特許明細書入門 (特許的発想に親しむ)
平成12年10月
秀和特許事務所
弁理士 遠 山   勉
 
【1】はじめに
 発明は新技術であり、人間生活の向上、幸福の実現に有用です。そこで、特許法は、発明を特許権で保護し、奨励しています。この特許権は独占排他権であり、特許権者は特許発明の独占実施をすることができます。このような独占権を獲得することは市場での優位性を確保することとなるので、特許権は企業戦略上、極めて強力な武器となります。特許の有無が企業の存否に関わるゆえんです。
 ところで、我国の特許法は、単に発明をしただけではこれを保護せず、利用のため発明を開示した者にのみ、その代償として特許権を付与し保護しています(特許法第1条)。
 従って、発明者は発明内容を積極的に開示し、その代償として特許を付与するよう国家に対し意思表示しなければなりません。そのための要式行為が特許出願です。法は発明開示の手段として発明利用や審査の便宜等の理由から書面主義を採用し、明細書、必要に応じて図面の提出を要求しています(特許法36条第2項)。
 この明細書や図面は審査の対象となり、また、第3者に発明内容を開示する技術文献の役割を果たし、さらに、特許権として主張すべき技術的範囲を明らかにする権利書としての意義を有します。
 従って、その記載が不十分であると発明利用が十分に図れず、また、権利範囲も不明確になって無用な紛争を引き起こし、あるいは不利な扱いを受ける等の問題を生じかねません。
 以下、発明とは何か、発明の発掘、明細書を書くにあたっての発明の分析、具体的な明細書作成技術を順を追って説明いたします。
 
【2】発明とは
 発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条@)と定義されています。
 自然法則とは、自然の領域(自然界)において経験によって見い出される法則を言います。
 人間の推理力その他、純知能的・精神的活動により発見され案出された法則(数学又は論理学上の法則、例えば、計算方法、作図法、暗号作成方法)、金融保険制度、課税方法、遊技方法などの人為的取り決め、経済学上の法則、広告方法などは自然法則でないので発明とはいえません。
 人間の心理現象に基づく経験則、すなわち心理法則は一般に自然法則でないと解されています。
 コンピュータ・プログラムについては、自然法則を利用したものでないことを理由に保護しない立場がありましたが、近年、これを特許で保護する傾向が高まり、その出願も多くなっております。
 平成12年度の改正審査運用指針(案)では、プログラム自体を「物の発明」として保護対象とするようです。
 
【3】発明の発掘
 発明が重要だ、もっと提案せよ、といってみても、発明はそう簡単に生まれるものではありません。このためには、発明に意識を向けること、日常業務の中から発明を抽出することが必要となります。
 
(3.1)企業における発明の発現態様
 企業における発明の発現形態としては、以下のような場合が一般的なようです。@研究テーマを掲げ、その結果生まれ発明(開発部における発明)
A改善提案制度による発明(従来型QC運動、あるいは発明啓蒙キャンペーン  等の中から生まれる発明)
 
 前者の@の場合は企業研究者の義務として行われる(発明することが仕事)もので、何かの行き詰まりが生じた場合は大きな困難を伴うようです。後者のA
では、いつも提案する人、提案しない人のばらつきが大きく出る可能性があります。そこで、研究に行き詰まりが生じたときの方策、あるいは、誰がやっても何らかの発想を生むことができる方策が望まれます。以下に記載することが、このような問題解決の一助となれば幸いです。
 
(3.2)発明・提案の促進(日常業務の中から発明を抽出する方法)
■発明は発見だ
■機能中心主義(新規機能の発見)
■機能と機能の組み合わせ
■日常業務中での発掘
 
 <発明を発見する>
 
☆発明とは、特許法上は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条@)と定義されますが、技術的思想を創作しなければならないと考えるとそれだけで拒絶反応を起こしてしまい、なかなか発明できません。
 
☆発明、あるいは発明のヒントは職場の中に落ちている。発明者はそれを発見するだけでよいと考えれば気は楽です。それには、発明を発見するための特許的な目が必要です(これは後述します)。
 
