設例 発明の名称「灰皿」の分析
この灰皿の作用は以下の通りです。
円筒器部→灰を受けて、集める。
つば部→持つ
凹部→たばこを一時的に置く。
発明者(分析者)が認識した発明(技術)は以上です。
ここで、なぜ、「認識した発明(技術)」と言ったのかに注意して下さい。これは、発明者は通常発明を認識しているのではなく、発明が具体化された技術そのものを認識していることを言いたいのです。よって、これを分析して真の発明を抽出する必要があるのです。
発明の静的分析
これを分析するには、まず、何も考えずに、現在わかっていることを、そのまま、【目的】【構成】【作用・効果】の各項に振り分けて記載してみることです(静的分析)。
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発明の動的分析
次に、この静的分析を基に、動的分析を試みます。まず、本発明の構成要素が、以下の3つに限定されるかという点の検討です。
@円筒器部
Aつば部
B凹部
この検討により請求の範囲の最大範囲を決定できます。この検討は、構成の欄の記載だけで行うのではなく、作用・効果の項の記載からフィードバックして行います。
すなわち、@円筒器部は灰を受けるものですが、では、灰を受けるための構造は他にないか、認識していた構成をその作用の側から逆に見て、同一の作用を奏しうる他の手段はないかを逆算します。
この結果、円筒器部→円筒でなくともよい→器部に昇華される、ということがわかります。
A同様に、つば部についてみると、つば部は灰皿を持つためのものですから、持つということをキーワードに、持つ手段を考えます。すると、コーヒーカップの取手、買い物かごのハンドルなどでもよいので、つば部→把持部に昇華される、という結論になります。
B凹部も同様に考えると、図のような凹部でなくともよいわけで、たばこを置ければどのようなたばこ載置構造でもよいことになります。
C次に、これら3つの構成が、本来の目的達成の上で本当に必要なものかを考える。灰を受けるという灰皿本来の目的のためには、器部のみでよいので、請求の範囲には器部のみ特定することとします。
把持部を請求の範囲に入れるとなると、持ちやすい灰皿とすることが目的となり、たばこ載置部を請求項に入れると、たばこを置いて、小休止等の可能な灰皿とすることも目的に入ることになります。
このように、構成を増やすほど、それに対応した目的も追加あるいは変更されることを覚えておいて下さい。
D ここで、請求の範囲にたばこ載置部を入れないことにしたとします。すなわち、思想としての発明の必須要素でないとしたわけです。しかし、そのような場合も、その構成の分析を怠ってはいけません。従来例との関係で、将来発明を構成するものとして特許請求の範囲に記載する必要が生じるかもしれないからです。その場合、出願時に分析をして、類似技術を検討しておけば、より広い範囲で技術的限定をすることができます。
E次に、作用・効果が上記に限定されるかを検討します。
凹部→つば部の強度を増す、という作用があったします。そうすると、この灰皿は、強度を強くする灰皿であるともいえます。これにより、また、目的自体が変わるのです。
以上の分析結果を前記表に記載すると次のようになります。
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特許請求の範囲
【請求項1】 底板とその周囲に起立した壁部からなる灰皿。
【請求項2】 前記壁部に把持部を設けた請求項1記載の灰皿。
【請求項3】 たばこ載置部を設けた請求項1または2記載の灰皿。
以上のようにして、発明者は自己の発明の正確な範囲を認識できます。これまで行ったことは、実施形態レベルの狭い範囲の発明しか認識していなかったのを、思想としてより広い範囲の発明まで最大限に拡張する作業です。
このように、発明の範囲を最大限に拡張した後はじめて従来例との関係を検討します。なお、最初から従来例を考慮して発明の分析を行うことも可能ですが、特許によほど精通していないと、その従来例に引きづられ発明の範囲を適正レベルまで拡張できない場合があります。従って、当初は従来例を気にせずできるだけ拡張してみて、その後従来例との関係を検討するのが賢明です。
従来例との関係による絞り込みは次のように行います。
前記例において、「つば部を円筒器部の周囲に有する灰皿」がすでに知られていたとします。このような従来例が存在すると、発明の範囲を一歩後退させ(技術的に限定し)、例えば、【請求項1】 底板とその周囲に起立した壁部からなる器部と、前記器部の一方から他方へと架設した把持部を設けた灰皿。 というように従来例との差異を付加します。これでも、進歩性がやや不十分と考えられるなら、この請求項1に請求項3の内容を付加してもよいでしょう。