3×3の魔方陣

炉辺夜話数学編第5夜

1から始まる整数を順に正方形の形に並べた数の表で、縦横斜めに足すとすべて同じ数になるものを魔方陣という。どんなサイズでも魔方陣ができそうだが、1,2,3,4を2×2の升目に入れて魔方陣にすることはできない。4つの数字の並べ方は4!=24通りあるが、対称性を考慮すると次の3通りになる。

縦横斜めに足してみれば、いずれも同じにはならず、2×2の魔方陣はできないことが分かる。

魔方陣として自明なものは1×1の升目に1を入れたものだろう(魔方陣とは言わないかも)。それでは、その次に大きい魔方陣は何だろうか。2×2ができないのなら、3×3はどうだろう。3×3の9つの升目に1から9までの数を入れて、縦横斜めの和を同じにすることはできるだろうか。

9つの数の並べ方は、対称性を考えなければ9!=362880通りある。対称性を考慮すれば調べる数はかなり減るが、それでも膨大で、人手で探そうと思えば気が遠くなる。そこで、魔方陣の特性を利用して考えてみよう。

まず、縦横斜めの和がいくつになるかを考えよう。9つの升目に1から9までの9つの数が入る。その3つの行(あるいは、列)を考えると、魔方陣の定義から、その和は同じになるはずだ。

3つの行(あるいは、列)を合わせると1から9までの数を1つずつすべて含むから、3行の総合計は1+2+3+4+5+6+7+8+9=45であり、各行(あるいは、列)の和は同じなのだから、それは45÷3=15のはずだ。なお、ここで斜めの並びを考えても、同じ議論はできないことに注意しよう。斜めの並びは2つあるが、1から9までの数をすべては含まず、重複もあるからだ。

次に、縦横斜めの並びをすべて考えてみよう。縦と横と斜めで数の三つ組みが8つできるが、その各組の数の和が15であることは分かっている。したがって、1から9までの9つの数字のうち3つを組み合わせて、和が15になる三つ組みを8つ作ることを考える。各組の3つ目の数は計算できるので、実際には2つの数を組み合わせるだけだから、これを作るのは簡単だ。

1 5 91 6 8

2 4 92 5 82 6 7

3 4 83 5 7

4 5 6

1から9までの数3つで和が15になるものは、この8通りだけである。縦横斜めの数の並びは8つだから、3×3の魔方陣があるとすれば、この8つの三つ組みを組み合わせたものであるはずだ。

ところで、魔方陣の定義から、四隅の数(下図の、4つある)は縦横斜めの3つの三つ組みに、四囲の中央の数(下図の、4つある)は縦横の2つの三つ組に、中央の数(下図の、1つだけ)は縦横斜めの4つの三つ組みに属しているはずだ。

この中で一番制約が強いのは中央の数、したがって、まずこの数を探してみよう。上の8つの三つ組みで、4つの三つ組みに含まれている数は1つしかない。5である。したがって、

となるはずだ。次に制約が強いのは3つの三つ組みに含まれる2、4、6、8で、この4つの数が四隅に来るはずだ。回転対称性を考えれば、2が左上に来ると考えても一般性は失われない。すると、斜めの和が15であることから右下の数も決まり、

となる。残りの4と6も、対称性から4は左下にあるとしても一般性は失われない。つまり、

となる。空欄に入る4つの数は、縦横の和が15であることから計算で求めることができる。すなわち、

これで3×3の魔方陣が完成した。ついでに、1通りしかないことも分かった。

ところで、四隅の数がいずれも偶数であるのは偶然ではない。3つ組みの和は15、つまり奇数であるから、三つ組みを構成する3つの数はすべて奇数か、偶数2つと奇数1つの組合せのいずれかである。

それでは、縦横斜めの和が奇数になるという条件だけから、どこまで分かるだろうか。まず、右下がり斜めの三つ組みを考えてみよう。その配置は次の3通りである。

左端の配置の場合を考えると、縦横斜めが奇数となる配置は次の2通りである。

次に、中央の配置の場合を考える。右上がり斜めの三つ組みは、一般性を損なうことなく次のような配置になる。しかし、三つ組みの和が奇数になるように残りの升目を埋めていくと、中央の配置では、縦横斜めをすべて奇数にはできないことが分かる。

最後は右端の配置だ。中央の配置の場合と同じように考えてみよう。右上がり斜めの三つ組みに奇数が3つ並ぶ場合は、左端の配置と同じだから、考えなくてよい。すると、

という配置が得られる。以上のことから、縦横斜めがすべて奇数となる配置は3通りあることがわかった。

連続する数を配置する場合、偶数と奇数の個数は同じか1つ違いだから、ありうる配置は最後の1つだけ。したがって、3×3の魔方陣があるとすれば、その四隅は偶数である。

さて、1から9までの数を3×3の升目に埋める場合、四隅に入るはずの偶数はどのように配置されるのだろうか。1から9までの偶数は、2,4,6,8の4つ。右上がり斜めと右下がり斜めのそれぞれの和は同じで、中央の数は共通だ。このことから、斜めの三つ組みの両端の数(対角の位置にある2つの数)の和も同じになることが分かる。したがって、2と8,4と6が、それぞれ対角の位置に配置されることになる(対称性を考慮すれば、可能な配置は1つだけ)。三つ組みの和は15だから、その他の数は計算で求めることができる。