Tarot


誤解を招く平次の発言だったが、次回食事を平次がおごることで決着はついた。
賛同したはずの新一には何のペナルティーもない。
平次だったら確実に殴られる言葉も、新一の場合は免れる場合が多いのははたして人徳なのだろうか。
ともあれ、快斗の機嫌は元に戻ったようである。



「カードに本ついてたからさvちょっとだけ占えるんだぜ?2人の相性占ってやろうか?」
「へ?」
「!」
「あ、やべ」



瞬間硬直した新一・平次両名の反応をみて、快斗がしまったという表情を浮かべた。



「と、友達の相性なんか占えるんか〜 あ、お姉はんコーヒーお替りもらえます?」
「…」
「そ、そうなんだよ。あはははは〜」



それでもとりあえず、フォローの言葉を平次が発したのだったが。そして快斗もそれにのってはみたのだが。
快斗の表情を名探偵工藤新一が見逃すはずも無く。



「……快斗…お前…」
「あ〜えっと〜〜」



こういう時の新一の目を見て、誰が黙秘を続けられるのだろう。
お替りのコーヒーが入り、3人の間に気まずい沈黙が流れる。



「あ〜も〜わかったよっ。降参するよ」



快斗が軽く肩をすくめて両手を上げる。



「気づいてないと思ってた?だって、見てればわかるよ、少なくとも俺には。」
「何の事を、だ?」



先ほどとはうって変わった冷静な新一。
探偵としての顔なわけではないだろうが、2人にとっては大問題だから。
平次の表情は、そう変わらないけれども。



「だから二人の関係。つきあってんだろ?」



ふ、と新一から息が漏れる。すると代わって平次が静かに話し出した。



「何でわかったん?」
「だから、お前の目。服部が新一を見る目って他の誰を見てるのとも違うし。声とか2人の間の雰囲気とか。
 あ〜でも別に他のヤツは気がついて無いと思うぜ?
 俺はお前ら気に入ってるし。よく見てたから。でも誰かに言うつもりも無かったぜ?」



新一はうつむいたまま動かない。平次がそのまま快斗の話を促す。



「何でなん?誰にも言わへんて」
「何で気づいても居ないやつに、そんなのわざわざ言う必要あるんだよ。
 別にいいじゃんか。誰と誰がつきあってたって。新一美人だしって痛ててっ」



美人、の言葉に新一がすぐさま反応する。テーブルの下で黄金の右足が炸裂したらしい。



「似たよーな顔して何抜かしやがる」
「痛てーなー。本当のことなのに。ってだから痛いって!」



テーブルの下で見えない争いが始まっているらしい。平次はちゃっかり自分の足だけ非難させている。
新一と一緒にいるにはそれ相応の運動神経が必要だ。無論、快斗にもそれは十二分に備わっているのだが。



「ギブギブ!!信じてよ。誰にも言わないから」
「まぁそらありがたいけど。俺は別にバレてもええねんけどな。したら工藤に言い寄って来るヤツが減るやん?」



じろ、と新一が平次を睨む。未だ表向きフリーの新一に、女の子からの熱い視線は絶えない。
それはここにいる3人に共通することだ。自分のことを棚にあげて平次が言う。



「わかってるて。そんな恐い顔で睨むなや〜」
「新一って怒らせると恐いな〜服部も苦労してんだなぁ」
「そうなんよ〜。って嘘やっ嘘っ」
「別にわざわざ苦労なんてしてくれなくて、いいんだぜ?」
「くどお〜」



平謝りしている平次を尻目に、快斗がはじかれたように腹をかかえて笑い出す。
さっきまでの深刻な雰囲気はもうかけらも残っていない。



「お前達やっぱりいいコンビだよ。面白すぎ♪」
「こんなヤツと一緒にすんな」
「酷い工藤〜」



平次が泣きまねをしている。剣道で鍛え上げたでかい図体で泣きまね、というのは端から見るとかなり笑える光景だ。
快斗の笑いは止まらない。



「な、誰にも言わないから、ちょっとだけ占わせてくれよv練習したいんだ」
「ぜってーヤだ」
「え〜新一のケチー。じゃ、服部v」
「別にええけど…なんや恐ろしいな」
「失礼だな。大丈夫だよ。じゃ決まりv」



