Tarot 「よv新一v服部♪久しぶり〜♪」 大分寒くなっているはずなのに、まったく冬を感じさせない声がする。 大学で知り合ったこの明るい青年は、黒羽快斗。 常人からかけ離れた器用さと、気楽さ、そしてその容姿のせいで新一・平次と肩を並べる人気者だ。 新人歓迎コンパで得意の手品を披露して、一躍有名人になったのだ。 新一・平次はもとよりメディアに出ていたおかげで、何もしなくても知らないものなどいなかったのだけども。 「よぉ、快斗、久しぶり」 「お〜黒羽、相変わらず元気やな〜」 入学当初のうちに知り合ったので、つきあいは半年を過ぎた。 専攻が別なので、しょっちゅう会うわけでもないが、気が合うので3人でつるんで飲みに行くことも少なくない。 しかし、最近は不景気のせいか事件続きだった上この年末。快斗とは久しぶりに顔を会わせたのだった。 「大分寒くなったから、新一たくさん着せられてんのなv」 しっかり冬本番とばかりに着こんだ(正確には平次に着せられた)新一と、その季節には不似合いな浅黒い肌をした今だ薄着の平次。 新一は元の身体に戻ってから、暑さ寒さに若干弱くなってしまっていた。 ただでさえ世話焼きの平次が、自分と同じような格好で外に出すことは無い。 「しょーがねーだろ、コイツうるせーんだもんよ」 「何言うてんねん。自分すーぐ風邪引くくせに」 「…服部ってホント、お母さん、だよね」 「誰がオカンやねん!」 「だから服部が」 自分が勝てない人間は、両親と新一だけだと思っていたが、快斗もそうであるらしい。 このテの顔に、平次は弱いのかもしれない。 言うだけ無駄だと諦めようと思ってはいる。いるのだが。 そして平次はいわゆる母親ではない。父性愛ですらない。 二人は世間一般で言う…恋人同士という間柄だ。 もちろん、それは快斗にすら秘密だけれども。 一緒に住んで、そういう関係になったのは、ごく最近のことで。 …わざわざ言う事でもないのだし。 「あ、そういや新作カード仕入れたんだv新一見る?」 まだ平次はなにやらぶつぶつ文句を言っていたが、無視して快斗が話を変える。 「おっ、頑張ってんな。新しい手品?忘年会向けか?」 「んv日々精進♪」 気が向いた時だけだが、新一は快斗の手品のトリックを見破ろうと勝負する。 勝率は3割。快斗の腕の方が上手のようだ。 無論、トリックがわかったところで真似は出来ない。 「そんじゃ、どっか店入ろ?」 「今回のこそ、見破ってみせるからな」 「今度のも自信作だぜvそう簡単に見破れるかってーの!」 似たような顔二人で盛り上がって喫茶店へ向かう。夕暮れとはいえ、立ち話には向かない季節。 そこに一人哀愁漂う男が一人。 「あの〜二人とも…俺のこと忘れてへん?」 ![]() 店に入って、飲み物を注文して。 新一の真正面で快斗が新作手品を披露している。 平次は、真剣な眼差しで手品を見る新一の横に座って二人を眺めている。 「はい、これでラストv」 と、いつものように最後は花一輪を慣れた手つきで新一に差し出す。 毎回どこに仕込んでいるのだろう。 快斗の手品はいつも見事で、客(今回は新一)を飽きさせない。 「くっそ〜!もう一回!ぜってー、トリック見つけるっ」 「だめv俺マジシャンだからねvトリック無いんだよ」 「嘘ばっか言いやがって」 「嘘じゃないぜ〜♪あ、マジシャンて言えばさ、このカード買った店にこんなのもあってさ」 そう言って出したのは、トランプに似た絵札のカード。 「女の子が喜びそうだろ?こーゆーのってv」 「なんていうたっけ?これ?」 「トラップカード…とかなんとか」 「罠カードってなんじゃい」 「タロットカード、だよ」 頭を抱えながら快斗が言う。 新一の頭にはデフォルトで事件のことしかないのかもしれない。 「んで、なんでマジシャンなん?」 平次がへこたれずに話題を戻す。伊達に一緒に住んでいない。 立ち直りが遅かったら新一とは暮らせないのだ。 「このカードのTって"The Magician"なんだよ。んで面白いな〜と思って買ってみた」 「カードに名前があるんか?」 「そvIがマジシャンて良くない?俺っぽくて」 「ふ〜ん。手品師が1番のカードなんだ」 新一がカードを1枚1枚まじまじと見つめながら言う。 表裏を確かめているあたり、何か仕掛けでもあると思っているのだろうか。 快斗がくすくすと笑いながら、1枚のカードを新一から拝借する。 「厳密に言えば"手品師"ではないけどね」 「魔法使いって訳すん?魔女…やのうて、えーと…他に言い方あったはずやんな〜」 快斗の手の中で、1枚だったはずのカードが2枚、3枚に増えていく。 新一はまたその魔法の手を食い入るように見つめている。 平次が一人、記憶を探って上を見たり目をつぶったりしている。 「あれ?なんやど忘れしてもーた。魔男やったっけ?」 「間男ぉ!?失礼な!魔術師だよっ!!」 突然のあまりの言葉に快斗が蒼白になってカードをばらばらと取り落とす。 一体何枚持っていたのだか。 そして同じ瞬間、新一は店の店員が驚くぐらいの爆笑したのだった。 しばし後。しこたま殴られた平次と未だに怒りが収まらない快斗をみて新一がひとこと。 「あ〜可笑しかった。確かに快斗っぽいかもな〜♪マオトコ」 「ちょっと待てよ!新一まで〜!俺はぁっ」 やはり、新一が最強なのは確かなようだった。 |