アメリカ版TENNIS
1991年9月号
サンプラスがレーバーから学んだ事
文: David Higdon


編集長コラム / ベストから学ぶ事

プロ選手のプレーを見る時、私は彼らがする事を選び出し、自分のゲームに取り入れようとする。たいていは―――周りの同僚も請け合うように―――プロのテニスを真似ても、私のゲームに全く何ももたらさない。しかし、たまには、役立っていると思い当たる節もあるだろう。

ピート・サンプラスもまた、このような模倣に没頭してきたと知り、いささか奇妙な意味で慰めとなった。もちろん、USオープン・チャンピオンは、私より少しばかり上手くやってきたが。

「サンプラスが昨年オープンで優勝した後、いかにロッド・レーバーが彼のアイドルであったか、レーバーの試合のフィルムを見て、彼から学んできたかを語った」と、編集主任デビッド・ヒグドンは言う。

「私の最初の反応は、サンプラスは何を学んだのか?だった。次に考えたのは、もし彼がレーバーから何かを学んだのなら、我々にもできないだろうか?という事だった」

ヒグドンは同じ質問を、サンプラスの前コーチ、ピート・フィッシャーにぶつけた。ヒグドンが調べた事は、33ページから始まる指導記事で詳しく述べられている。

「サンプラスはレーバーから学び、模倣する事ができた。レーバーは滑らかでシンプルなスタイルだったからである」とヒグドンは述べる。「我々もまた、レーバーから学ぶ事ができる。なぜなら彼は真似るのが容易だからだ」

ヒグドンとアート・ディレクターのキャスリーン・バークは、レーバーのモノクロ写真を分類し、サンプラスのショットと比較した。「それらの写真は、別のプレーヤーを見る事で、いかに学べるかを示すだろう」とヒグドンは言う。「サンプラスはレーバーのフィルムを見るたびに、自分の目標は何かというイメージを得ていた。基本的に、それは我々が毎月、指導記事でしようとする事である:読者に目指すべき目標を提示する事」

サンプラスは昨年USオープン・タイトルを獲得した時に、目標の1つを達成した。だが今年の大会で、彼は上手くやるだろうか? 提携編集者マーク・プレストンは、USオープン・プレビュー(66ページ)で、男子優勝候補の予想と、女子チャンピオンを争う4人の候補について触れる。これは、この国の最重要テニス・イベントに関する60ページの特集の一部である。

そしてUSオープン優勝者について、2人の元チャンピオン―――ジミー・コナーズとジョン・マッケンロー―――が、テニス界のバッド・ボーイからグッド・ガイにまで、どのように公のイメージを変えてきたように思われるかを検証する。「マック& ジンボ:ならず者から聖人へ」は38ページからである。

―――ピーター・フランセスコーニ / 編集長



USオープンのディフェンディング・チャンピオン、ピート・サンプラスが11歳の時、伝説のロッド・レーバーとヒッティングをした。「ピートはとてもナーバスになり、ボールにネットを越えさせる事もできなかった」と当時のコーチ、ピート・フィッシャーは振り返る

それは合点がいく。サンプラスは2回のグランドスラム(1962年と1969年)、11のグランドスラム・タイトルを獲得した選手と向かい合い、しかも彼のゲームの基礎はレーバーがモデルだったのだから。

「フィッシャーはレーバーのゲームを研究し、僕に『私が指導したいと思うタイプの選手はこれだ』と言い聞かせたんだ」とサンプラスは語る。

「僕はレーバーのテープを何本か見た。そして彼のすべてが好きになった。彼はあらゆるサーフェスで勝つ事ができた。彼の態度も好きだった。彼は優れたテニスをする感じのいい男だった。僕もそのように記憶されたいんだ」

ロッド「ロケット」レーバーの16ミリフィルムは、サンプラスのトレーニング法の重要な部分となった。サンプラスはコート上でフラストレーションのサインを示すのを許されなかった。彼は審判にガミガミ言ったりするのを許されなかった。

ある日、フィッシャーは若い教え子に、コート上で使ってもいい言葉は「イン、アウト、スコア」だけだと言い聞かせた。数分後、サンプラスは叫んだ。「スコア!」

ああ、反抗的な若者。

「レーバーは最後の、真のオールコート・プレーヤーの1人であった」とフィッシャーは言う。「ピートのために設定した目標の1つは、どんなサーブ&ボレーヤーよりも良いベースライン・テニスができる、そしてどんなベースライン・プレーヤーよりも良いサーブ&ボレーができる、という事だった」

サンプラスがレーバーから学んだ事は何か? ページをめくれば、彼ら双方から学ぶ事ができる。

サーブ
コートの内側にトスし、振り抜こう


レーバーはすべてのサーブを攻撃的に打った。セカンドサーブを二義的なものと見なさなかった。もちろん、彼は同時代の多くのプレーヤーよりダブルフォールトが多かった。しかし強いセカンドサーブで、ダブルフォールトで失うより多くのポイントを勝ち取った。

2つの領域に取り組み、サンプラスはレーバーの攻撃的なサービス・テクニックを模倣した。コートの内側にトスを上げる事、そしてセカンドサーブでもラケットを鋭く振り抜く事。

「(優れたサーバーを定義するには)3つの基準を用いる」とアーサー・アッシュは言う。「第1に、セカンドサーブがどれぐらい良いか? 第2に、サーブはどれぐらい深いか? 第3に、サーブを望む所に打てるか?」