<機能中心主義>
 では、どうすれば「発明を発見」できるかです。
 特許法上、発明は、目的、構成、効果からなるとされていますが、発明がなぜ有用かといえば、それが新しい機能を提供するからです。特許法は、その新しい機能を提供する「発明」を特定させるために「構成」が何であったのかを要求します。このようなことからすると、「構成」を認識する前に、「機能」を特定する必要があるといって良いでしょう。
 このような点からすれば、発明を発見するためには「機能」を発見すればよいことがわかります。発明は新しい機能を提供するところに価値があります。そこで、「新しい機能」を発揮するものを探すことが重要となります。
 「機能」を達成しうるすべての構成を発見できれば、最も広い範囲で権利化を図ることができ、いわゆる均等論の問題は回避できる。
 
<機能と機能の組み合わせ>
 公知の機能を抽出し、他の公知の機能と組み合わせてみる。2つの機能を組み合わせた場合、それが元の機能しか発揮しない場合は、単なる組み合わせとして特許されませんが、元の機能以上の新たな機能や効果を発揮すれば特許される可能性があります。現場にあるものの2つの機能を組み合わせてみるだけですので、以外に容易に発明を見いだせるかもしれません。
 
<構成異なれば別発明>
 
 例えば、
     @ Aと、     
       Bと、     
       Cとを備えた装置
という発明や公知技術がすでにあったとします。
 これに対し、
     A Aと、     
       Bと、     
       Cと、     
       Dとを備えた装置
 あるいは、
     B Aと、     
       Bと、     
       Dとを備えた装置
を新たに開発したとします。これらA、Bの発明は、@の発明と構成が異なるので別発明として特許され得ます。但し、Aの発明は@の発明のすべての構成要素を備えているので、いわゆる利用発明といいます。
 このように、従来技術、先行発明などに新たな構成を付加したり、構成を交換することで新たな発明とすることが可能です。
 
<権利一体の原則>
 ところで、第3者が、構成要素A、B、Cからなる装置を実施したら権利関係はどうなるでしょうか?
 この実施は、@の発明の特許権を侵害します。すべての構成を実施しているからです。しかし、Aの発明の特許権を侵害することにはなりません。Dの構成を実施していないからです。このように、権利に抵触しているというためには、すべての構成要素を備えていることが必要であることを「権利一体の原則」といいます。
 この観点からすると、ABCDからなる発明の実施は、Aの発明のみならず、@の発明の特許侵害となります。この点はAの発明の特許権者も同様であり、Aの発明者は特許は取得できても実施すると@の特許発明を侵害する結果となります。これを解決するため、特許法ではクロスライセンス制度を設け、権利調整をしています。
 また、ABのみの実施はいずれの特許発明にも抵触しません。従って、構成要素の少ない発明の方が、権利範囲が広いということが言えます。
 
 この権利一体の原則を覚えておくだけで、発明の発掘の一助となります。
 
<技術上避けられない過程を発明として認識する。>
Aという技術を達成するためにはBという過程を必ず経由しなければならない場合。または、Bという結果が伴う場合で、Bは技術的に技術的に無意味であるなどと思われている場合。
 このような場合、通常の技術者は、技術的に避けられないのである=誰でも同じ結果となる=進歩性なし・・と考えがちになる。
 しかし、Bを構成要素としたAとして発明をとらえて特許出願し、権利を取得できれば、Aを実施すれば必ずBを伴うことになるので、競業者は、Aを実施できなくなる。
 例:
 プラスチック成型により取手付きコップを成型した場合、成型時の熱で取手が白化したとする。何度繰り返しても同じ結果となる。このような場合、技術者は、成型すれば必ず白化するのだからこれは当り前の技術であると認識してしまうおそれがある。
 しかし、白化した取手に着目し、「白化した取手を有するコップ」について権利取得するなら、誰が成型しても「白化した取手を有するコップ」を成型せざるをえなくなるので、非常に強い権利を得られる。
 