  



思ったより慣れた手つきで本を見ながらカードを置いて行く快斗。ぱっと見、十字架のような形にカードは配置された。
占いの結果の解釈を見ようと、本とカードを交互に見ているうちに再び快斗の笑い声が店に響き渡った。



「な、なんやねんっ」
「あ、悪い。だ、だってあまりにもあんまりなカードが出るから」

新一はカードを置く前に再度お替りしたコーヒーを口にしな
がら傍観を決め込んでいる。これは自分は関係ないと。



「だ、だってさ」



現状
障害
表面の意識
潜在意識
近い将来
過去
本人の状況
相手の状況
願望
最終予想
恋人達
女教皇
太陽
魔術師
裁判の女神(逆)
運命の輪

隠者(逆)
世界
吊られた男



「簡単にしか解釈できないけど、えーととりあえず今はつきあっている。
 けどほとんどプラトニックなのがツライ。
 表向きは何もかもうまくいってるみたいだけど、心の中は、かなり情熱的に相手を求めている。
 過去運命の出会いがあった。2人の出会いのことだろ?前聞いたけど運命的だよな〜v
 将来は…まぁちょっと良くなくて非難されることもあるかもしれない。
 本人の状況としては燃え上がってる恋の炎をたやすことなく、通すことが出来る
 って本のそのまま読んでるだけだからな?
 相手の状況。この場合、新一のことだよな。思いを伝達する勇気が無い。かたくなになってしまう。
 願望は恋の成就。最終予想としては、今はつらくとも尽くせば報われるってところかな。
 どんな感じ?あってる?」



慣れていないと言っていたわりにはすらすらと解釈をする。
快斗のことだ。数度やっただけで、まるで昔からやってたようになるのだろう。



「タロットカード言うたっけ?」



感情のこもらない声で平次が話す。その声を聞いて新一がちろ、と平次に視線を向ける。



「うん?何で?」
「女の子の間ではそこそこ人気あるんやろ?」
「うん?」
「なんや少しわかった気ぃするわ。恐ろしいくらいおうとる。お前イカサマやったんちゃうん?」
「やるかって!練習したいって言ったろ?イカサマやってたら練習になんねぇじゃんよ」
「ほえ〜恐ろしいもんを女の子ってやっとるんやな〜」



平次の顔が苦笑で染まる。
運命の出会い。それは本当にそうとしかいいようの無いことだった。
あの時出会わなかったら、きっと今ここにいない。
これから先のことはともかく。過去は当たっていると思う。
プラトニック云々も。実はつきあってはいるが、ほとんど何も無いようなもので。
思っていることが伝わったのか、新一はなんとも言えない顔をして平次を睨んでいる。



「あ、だから工藤、これは占いやって。俺は何も言うてへんやんか。そんな目で睨むなや〜」
「あたってるって言ってたろ」
「ん〜まぁそれはそんなんやけど」

2人の雲行きが怪しくなってきたので、快斗が助け舟(?)を出す。



「新一もやる?」
「断る」
「ちぇ〜。まぁ無理にお願いはしないけどさ」
「なんやねん。俺ん時とちゃうやんか」
「新一は特別v」
「さよけ」



平次があたってると言っていた。
自分の気持ちがこうもあからさまに出されてしまうなんて、たとえ占いとは言えども耐えられない。
自分で自分の気持ちすら、はっきりしていない…というよりあまり考えていない。
今はただ、平次と一緒に居心地の良い場所にいる。…逃げてるだけかもしれないけど。



「あ、俺予定入ってるんだった。悪い、俺これで帰るけど。服部、サンキューな。頑張れよv新一またな♪」
「おう、またな」
「そんじゃ気ぃつけて行きや〜。事故が多いよってな」

そして慌しく快斗が店から出て行く。ふと気がつくとけっこう時間がたっている。店も混みはじめてきた。
外はもう真っ暗だ。代わりにともったネオンの明かりで気づかなかった。


「…俺らも帰ろか?」
「そうだな」







 



お、終わらない。
どうしたらいいんでしょう。
書きたいところはあとひとつ。
最後に無理やりクリスマスネタでもいいかなあ。
別に話なんて思いつかないし。(時間もない〜)