♪あんだんて♪レポート

講演 『その子にあった出会いを求めて
              ―不登校を考えるー』 (後半)
講師: 高岡健氏 (岐阜大医学部助教授・精神科医)
11月11日(土)
大阪YMCA国際専門学校
高等課程 
表現・コミュニケーション学科
 
 →(前半)

 高岡医師は児童精神医学が専門だが、20代30代など青年期まで含んでいる。
 統合精神医学は、内科外科も含む総合医療の中で精神医学をとらえている。
 ひきこもりの若者とも長い間かかわってこられている。
ひきこもりの若者は「なにもやっていない」と批判されるが、実は平均台の上でポーズをしているようなもの。何もしないでじっと動いていないようにみえるが、その内部ではバランスをとるために大変な努力をしている。静止している位置エネルギーも動き出したときの運動エネルギーも全部換算すれば、エネルギーは同じように使っている。
 さらに「稼いでいない」ことを非難されるが、GNPの半分以上は消費によって賄われている。生産だけの人、消費だけの人はいない。なぜなら引きこもりの人は、自分の体を再生産しているからである。その意味で彼らはじゅうぶん日本経済に参加し、貢献している。
ニートの問題も、イギリスで格差社会が生んだ若者対策から出た「ニート」の概念が、日本に移入されるとき精神主義で意味づけられ、精神力のないものがニートになるといわれた。
 今70〜80万人のひきこもりやニートと呼ばれる人たちが一斉に働き出せば、今働いている人たちは職を失うだろう。そうなると、その人たちは失業者にカウントされる。失業率が一気に増えることになるから、本気でニート対策をしようとは思っていない。
 ニート対策として、農業訓練など行われているが、日本社会で1%しか雇用のない農業に何人が雇用されるだろう。その人たちを表彰し、就労できる職場のない人たちをやる気がないと非難する。それらは政策であり、親は自分の子どもにとってなにがいいのかをちゃんと吟味して、政策によって子どもを追い詰めないようにしないといけない。 

 今の社会には、経済的だけでなくいろんなことに見通しが立たない不安がある。偏差値の高い大学へいっても見通しが立たないし、資格の取りやすい大学へ行っても、たとえば今人気の高い臨床心理士も、就職口がない状態。これだったらいいよと親が差し出すことができない。子どもが回り道をしながら、自分自身で見つけていくしかない。

発達障がいにも言及された。
発達障がいに関しては、近年専門家という人がインスタントに登場して、いろんな諸説が登場している。自閉症スペクトラム、AD/HDはほとんど誤診だろう。自閉症の子どもには、その子の特徴にそったやりかたをする。耳より目から理解しやすいので、スケジュール表を張っておく(時間の構造化)とか一番隅が落ち着く(空間の構造化)とか、環境を個人に合わせていく。人を変えることはできないが、環境を変えることはできるのだから。

不登校、ひきこもり、ニート、発達障がいなど、効率優先の経済社会にあって、否定的に見られる側に寄り添い、社会的歴史的な観点から、専門家としての臨床経験に基づいて語られる話は迫力があり、ぐいぐい惹きつけられた。しかし少数派は、今の社会があるべき姿に立ち戻るように自分の存在からサインを発しているとも言える。多数派がこの人たちを理解し、ともに生きようとする豊かさ、優しさからこれからの社会の希望が、見通しが見えるのだと思った。(フェルマータ)


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