<日常業務の中で発明を見いだす>
 発明をするための特別な業務を新たに設けようとすると、それだけでおっくうになる。いままで日常的にしていた業務の中で発明を見いだす工夫をする。たとえば、業務日誌を作成しながら、研究データを作成しながら、発明の認識作業を行う。

【4】明細書を書くにあたっての予備知識
(4.1)発明の種類
 発明には、物の発明、方法の発明、物を生産する方法の発明の3種類があります。ここで、一般に物の発明の方が権利範囲が広いとされます。どの方法で作っても特許に係る物であれば侵害となるからです。また、具体的な物というものを媒介に権利侵害の有無が決定されるからです。
 よって、物の発明>物を生産する方法の発明>方法の発明、の順で権利行使しやすい発明といえます。
 明細書を作成する場合、発明を物という側面から捉えることができるか、方法という側面から捉えることができるかを常に考える必要があります。
 なお、ソフトウェア関連発明では、プログラムを格納した記憶媒体(CD−ROM)自体の特許が認められるようになりました(H9,4,1以降)。
 また、プログラム自体も保護される予定です。
 
(4.2)出願の目的と明細書
 特許出願の目的(特許の利用価値)は、おおむね以下の4つに分けられます。
 各目的に応じ明細書の書き方が異なってきます。
@独占排他権を取得して、発明品を独占販売し、競業者を排除する。
 この場合、権利化する必要があり(独占実施の確保)、しかも、できるだけ広い権利を取る必要があります。従って、先行技術との関係等(新規性、進歩性)も踏まえ、できるだけ広い範囲で特許請求の範囲を書きます。
A防衛出願→自己の実施を確保するため技術を公開する。
 防衛出願の場合、自己の実施を確保できれば足りるので、少なくとも実施例の技術さえ開示しておけばよいといえます。権利取得を考慮する必要がないので、請求の範囲の記載に気を配らなくてもよく、どうせ出願するのだから、先行技術の有無に係わらず、精いっぱい広い請求項として、次に述べる威嚇出願としての役割を持たせる場合もあります。
 
B威嚇出願(牽制出願)→ある技術について特許をとる旨の意思表示をして競業者に牽制球を放る。
 牽制を目的とするので、先行技術の存在は無視し、競業者を威嚇するに足る広い請求の範囲とします。
 
C市場開拓→新規事業を行う先駆けとしてマーケット開拓をするための出願。
 新規事業を行う先駆けとして他社に遅れをとることのないようにするための出願である。特定の分野においてできるだけ多くの出願をし、営業戦略における取引材料とする。時にはBの威嚇出願をも利用する。
 
(4.3)特許要件、開示要件の考慮
 発明が特許されるためには、明細書に記載した発明が実体的特許要件を満たしていること、開示要件を満たしていることを要します。
 実体的特許要件についてここでは詳細に説明しませんが、最低限知っておいて欲しいのが、新規性、進歩性についてです。

新規性
 特許法第29条第1項では、「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一h特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明(公知)
二h特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明(公用)
三h特許出願前に日本国内又は外国において、領布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(刊行物記載)」と規定しております。
 
 これら公知・公用・刊行物記載の意義については、専門書にゆだねるにして、ここでは、これから明細書を書いて出願するという、発明者、出願人にとって気をつけなければならない点に言及しておきたいと思います。
 
 まず、出願前に発明の新規性を失ってはならないという点です。特に以下の点に気をつける必要があるでしょう。
 新規性喪失の典型な例として、以下のような場合があります。
 ●新規開発品を特許部での処理(出願)をする前に営業部員が顧客に提示してしまう、あるいはカタログ等に載せてしまう。
 ●未出願であり秘密保持の必要があることを徹底せずに、社内で公開してしまった結果、社員が第3者に開示してしまう。
 ●試作を社外に依頼し、その結果、公知となってしまう。さらには、依頼先に特許出願されてしまう(このようなことを避けるため、秘密保持契約、権利の帰属関係を明確に取り決めておくことが重要です)。
 これらを防ぐためには、特許部と開発部、営業部等社内での連絡を密にしておく必要があるでしょう。
 
