設例 発明の名称「清涼飲料水用缶」の分析
弁理士 遠山 勉
 従来より、清涼飲料水用の容器としては、アルミ缶、スチール缶が主流であり、いわゆる、プルタブ式の開口部が設けられている。
 図1に示す従来製品では、引き上げ用のリング(プルタブ)を引っ張ると、開口片が切り離され、開口部が開く。このため、プルタブと開口片とが缶から離脱して捨てられることとなる。
 これに対し、現在主流となっているプルタブ式の清涼飲料水用缶を図2〜図4に示す。この缶では、プルタブを引き上げると、開口片が缶内部に落ち込むようになっている。このため、プルタブと開口片とが缶から離脱することがない。
 以上の情報をもとに、特許明細書を作成して下さい。

(下図の図2〜図4は、どこでも入手可能なプルタブ式缶です。実際に購入して観察してください)



 
発明の静的分析 : これを分析するには、まず、何も考えずに、現在わかっていることを、そのまま、【目的】【構成】【作用・効果】の各項に振り分けて記載してみることです(静的分析)。

目 的

構 成

作用・効果

(1)従来製品 プルタブと開口片が缶から離脱
(2)離脱したプルタブ等が離散して環境破壊
(3)離脱した開口片は危険




























 

(1)缶本体(天板・底板・円筒形胴部)
(2)天板上の前方後円墳型段差部
(3)段差部で囲まれた平板部

(4)3つの突起




(5)平板部中央に設けたリベット

(6)連結部を残して平板部の所定区域(開口片)を囲む螺旋状の切溝線
(7)2重の切溝線

(8)切溝線内の開口片に設けたU字状突条
(9)U字状突条内の突起

(10)プルタブ
(11)プルタブに設けたリング状部

(12)プルタブをリベットにより平板部に固着する固着部
(13)固着部周りに設けたC字状スリット
(14)C字状スリットの内側中央部に設けられ、突起の一つに係合する係合溝
(15)リング状部を引き上げたとき、開口片を押し下げる押し下げ部
(16)リング状部に対応して平板部に設けた凹部

 

(1)缶本体→清涼飲料水を収容

(2)前方後円墳型段差部→平板部の画成と天板部の強度向上
(3)平板部→プルタブ及び開口片の受容
(4)3つの突起→一つは係合溝に係合してプルタブの周り止め。他の2つはリング状部を平板部から浮き上がらせる。
(5)リベット→プルタブの固定とプルタブ引き上げの際の支点
(6)連結部→開口片の離脱防止
螺旋状切溝線は破断して開口

(7)2重の切溝線→切溝を破断しやすくする
(8)開口片に設けたU字状突条→開口片の強度向上
(9)U字状突条内の突起→プルタブの押し下げ力を受ける
(10)プルタブ→開口片の開口
(11)リング状部→プルタブの引き上げ
(12)固着部→リベットとともにプルタブ引き上げる際の支点
(13)C字状スリット→プルタブのてこ作用の機能向上
(14)係合溝→プルタブの周り止め

(15)押し下げ部→開口片に開口力を加える作用点

(16)リング状部に指を掛けるための空間確保
 

発明の動的分析 : 次に、この静的分析を基に、動的分析を試みます。

目 的

構 成

作用・効果

主目的
(1)従来製品 プルタブと開口片が缶から離脱→離脱したプルタブ等が離散して環境破壊→プルタブ・開口片の離脱防止を主目的とする。

(2)離脱した開口片は危険←PL問題を考慮

副次的目的
(
1)開口性の向上
(2)操作性の向上










































 

(1)天板、底板、筒形胴部からなる容器本体
★内容物を収容する上で缶本体は必須(物が物として自立するための要件)
★天板、底板のない容器は事実上販売されない→事実上の限定でない限定として許容
★胴部は筒状であれば円筒でなくともよい→筒形胴部
()天板上の前方後円墳型段差部→天板の強度向上→段差、突条等の補強手段→補強により剪断力が切溝線に集中しやすくなる→開口片の開口性向上
()段差部で囲まれた平板部
()3つの突起→回転止め、プルタブ引き上げ部のリフト部(天板側に設けてもプルタブ側に設けてもよい)→操作性の向上
()平板部中央に設けたリベット→プルタブ固着部
()連結部を残して平板部の所定区域(開口片)を囲む螺旋状の切溝線→連結部を残して開口片を画成する切溝線
(7)2重の切溝線
()切溝線内の開口片に設けたU字状突条→開口片補強用突起
()U字状突条内の突起→プルタブの押し下げ部当接部、開口片補強用突起兼用
(10)プルタブ→天板に固着された固着部を支点とするとともに引き上げ部を力点、押し下げ部を作用点としたてこ作用による開口具
(11)プルタブに設けたリング状部→引き上げ部
(12)プルタブをリベットにより平板部に固着する固着部→固着部
(13)固着部周りに設けたC字状スリット→固着部周りの引き上げ部側に設けたスリット
(14)C字状スリットの内側中央部に設けられ、突起の一つに係合する係合溝→周り止め
(15)リング状部を引き上げたとき、開口片を押し下げる押し下げ部→開口片を押し下げる押し下げ部
(16)リング状部に対応して平板部に設けた凹部→プルタブ引き上げ部・天板間のクリアランス形成部






 

(1)缶本体→清涼飲料水を収容→流動体を収容→形は問わない
(2)前方後円墳型段差部→平板部の画成と天板部の強度向上→段差、突条、画成部の形状は前方後円墳型に限定する必要なし。
(3)平板部→プルタブ及び開口片の受容
(4)3つの突起→一つは係合溝に係合してプルタブの周り止め →周り止めできれば突起に限らず→周り止め係合部。他の2つはリング状部を平板部から浮上させる→引き上げ部を浮上させるためには天板側・プルタブ側いずれに設けてもよい→操作性向上
(5)リベット→プルタブの固定とプルタブ引き上げの際の支点→プルタブの固着部
(6)連結部→開口片の離脱防止
★螺旋状の切溝線→螺旋状にすることで、切溝線の始端側から終端側へと順次剪断力が伝わる→開口性の向上。
()2重の切溝線→開口片の開口→内側の切溝線が谷状に折れることで外側の切溝線が山状に折り、剪断力が外側の切溝線に集中する→開口性の向上
()開口片に設けたU字状突条→開口片の強度向上→U字状である必要はない
()U字状突条内の突起→プルタブの押し下げ力を受ける
(1)プルタブ→開口片の開口→てこ作用を利用している。
(11)リング状部→プルタブの引き上げ(てこの力点)→引き上げのためリング状である必要はない→単に引き上げ部とする。
(1)固着部→リベットとともにプルタブ引き上げる際の支点→リベットを包含する意味も含めて単に固着部とする。
(13)C字状スリット→プルタブのてこ作用の機能向上→C字状である必要はない→開口性、操作性向上。
(1)係合溝→プルタブ周り止めできればよい→係合していればよい→周り止め係合部→操作性向上
(1)押し下げ部→開口片に開口力を加える作用点→開口片を押下げられればよい→単に押し下げ部とする。
(16)リング状部対応の平板部の凹部→リング状部と平板部間のクリアランスを大きくする→指掛け容易化→操作性向上。クリアランスを大きくできればよい→リング状部を上方に弯曲させてもよい。
 
  分析が完了したら、分析結果による持ち駒に従い、明細書ストーリーを提案書という形で決定します。
  解答例はここ。

 
秀和特許事務所
弁理士 遠山 勉
03-3669-6571
(C) Copyright 1996-2005 Tsutomu TOYAMA