Tarot


年末独特の華やかさで、街は明るく暖かな色に彩られている。しかし雪こそ降らないが、さすがに気温は下がる一方で。
人が混雑してても、寒いものは寒い。

先ほどの占いを気にしてか、もともと言葉の少ない新一はほとんど口を開かずに家に着いた。
機嫌が悪いというより、何かを考えているようなので、平次もそれを遮ることはしなかった。
とりあえず、居間の暖房と電気をつけて、平次がコーヒーを煎れる。



「なぁ」
「ん〜?」
「お前、さっきの占い、本当に当たってたのか?」



真剣な、そして縋るような眼でコートも脱がないまま新一が問い掛ける。
平次は苦笑を否めない。やはり気にしているのだ。



「一応な。せやけど、気にすることあれへんで?」
「…恐ろしいくらい合ってるって言ってたじゃねーか」
「気にしてくれるん?」
「そんなんじゃねーけどよ…」



不貞腐れて新一が下を向いて床を蹴る。そこに小石があったら、間違い無く蹴りそうだ。
平次はくすくす笑いながら、台所のコーヒーを確認しに行く。



「コート脱いで掛けてこいや。もう部屋だいぶあったまっとるで?コーヒーも沸いたし」
「ん…」



  



部屋から新一が戻ってくると、既にコーヒーが2つ用意されている。どちらもブラックだ。



「サンキュ」
「おう」



新一がソファにすわり、コーヒーを口に運び、溜息をつく。そしてぽつりとつぶやくように問い掛ける。



「……服部…さっきの占いのことだけどよ…。
 未来に周りから非難されるとか、お前が…その、ツライとか…オレが…」
「そんなん、カードに決められることや無いで」

突然平次が新一の言葉を遮る。滅多に無いことなので、びっくりして新一が顔を上げる。



「あんな?もしも、あの占いでどんな結果が出とっても、俺、ホンマや〜って言うと思うで?」
「何で?」
「せやかて悪い結果出たら、『いつ工藤に嫌われるか、好きな女出来るか不安で不安でしゃあないもんな』
 て思うし、良い結果やったら『工藤と居れるんやし、そらもお最高や〜v』て思うで?」
「…バーロー」



平次は当然のように、うんうんとうなずきながら話している。



「そんなん、自分の考え方次第やん?合うてたんは過去のコトやで?お前と出会えたってコトや。
 運命の…なんやったっけ」
「Wheel Of Fortune。…運命の輪、だよ」
「なんや、見てへんかった割によう覚えとるなぁ。さすが工藤や〜v」
「るせぇ。で、そんなのより何だよ」



先を急かすくせに、新一はマグカップを眺める振りで平次を見ない。本当に占いの結果を見ていないわけが無く、もちろん全て覚えている。
探偵なんだから観察力があるのは当然だろうと、この場合はあまり意味のない言い訳を考える新一だった。



「せやからな。お前と会ったのが運命やってトコロが合うてるって言ったんやv
 ちゃんとわかってるんやな〜vタロットカードいうんも」
「言ってろよ、バーカ」
「いくらでも言うで〜v女の子やないし、あれをそのまま信じるなんてせぇへんよ。
 この先は俺の努力次第でいくらでも変えられるやろ?」



平次が夢見るように、両手を組んで祈るポーズをとりながらさらに続ける。



「まぁ、最終結果の『尽くせば報われる』ちゅうのんがホンマやったらええなvとは思うけどなv」



にかり、と笑うと組んでいた手をテーブルに置いて、真剣な眼差しで新一を見つめた。



「俺の運命を握っとるんはタロットカードや無い。お前や工藤。お前が俺の運命を決める唯一の存在や。
 お前に出会えたんを、運命の神様に感謝しとる」
「……」



新一は何も言わずに…言えずにただ平次の話を聞いている。
その表情も可愛いな、などと不届きなことを考えて平次が笑みをこぼす。



「もちろんこの先も工藤と居る為の努力は惜しまへんよv」
「…バカにつける薬ってのは無いんだよな」
「くどぉ〜」



冗談のように軽い口調に本音をさらりと滲ませて。平次は冷め始めたコーヒーを思い出したように飲み干した。
たかが占いなんかに振りまわされた事に、新一が自嘲してくすりと笑う。
我ながらバカみたいだ。

やっと笑った新一に安心して、平次が少うし話題を変える。気づかれてるなんて、気づかなかった。



「…バレたの黒羽で良かったな」
「お前が間抜けだから、バレたんだろ。ちょっと気をつけろよな」
「しゃあないやん、お前、綺麗なんやもんってイテテッ」



さらりと、本来ならかなりのショックを伴うはずの事項を平次が確認するように伝えてくる。
サッカーで鍛えた反射神経で、瞬時に平次の頭を殴りながらぼうっと考える。

(ああ、そういえば、バレたんだっけ。でも、もういいや。快斗だし。こいつを…想ってるのは本当の事だ)

努力次第で変えられる、その言葉が新一の胸に染みる。
いつでも前向きな平次の言葉。新一は眼を閉じてそっとかみ締めてみる。



「工藤?」



ふいに眼を閉じた新一に平次が呼びかける。
ゆっくりと眼を開ける新一の瞳は先ほどとは違う輝きを放ち、平次の心臓をいともたやすく居抜いていく。
喉が乾いたようにひりついて、手に持っていたマグカップを見るが、さっき飲んでしまったのを思い出す。



「…報われてねぇのかよ」



口の端を上げて話す新一は不安げな色はすっかり取り払われ、今は挑戦的とすら言える。
平次もその瞳の色に、心拍数が上げられるのを感じながらにやりと笑う。



「いや…それはこれからやから。なぁ…?」



どちらからともなく、唇が重ねられる。
乾いた感触は次第に濡れてきて。
周りの音はもう聞こえない。



…二人の関係はまだ始まったばかりだった。




fin.






 



うう、新年越してしまいました。
しかし、あれですね。進歩は無いのでした。
表でタロット占いしてるので、いろんな依頼が来るのです。
まぁ、結局は自分次第でしょうって事を言いたかったのですが。
どうなんでしょうね。