特許法第29条の2(拡大された新規性喪失の範囲)
 特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であって当該特許出願後に出願公告若しくは出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明又は考案と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができません。後願である当該発明は、何ら新規な技術を開示しないこととなるので、特許を受けることができないのです。
 但し、出願人または発明者が同一であるときはこの限りではありません。複数の出願人または発明者が存在する場合、先願と後願でその複数のすべてが同一である必要があります。
 

新規性喪失の例外
 特許法30条によれば、新規性を喪失してしまった場合でも、発明の保護のため、所定の要件の下で新規性を喪失しなかったものとみなされます。
 但し、この規定はあくまでも例外規定であり、この規定の対象となるような環境におかれることは、発明の保護の上で危険です。
 特に、本規定は日本国内でのみ有効ですので、同様の保護のないイギリスなどに出願の予定があった場合、30条の規定の対象となった発明は、たとえ優先権の保護を受けたとしても、新規性を喪失してしまい保護されないこととなります。
 よって、このような例外規定の保護を受けなくともよいように、できるだけ早い時期での特許出願をおすすめします。
 
進歩性
 特許法第29条第2項では、「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない」と規定しています。
 明細書においては、従来技術を掲げ、その問題点をどのように克服したか、前記新規性、進歩性を考慮しつつ記載することが必要です。
 より具体的には、課題認識の新規性、課題解決の困難性、構成の新規性・進歩性、新たな効果の主張等を考慮する必要があります。
 ソフトウェア関連発明でも特許されるためには新規性だけでなく進歩性を有しなければならないのは他の発明の場合と同様で、これら判断は、機能・作用の異同を中心に行われます。
 
 明細書においては、従来技術を掲げ、その問題点をどのように克服したか、前記新規性、進歩性を考慮しつつ記載することが必要です。
 より具体的には、課題認識の新規性、課題解決の困難性、構成の新規性・進歩性、新たな効果の主張等を考慮する必要があります。
 ここで、特に企業内先行技術の取扱いについて注意して下さい。企業内で最先端技術を扱っている技術者に特にありがちなことですが、現在開発している技術の前提となった技術をすべて従来技術として扱ってしまうという問題です。このような企業内先行技術は、企業外に開示していない限り特許法上の公知技術ではありません。したがって、明細書において従来技術として開示する必要はないのです。
 従来技術の記載における注意事項はさらに後記します。
 
(4.4)客観的な表現
 明細書は法律と同じで一人歩きします。つまり、明細書に記載された文章、添付された図面からのみ権利範囲が特定され、その後発明者や出願人が、『その点は○×のつもりで書いたのだ』と主張しても、その文章を読んで客観的に『○×』であると理解できなければ、権利主張できません。よって、明細書はどこの誰が読んでも同じ意味で理解できるように解りやすく、客観的に書く必要があります。(この点は後記の発明の表現方法を参照してください。)
 明細書文章の書き方については後記しますが、より分かりやすい文章を書く方法として、本多勝一氏著「日本語の作文技術」をお勧めします。
 
(4.5)特許手続きと技術者の関係
 @課題の提起(開発テーマ)
 A発明の完成、発明の開拓
 B提案書の作成→特許部へ提出 必要によりインタビュー
 C明細書作成(弁理士、特許部員)
 D発明者による明細書チェック
 E出願
 F国内優先出願(出願日より1年以内に実施例その他のデータ、改良発明の補  充可)発明者は出願した後もその発明の更なる発展が可能かを検討する
 G出願公開(出願日より1年6カ月後)
  発明者は出願日から公開日までは発明を開示することは要注意。
 H審査請求(出願日より7年、実案は4年まで)
 I拒絶理由通知→対抗手段(意見書・補正書の提出)
 J特許査定
 K特許異義申立→対抗手段
 L無効審判(特許権の無効を請求された場合に対処)
 M訂正審判(明細書の不備を特許後に訂正)
 N特許権侵害訴訟(特許権を侵害された場合の対処)
 
 
【5】明細書の形式と発明
 以上説明したことを前提にいよいよ明細書に発明を記載するわけですが、発明をどのように記載するかにあたり、明細書の法形式、法律的意味を知っていただく必要があります。
 
