小学校の算数では、台形・平行四辺形・菱形・長方形・正方形といった四角形を習う。こうした図形には下の表のような性質があり、全部というわけではないが、教科書でも取り上げられている。
台形 | 平行四辺形 | 菱形 | 長方形 | 正方形 | |
---|---|---|---|---|---|
2本の対角線の長さが同じ | × | × | × | ○ | ○ |
2本の対角線が直交する | × | × | ○ | × | ○ |
2本の対角線が互いの中点で交わる | × | ○ | ○ | ○ | ○ |
1組の対辺だけが平行 | ○ | × | × | × | × |
2組の対辺がそれぞれ平行 | × | ○ | ○ | ○ | ○ |
2組の対辺の長さがそれぞれ等しい | × | ○ | ○ | ○ | ○ |
4本の辺の長さが等しい | × | × | ○ | × | ○ |
2組の対角の大きさがそれぞれ等しい | × | ○ | ○ | ○ | ○ |
4つの角の大きさが等しい | × | × | × | ○ | ○ |
しかし、こうした四角形同士の関係については、取り上げていないようだ。実際、子供たちに上のような表を作らせてみても、台形にはこうした性質は少なく、正方形は盛りだくさんという以外に目だった傾向を読み取ることはできないだろう。しかし、じっくり見ていくと、また違った姿が立ち現れる。
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算数に登場する5つの基本的な四角形は、次のように定義される。
台形 | 1組の対辺が平行な四角形 |
平行四辺形 | 2組の対辺がそれぞれ平行な四角形 |
菱形 | 4本の辺の長さが等しい四角形 |
長方形 | 4つの角の大きさが等しい四角形 |
正方形 | 4本の辺の長さが等しく、4つの角の大きさが等しい四角形 |
宜なるかなといった定義だが、中で長方形の定義だけはちょっと意表を突く。学校では定義を取り上げないのかもしれないが、もしそうなら、取り組んでみる価値はあるだろうと思う。長方形の定義を知れば、図形というものを考える切っ掛けになるだろう。難しい「高等数学」など必要ない。同じ長さに切った竹籤や同じ角度を持つ紙切れを用意し、それを組み合わせていろいろな四角形を作って見るだけのこと。工作の時間やゆとりの時間を使って、わいわいがやがや試してみればいいのである。
ところで、この定義、あるいは上の表を見ていると、台形から正方形まで、何となく「形を作っていく」流れがあるように思えてくる。つまり、一般の四角形を少しずつ形を整えていくと、順次、台形やら菱形やらが現れ、正方形に辿り着くという系列である。実際、台形と平行四辺形には、次の系列が見てとれる。
一般の四角形 | ⇒ | 台形 | ⇒ | 平行四辺形 |
条件なし | 1組の対辺が平行 | 2組の対辺が平行 | ||
つまり、2組ある対辺の平行性を順次増やしていくと一般の四角形から平行四辺形に至る、という系列である。
ところで、平行四辺形には、上の定義と同値な性質がある。
- 2組の対辺がそれぞれ平行
- 2組の対角の大きさがそれぞれ等しい
- 2組の対辺の長さがそれぞれ等しい
- 1組の対辺が平行で長さが等しい
- 2本の対角線が互いの中点で交わる
最初の性質は定義そのものだが、これを含めてこの5つの性質はすべて同値であり、平行四辺形を定義する性質である。
ところで、四角形は四辺形とも言うとおり、4つの角と4本の辺から成る図形である。角には大きさがあり、辺には長さがある。したがって、四角形を角の大きさや辺の長さを比べて分類してみてはどうだろう、と思いつくのは自然の成り行きだ。実際、対辺が平行か否かで、一般の四角形⇒台形⇒平行四辺形という系列が見いだせるのだ。
それと同じように、対辺の長さで見ると、
一般の四角形 | ⇒ | (名前なし) | ⇒ | 平行四辺形 | ⇒ | 菱形 | ⇒ | 正方形 |
条件なし | 1組の対辺の長さが 同じ | 2組の対辺の長さが それぞれ同じ | 4本の辺の長さが 同じ | さらに角の大きさも 同じ | ||||
となり、対角の大きさで見ると、次のようになる。
一般の四角形 | ⇒ | (名前なし) | ⇒ | 平行四辺形 | ⇒ | 長方形 | ⇒ | 正方形 |
条件なし | 1組の対角の大きさが 同じ | 2組の対角の大きさが それぞれ同じ | 4つの角の大きさが 同じ | さらに辺の長さも 同じ | ||||
つまり、正方形は菱形でもあり長方形でもある図形のことなのである。
次に、平行性の系列を次のように書いて、拡張してみよう。
一般の四角形 | ⇒ | 台形 | ⇒ | 平行四辺形 |
条件なし | 1組の対辺が平行 | もう1組の対辺も 平行 | ||
長さや角度の系列に準じれば4つめは「4本の辺が平行」な図形となるはずだが、四角形ではこれはありえないから、前2者よりも系列が短い。平行性の強化ではなく、別の観点を加えても平行四辺形になる。たとえば、長さの条件を加えると、
一般の四角形 | ⇒ | 台形 | ⇒ | 平行四辺形 | ⇒ | 菱形 | ⇒ | 正方形 |
条件なし | 1組の対辺が平行 | その対辺の長さが 同じ | 4本の辺の長さが 同じ | さらに角の大きさも 同じ | ||||
3つめの図形の条件は「もう1組の対辺の長さが同じ」ではない。平行でない方の対辺の長さが同じ場合は、平行四辺形だけでなく、対称な台形の可能性もあるからだ。次に、対角の性質を加えてみよう、
一般の四角形 | ⇒ | 台形 | ⇒ | 平行四辺形 | ⇒ | 長方形 | ⇒ | 正方形 |
条件なし | 1組の対辺が平行 | 1組の対角の大きさが 同じ | 4つの角の大きさが 同じ | さらに辺の長さも 同じ | ||||
この場合は、3つめの図形の条件はどちらの対角でもよい。いずれでも平行な対辺との位置関係が同じだからである。
この3つの系列は、料理の隠し味を思わせる。つまり、十分な甘味(平行四辺形)は、単に砂糖(平行性)を増やしても(1組から2組へ)得られるが、隠し味として塩(長さや角度)を加えても得られ、その方が深みのある味(菱形や長方形)になる。
さて、平行四辺形を定める条件5は、どうだろうか。この条件には、直接的には、平行性は含まれていない。
一般の四角形 | ⇒ | (名前なし) | ⇒ | 平行四辺形 | ⇒ | 菱形 | ⇒ | 正方形 |
条件なし | 1本の対角線が他方の対角線の中点で交わる | 2本の対角線が 互いの中点で交わる | 2本の対角線が 直交する | 2本の対角線の長さが 同じ | ||||
一般の四角形 | ⇒ | (名前なし) | ⇒ | 平行四辺形 | ⇒ | 長方形 | ⇒ | 正方形 |
条件なし | 1本の対角線が他方の対角線の中点で交わる | 2本の対角線が 互いの中点で交わる | 2本の対角線の長さが 同じ | 2本の対角線が 直交する | ||||
この場合は、定義2、3とは逆に、菱形は角度、長方形は長さで規定されるところが面白い。