、ただベースラインの後ろに下がる事もできるのである。
















ピートのサーブは、いろいろな雑誌で何回も取り上げられてきましたが、これはアメリカ版「TENNIS」としてはおそらく画期的試みだった「3方向からの連続写真による解説」です。日本では常識的な取り組みも、海外では意外とそうでもないんですね。技術解説は日本の雑誌が最も熱心、かつ懇切丁寧です。

この当時のピートのサーブは、膝の曲げも身体の反らし・ひねりもまだ大人しめで、その後ほどのダイナミックさはないようですね。提示されたスピードにも、それが表れています。(当時のスピード計測器が、現在ほど優秀でなかったという説もあります)ハイテク・ラケットへの変更をせず、身体の強化とそれに伴うフォームの改善でサーブのスピード・威力を増していったピートに、改めて唸らされます。

でも、この大人しめのフォームの方が、素人プレーヤーにはかえって参考にしやすいかな?とも思います。ピートのようなフォームで打つには、そのための筋力・関節の柔軟さ・バランスの良さ・超速のスイング………等々が必要ですものね。私には初期のピートのフォームも無理だよ〜〜!(T_T)


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