(5.1)発明は「目的」「構成」「効果」からなる。
 発明とは、前記したように、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条@)と定義されていますが、発明は、「目的」「構成」「効果」の記載により特定されます。このうち、特に「構成」が発明の実体を表すものとして重要視されます。目的や効果が「主観的」側面を有するのに対し、「構成」は「客観的」だからです。 
 旧法では、明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成、効果を記載しなければならないと、されていました。
 
 この点現行法では、36条、4項で、発明の詳細な説明は、通商産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。とされ、第36条、5項では、特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。とされました。
 このように、現行法では、目的、構成、効果を書きなさいとの条文はなくなりましたが、発明が、目的、構成、効果を有することに変わりはありません。
 
(5.2)特許明細書の書式
 発明は、「目的」「構成」「効果」からなるのだから、明細書には、【目的】【構成】【効果】という項を設けて、以下のような書式で記載する。というのであれば、そう難しいことではないでしょう。










 

【書類名】   明細書
【発明の名称】
【特許請求の範囲】
  【請求項1】
  【請求項2】
【発明の詳細な説明】
  【目的】
  【構成】
  【効果】
 










 
 しかし、実際要求されている明細書の書式は以下のとおりです。


















 

【書類名】   明細書
【発明の名称】
【特許請求の範囲】
  【請求項1】
  【請求項2】
【発明の詳細な説明】
  【発明の属する技術分野】
  【従来の技術】
  【発明が解決しようとする課題】
  【課題を解決するための手段】
  【発明の実施の形態】
   【実施例】
  【発明の効果】
【図面の簡単な説明】
  【図1】
  【図2】
  【符号の説明】
 
 出願人はこのような書式の明細 
書に発明の目的、構成、効果を配
分して記載しなければなりません。
 よって、発明の目的、構成、効 
果と左記の書式との整合性を図る
必要性が生じてきます。  
 ところで、このような整合性な
ど考えずに、発明者に左記の書式
でいきなり提案書を書かせてしま
えばよいではないか、という議論
が生じるかもしれません。   
 しかし、このような提案書を要
求すると、ほとんど提案書が提出
されなくなります。何を記載して
よいか分からなくなるからでしょ
う。
 本来、特許出願で重要なことは
このような形式ではなく、出願し
ようとしている発明が何なのかと







 

【書類名】   要約書
【要約】
  【課題】
  【解決手段】
【選択図】  図1

 
いうことです。
 よって、結局はその発明の目的、
構成、効果は何であったのかを分
析するのが発明を把握する上で最
も簡便ですので、その分析を行っ
た後、明細書の各項にその分析結
果を分配して記載する方法をとる
のが最良といえましょう。    
 「目的、構成、効果」を上記形式の各項にどのように当てはめるかについては、前記明細書の各項の法的意味が理解されなければなりません。
(5.3)明細書の法的意味
 明細書の各項の法的意味を図示すると、以下のようになります。








































 

【発明の名称】
 

  インデックス
 (権利範囲を限定する側面あり)

【特許請求の範囲】
 

  発明の構成要素を記載し、保護
  範囲=権利範囲を特定する

【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
【従来の技術】
【発明が解決しようとする課題】


【目的】

 

 技術的思想として
 の発明を記載する
    
 思想を記載するので
 あり、個別的な具体
 的技術を記載するの
 ではないことに注意
 発明の保護範囲確定
 の根拠となることが
 多いので、請求の範
 囲に記載した構成要
 素の定義、具体例の
 例示的列挙等をして
 保護して欲しい最低
 限の範囲を明示する
 とよい。

【課題を解決するための手段】









 

【構成】









 

【発明の実施の形態】

【実施例】





 









 

★思想としての発明の
 成立を裏付ける証拠
 として、具体的技術
 を記載する。
★製品化予定の実例 
 試験、実験例など
★実施例の技術の具体
 的構成、実施例特有
 の作用・効果を記載

【発明の効果】


 

【効果】


 