フィッシャーはサンプラスに強いセカンドサーブの重要性を強調した。「たいていのプレーヤーはセカンドサーブを入れたがる。そこで頭の後ろにトスを上げ、より回転をかける」とフィッシャーは語る。

「回転を増やすと入る可能性はより高くなる。しかしリターンも同様にかなり易しくなる。トスを前方に上げて振り抜いても、なおキックモーションも取れる。安全性は低くなるが、ボールにもっとスピードを与えられる」

レーバーの身長は5フィート7インチしかなかったが、攻撃的なテクニックのおかげで痛烈なサーブを打った。サンプラスは身長が6フィートになるだろうと予測してレーバーのサーブを真似たわけではなかった。従って、サンプラスは彼の少年時代のアイドルより、フラットでより厳しいサーブを打てるのだ。

リターン
攻撃的に打ち返そう

レーバーにとって、攻撃的なテニスとはサーブとボレーに限定されたものではなかった。レーバーは時に守りのストロークも打ったが、他に選択の余地がない時だけで、基本姿勢は常に攻撃であった。

これはサーブのリターンも含み、相手サーバーに多大なプレッシャーを与えた。「もし彼がかなりのリターン・ウィナーを打てば、対戦相手はファーストサーブを少し抑えて、確率を上げざるを得なくなる。誰もレーバーに対してセカンドサーブを打ちたくなかったのだ」とフィッシャーは語る。

サンプラスもまた、サーブのリターンを好機と見なす。彼はサービスをキープする能力に充分な自信を持っているので、リターンで同じくチャンスを得られるのだ。そしてレーバーと同様、サンプラスの対戦相手がファーストサーブをミスする時には、警戒が必要だ。

「レーバーは相手のミスを高い代償にさせたものだった」とフィッシャーは語る。「どんなミスも、すべきでない事をしたり、あるいは弱いショットを打ったりと、どんな些細な綻びでも、彼は相手に挽回するチャンスを与えなかった」

それは昨年のUSオープン決勝で、サンプラスがアンドレ・アガシに対してした事である。彼は最初のポイントからアガシのサーブに襲いかかり、決して彼を試合に入り込ませなかった。「僕はアガシが攻撃しない事につけ込んだ。彼は僕にポイントの主導権を握らせていた」とサンプラスは語る。

グラウンドストローク
ショットを読みにくくさせよう

レーバーの対戦相手がよく言った冗談は、彼がボールを打った後でさえ、何をしようとしていたのか分からなかったというものであった! 

ダウン・ザ・ラインに打とうとしたのか、あるいはクロスコートに打とうとしたのか分かりにくかっただけではない。スライスを打とうとしているのか、あるいはドライブなのかトップスピンなのか、彼はインパクトの瞬間まで読ませなかったのだ。

読ませにくくするカギは? すべての回転に対し、全く同じバックスイングをする事である。「ケン・ローズウォールは常にラケットを肩の高さに引いた。彼のバックハンドは常にスライスだったからだ」とフィッシャーは語る。

「マイケル・チャンならラケットをウエストの高さかもう少し低く構えるだろう。彼は常にボールをドライブで打とうとしているからだ」

レーバーと同様に、サンプラスはその中間辺りにテイクバックする。彼は同じバックスイングからドライブもスライスも打つ。そして同じグリップを使う。この多才さはサンプラスに有利に働く。対戦相手は最後の瞬間まで、彼がどんなショットを打つかめったに分からないのだ。

「ピートはスライスもドライブも、同じ構えから打てる」とフィッシャーは語る。「彼はフラット・ドライブも、トップスピン・フォアハンドも打てる。またそう頻繁ではないが、フォアハンド・スライスを打つ事もできる」

サンプラスのバックハンドの多才さは、堅実だが限界のある両手打ちから、14歳の時にレーバーのような片手打ちに変える決断をした事に遡る。「片手打ちに自信が持てるようになるのに、たっぷり1年から1年半かかった」とサンプラスは語る。「でも僕は、より攻撃的で完成されたプレースタイルを身につけたかったんだ」

ボレー
コントロールの利いた攻撃性を用いよう

サンプラスはプロツアーの中でも最もパワフルなサーブを持つ1人かも知れないが、ボレーについては同じではない。サンプラスのボレーは激しく攻撃するショットではない。プレースメント重視のショットである。

「ピートに教えようとしたのは、レーバーが用いたコントロールの利いた攻撃性だった。目的はポイントを勝ち取る事だ。できるだけハードにすべてのショットを打つからといって、ポイントを取れるわけではない。

コート中央にボールを深く打ち、対戦相手のミスを待っていては、ポイントを取れない。より攻撃的になれるチャンスを見定める事で、ポイントが取れる。それがより攻撃的になるべき時なのだ」と、フィッシャーは語る。

ボレーによって、普段より攻撃的になれる。なぜか? ネットからの方がベースラインからよりも、ポイントを取るのが容易だからである。対戦相手により早いタイミングで返球し、より鋭い角度をつける事ができるのだ。

しかし攻撃的なボレーが、常にハードヒットのボレーを意味するわけではないと理解するのは重要である。サンプラスはめったにボレーを打ち込まない。ただ相手の球速を利用し、ボールをブロックしてコートのオープンスポットに打つ。

レーバーも同様だった。彼はサーブのロケット弾で攻撃したかも知れない。しかしボレーは運ぶように打った。「レーバーと対戦したら、相手は彼がネットにつくのを望まなかった」とフィッシャーは語る。「彼はめったにボレーをミスしなかった。そして常に望む所へ打ったからだ」


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