『牙狼<GARO>』の簡単な感想

 『牙狼<GARO>』は面白かったと思うのだ。実はこれまで私は雨宮慶太があまり好きではなかったのだが、視聴してよかった。私のなかでの彼の位置づけがかなり変わった。
 ということで、簡単にネタバレ感想を書いておきたい。

 まずは否定的な話から入っていくことにしよう。
 贅沢を言おうとすればいくらでも言える。理想からすれば『牙狼』は「成長のドラマ」であるべきだった。
 冴島鋼牙は、御月カオルに会ったことで、「使命の盲目的な追従者」から「意志をもった真の英雄」へ成長するべきだった。また、涼邑零は、冴島鋼牙と御月カオルに会ったことで、「過去に囚われた復讐の鬼」からこれまた「真の英雄」へ成長するべきだった。
   ところが実際にはこのへんの描写がほとんどない。鋼牙の煩悶もあまり見えず、零の迷走は「勘違いして御免なさい」で終わってしまう。
 このあたり、弱いといえば弱い。

 私が思うには、このへんの弱さは結局のところ、ヒロインたる御月カオルのキャラの弱さに由来する。
 この人、基本的に最初から最後まで護られ役のお姫様で終わってしまった感がある。最後に牙狼に羽根描いたりしたけどさ。これではダメだと思うのだ。
 ダークヒーローは基本的に「正義だとか愛など俺は追いかけない」ものである。でも、そのダークヒーローが、ヒロインを媒介にして、大義に向かうってのが、待ってましたのお約束の筋である。(一応ヒロインとしたが、もちろん性別が逆転してもかまわないし、子どもを使う手もよくある。)
 こういうわけで、ダークヒーローもののヒロインは、ガンガン行動して非日常の戦いの現場にまで首を突っ込んで、話の主導権を握らねばならないのである。
 ところが、カオルは徹底的に受身で、ただただ護ってもらっているだけである。私の考えでは、彼女はお姫様の位置に甘えてはならなかった。このへんが全体のシナリオの弱さに響いたんじゃないかと私は睨んでいる。

 …と言いつつも、これはすべて『牙狼』は「成長のドラマ」であるべきだったという前提の上での話である。
 昔「成長のドラマとヒーローの論理」で強調したように、成長のドラマを描きつつ燃やそうとするのは、かなりハイリスクな賭けである。とにかく非常に難しいのだ。
 そのあたりを考えると、現行の『牙狼』も悪くない、成長のドラマを描こうとして失敗するよりもはるかにマシだ、とも言えるのである。

 成長のドラマをやらなかったので、主要キャラクターの多くがわかりやすく立った。個々のキャラのお話のなかでの役割がきちんと決まっていてブレなかった。
 冴島鋼牙がヒーローならば徹底的にヒーロー。敗北するときも悩むときも迷うときもヒーロー的に敗北し悩み迷う。このへん徹底していたから、細かい粗が目立たない。たとえ粗があっても、キャラに一本通っていると脳内補完が容易いのである。
 ザルバは常に頼れる兄貴キャラ、倉橋ゴンザは常に忠実な執事キャラ。零は常にスカしたライバルキャラ。そして悪の元締め龍崎駈音…もとい京本政樹は常に怪しさ全開。
 このへんわかりやすくないと、アタマ空っぽにしてアクションのケレン味を楽しめない。その意味で、『牙狼』はあれでよかったんじゃないか、と私は思っている。

 アクションのケレン味の話に移ろう。
 アクションよかったなあ。きちんと馬鹿カッコイイ剣戟を見せたい、という心意気が激しく伝わってきた。そして、コートの翻りの美学がまた私のツボに命中した。いやはや素晴らしかった。
 ただ一つ残念なのは、牙狼にマントが常備されていなかったことである。
 鎧ってものは、どうしても頭が大きくなってしまう。とくに牙狼は狼顔なので鼻面の関係でこの度合いが大きい。そうなると、どうしても下半身が軽くなる。腰から下のボリューム感が足りなくなってしまうのだ。アニメだと誤魔化せるんだがな。
 私の考えでは、そこでマントなのだ。鋼牙だけでなく、牙狼も裾を翻しながら剣を振って欲しかった。バランスよくなると思うのだがなあ。もちろん常時装備しているとアクションに支障が出るのはわかるのだが。
 この観点からして、劇中のギミックで素晴らしいのは轟天である。馬に乗ると、やはり鎧は映える。ここから考えて、最終回の翼は牙狼に生やすべきではなかった。轟天に生やしてあげるべきだった。
 このへんの話で私の頭にあるのは、獣面ヒーローの系譜の大先輩、『快傑ライオン丸』のライオン丸である。ヤツも異常に頭がデカイが、マントのおかげでカッコいい。それに愛馬シェーンは羽根つきだ。このへん、歴史には学ぶべきものが未だ多くあるということであろう。

 あと歌な。「牙狼〜SAVIOR IN THE DARK」好きでさ。前半のインストOPもよかったが、少々背伸びにすぎる感もあった。特撮のOPは素直に血を滾らせてくれるものでいいと思うのだ。
 番組終わってしばらく経つというのに、ふと気づくと「行け〜疾風のごとく〜」と鼻でフムフム歌っているときがある。
 いやはや、OP含め、本当に『牙狼<GARO>』は面白かったよ。

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