 思想としての効果
 =手段の項に記載し
 た構成のみから生ず
 る効果を記載する。

【図面の簡単な説明】
 

  発明の構成・原理を図で明示
 








































 
 
以上から、明細書の各項目の記載事項と発明の目的、構成、効果の関係がおぼろげながら分かったと思います。この中で、特に発明(目的、構成、効果)と実施例との関係を理解して頂きたいと思います。
 この関係を図示すると、

 

構   成

↑  ↑

目 的 & 効 果

↑  ↑

実 施 の 形 態

(発明を確かならしめる証拠)

 
                                  
という形になります。
 すなわち、実施の形態(実施例)=発明ではないのです。発明者は自身が発明した製品、設計図、実験結果、試験結果そのものが発明であると誤解しやすいものです。しかし、それら自体は直ちに発明ではなく、発明の一実施例なのです。出願に当たってはこの実施例である具体的技術から、思想としての発明を見いだす作業をしなければならないのです。
 そして、思想としての発明を抽出した後、前記形式の明細書の各項目に発明に関する各データを分配して記載するのです。
 
(5.4)明細書各項の詳細な説明
 以上で簡単に明細書各項の説明をしましたが、いざ発明を各項目に書くといっても具体的にどのような事項を書いたらよいのかわからないと思います。そこで、明細書に書くべき事項を別紙に明細書チェックリストとして添付致します。
 
【6】発明の分析(発明に関する情報を入手し、明細書の形式に従って分析する)
 発明を前記明細書に表すについては、発明に関する情報を分析し、明細書の形式に合わせてどのように表現するかを検討しなければなりません。
 発明に関する情報とは、@発明自体の技術内容のみならず、A先行技術が何かということも含まれ、さらにはB発明の応用範囲についての情報も必要となる場合があります。
(6.1)先行技術との関係
 明細書で強調すべき発明の特徴をどのようにとらえたらよいのかという点や、特許請求の範囲をどの程度まで限定したらよいのかということは、すべて、先行技術と発明との関係で決まります。 なぜなら、既に存在する先行技術と同一の発明・考案は新規性なしとの理由で権利化できず、また、新規性があっても先行技術から容易に案出できたものは進歩性が無いとの理由で権利化できないからです。
 また、昭和63年1月より、産業上の利用分野及び解決課題が同一の発明は1つの願書、1つの明細書で出願できるようになりました。しかし、先行技術のいかんにより、解決すべき課題が変わって来るので、先行技術をどこまで調査したかにより、1つの願書で複数の発明を出願できる範囲が決定されます。
(6.2)発明自体の分析
 発明者が発明をされた場合、発明者が認識している発明は、その発明の単なる一実施例である場合が往々にしてあります。従って、明細書にする場合には、その実施例から発明である技術的思想にまで高めていただきたいと思います。
 この作業は、発明の範囲を広げ、優れた明細書を書く上で非常に重要なことなので、その具体的手法を以下に述べます。
(6.3)発明分析手法
 
 次に、発明の分析工程について説明します。
 ここでは発明に関する情報収集工程(前記【3】のこと)で得られた情報を基に、技術思想としての発明がなんであったかを評価し、明細書の様式に合わせて記載する上で必要な情報を際入手し、採取的な明細書作成工程に備えるという工程を行います。
 
 発明を前記明細書に表すについては、発明に関する情報を分析し、明細書の形式に合わせてどのように表現するかを検討しなければなりません。
 発明に関する情報とは、@発明自体の技術内容のみならず、A先行技術が何かということも含まれ、さらにはB発明の応用範囲についての情報も必要となる場合があります。
 これらを前提として、発明の分析手法について述べてみます。発明者が発明をした場合、発明者が認識している発明は、その発明の単なる一実施例である場合が往々にしてあります。従って、明細書にする場合には、その実施例から発明である技術的思想にまで高めていただきたいと思います。
 この作業は、発明の範囲を広げ、優れた明細書を書く上で非常に重要なことなので、その具体的手法を以下に述べます。
 
              発明の静的分析
(a)「目的」「構成」「作用・効果」の項目を有する1枚の紙を用意する。
(b)用意した用紙の各項目に発明者が認識している発明(新規技術・新規機能)をありのままに記載する。発明者が認識している技術は発明の一実施例である。
 @目的の欄:発明者が認識している目的を記載
  開発テーマ、従来の問題点
 A構成の欄:その目的を達成するための具体的にどのようなことをしたか現実  に完成した装置や物を構成要素毎に箇条書する。
  現実に行った方法をその手順に従って箇条書にする。
 B効果の欄:どのような効果が得られたのかを記載する
 
              発明の動的分析
 各項目に記載した事項を客観的に眺め、発明の抽出、分析、明細書作成のための補充データの必要性、新たな開発テーマの抽出などを行う。
 @各構成要素に着目 
★各構成要素が発明の効果を奏するためにどのような機能・作用を有してい る のかを検討する。
 Aその機能と同一の機能・作用をする他の代替構成はあるのかを検討する。 ★正面からの分析、作用・効果からのフィードバックによる分析
    目的達成上の最小限の構成は?
    作用・効果から応用品を考える
    発明の種類を考える
    方法の工程順は逆でもよいか?
★その代替構成と元の構成とを併せた上位概念の構成が本来の発明の構成要素で ある。
★化学物質の場合、その機能や作用が不明確である場合が多い、その場合、近似 の物質が本発明にも使用できないかを検討する。
 B必要データの補充
★各構成要素の作用・効果を裏付けるに足る、すなわち、当該構成が発明を構成 するであろうとの証明となる必要データがあるか否かを検討する(実施例の  補充)。
 C構成要素の機能・作用から別の効果がないかを検討
★別の効果があれば目的自体変更となる場合あり。
    副次的効果から目的が変わるか?
 D構成要素の機能・作用から本発明と異なる概念の別の開発テーマを見いだせ るか検討。
 E従来例を考慮して、発明の必須構成要素の限定を行う。
★物、方法、装置、用途、部品、原料等の各種発明を考える。
★分析結果で得られたデータを明細書の各項目に振り分け、明細書を構成する。
 
     新規開発テーマを捜し出すための技術分析法
 以上の分析方法はとりも直さず新規開発テーマを捜し出すための技術分析法ともなります。
 作用・効果から逆算することにより、今まで認識していた技術とは全く異なるアプローチから当該問題を解決する手段があるのではないか?との推測ができれば、新規技術の開発テーマが見いだせます。
 
        発明を見いだすためのデータ整理法
 ところで、まだ発明をしたという認識がない場合でも、自分をとりまく技術(例えば、日々の実験データ、身近な装置、他社の特許)を上記手法で分析することで新たな開発テーマ等を探し、発明を見いだせる場合があります。
 特に、他社の特許明細書をこの分析方法で分析し、明細書の盲点を探しだし、その部分を研究して新発明を開発したり、あるいは、他社特許侵害を避ける手段を模索することができます。
 その手法を以下説明します。
 
        他社特許発明・従来技術分析手順
 
静的分析
「目的」「構成」「作用・効果」の項目を有する1枚の紙を用意する。
 対象となる特許明細書から
    @目的に相当する記載
    A構成に相当する記載=請求項記載の構成
    B作用・効果の記載
を抽出し、用意した用紙の各項目に振り分けて記載する。
 
動的分析
 
@各構成要素に着目=各構成要素が発明の効果を奏するためにどのような機能・ 作用を有しているのかを検討する。
★その際、特許発明の本質的効果を奏するために、請求項記載の構成がすべて必要かどうかを検討する。
 例えば、「A,B,C,Dからなる装置。」という請求項で、構成要素「C」が本来は不要であるとすると、「A,B,Dからなる装置」は、前記特許発明と同等な効果を得られかつ、前記特許権を侵害しないこととなる。
 
★その機能と同一の機能・作用をする他の代替構成であって、当該明細書に記載されていないものはないかを検討する。作用・効果からのフィードバックによる分析で検討。
 
 例えば、「A,B,C,Dからなる装置。」という請求項で、構成要素「C」と同一機能であるが、「C」とは技術的概念において並列関係にある構成要素「E」が発見されたとする。すると、「A,B,E,Dからなる装置。」は、前記特許権の侵害ではなくなる。
 ここで注意してほしいことは、例えば、特許明細書に前記「C」の具体的例示として、c1,c2,c3が例示されており、これらと技術的に並列レベルにある、同一機能の「c4」が明細書中に記載されていない場合の取扱いである。
 この「c4」は、c1,c2,c3とは技術的に並列関係にあるが、「C」の下位概念であることには変わりはない。従って、「A,B,c4,Dからなる装置。」は、「A,B,C,Dからなる装置。」の技術的範囲に属するもので、特許権の侵害となる。このように、同一機能の代替構成を単に探し出せばよいというものではないことに注意されたい。
 
Aある技術に関連した特許が複数存在するかを確認
 ある技術に関連して複数の発明が特許出願されているのが通常である。
 そこで、複数の発明を前記手法で分析し、その構成を並べてみる。
 
A出願の ○○物質。→構成は A,B,C,D
B出願の ○○物質。→構成は A,B,E,D
 
 ここで、構成を分解し、再度他の組み合わせ、例えば、A,B,C,Eの組み合わせで同一効果の物質が完成するかを確認してみる。
 
 前記A出願とB出願の出願人がどうしてA,B,C,Eからなる発明を出願しなかったのかを考えると、
  (イ)この組み合わせも実験したが、同一効果なし
  (ロ)何らかの理由で技術的不利益伴う
  (ハ)発明者の見落とし等による出願もれ
等の場合が推定されます。
 
 この場合、理由が(イ)であれば、やむを得ませんが、(ロ)の場合であればその技術的不利益を克服すれば、新発明を開発でき、(ハ)の場合であれば、それこそ、棚からぼた餅です。
 
 以上の分析により、他社の特許発明を、その権利侵害をせずに、自社の技術発展の材料として利用できます。
 この分析は、他社技術のパテントマップを併用することで、より戦略的となるでしょう。
発明の分析と目的・構成・効果(まとめ)
 以上をまとめると、以下の@からMの手順となります。なれてくると、これらを同時に行えるようになります。
 
目的
@ 発明の必要かつ最小限の目的はなにか
  とりあえず発明者が認識している目的を記載
K 目的は従来例との関係で決まる。
  従来例を検討すると、発明者が認識していた目的と異なる場合がある。
  従来例に鑑み、構成要素を限定する。
構成
A 目的を達成するための具体的手段(方法の場合手順)を構成要素毎に箇条書
  C 各手段の機能、作用から、その手段と同一の機能を有する他の手段がないか考える。同一のものがあれば、そのものを含めて構成の表現を上位概念にする。
  D 方法の場合、手順の順序を逆にしても成り立つか考える。
  E 物、方法、装置、用途、部品、原料毎に発明が成立するか考える。
  F 各構成要素を縦横で眺め、どのような切り口(構成の組み合わせ)で発明が成立するか考える。
  G 切り口の捉え方で、目的も変わる。
  H 当初認識していた目的を達成する手段として、どの構成が必要最小限か?
    新たに認識した目的があり、それに対応する構成が最初に認識した目的対応の構成より広い場合、それを第1クレームとする。
    捉えた発明毎の実施例があるか確認する。なければ追加実験。
作用・効果
B どのような効果が得られたのかを記載する。
  構成に対応している必要がある。
  目的に対応していない効果は、限定要素の効果である。
  I 前記CからHにあたり、各構成自体の機能を考えておく。
  J 各機能の組み合わせで、どのような効果が出るか考える。その効果が異なれば、それに対応する構成は、新たな発明である。これは前記F〜Hと同時に考える。作用・効果から応用品を考えることができる。副次的効果から目的が変わるか?

明細書作成
L 以上の分析が終わったら、明細書ストーリー展開に必要な図面を作成する。
M 明細書作成開始。通常はクレームから作成(上記分析途中ですでに頭の中にできているはず)。
 

発明の分析例1

発明の分析例2