我が心の委員長

 委員長も好きなんだよね、委員長。
 眼鏡っ娘属性と姉属性に執着があれば、高い確率で委員長にも弱いと思われるのだが、私もその例に漏れないのである。

 まず、委員長萌えの論理について考察しておこう。
 私の考えでは、委員長萌えの核心は、言ってみれば義務デレにある。
 委員長は委員長であるがゆえに、委員長としての義務を果たさねばならない。委員長の萌え所は、この「義務からの態度」が崩れて「特定の誰かへの想い」が現出するところに成立する。
 義務からデレへの移行、もしくは、義務のなかに垣間見えるデレ、これが委員長萌えを構成するのである。

 近接属性との対比をしてみよう。「姉萌えにおけるコントラストの重要性について」における議論の転用であるが。
 先輩萌えは、委員長萌えに近い。先輩の先輩らしさは、後輩であれば誰にでも同様の態度をとるところにある。そして、先輩萌えは、この後輩一般への態度が崩れて、特定の誰かへの想いが現出するところに成立するのであった。一般性から個別性への転換が核心であるところは、委員長萌えとほぼ同型なのである。
 では、違いはどこにあるのか。その立場を支えているのが、能力なのか年次なのか、という点にあるのだろう。能力がなければ委員長にはなれない。一方、委員長の地位とは異なり、先輩の地位は、能力の優秀さを必要としない。ここに差異がある。
 ここで、姉属性を考えてみよう。先輩属性と姉属性は、どちらも「実力に裏打ちされていなくても偉そうにする」という契機をもつ。これが萌えのツボの一つになっている。しかし、委員長は「実力に裏打ちされて偉そう」なのである。ここが違う。
 委員長萌え。一般性から個別性へ。能力の裏打ちあり。
 先輩萌え。一般性から個別性へ。能力の裏打ちなし。
 姉萌え。個別性から個別性へ。能力の裏打ちなし。
 まとめると以上のようになろうか。

 ところで、具体例に入る前に一つ考えておくべきことがある。そもそも「委員長」ということでなにを考えているのか、ということだ。
 実は、我々の「義務デレ」という切り口で扱えるのは、学級委員長、生徒会長、風紀委員だけである。
 山名沢湖『委員長お手をどうぞ』が興味深い示唆を与えてくれる。読んでみればわかるのだが、ほとんどの委員長が義務デレの形式に乗ってこない。これは、通常の委員職が、たんなる学校の雑事の役割分担を示すものでしかない、ということに由来する。デレに対抗するものとして義務を強調することがしにくいのである。
 では、どうして学級委員長、生徒会長、風紀委員が特別なのか。
 以上の職務が人間関係に関わるものだ、という点が重要である。他の委員職と異なり、学級委員長であること、生徒会長であること、風紀委員であることは、他者に対して職務に基づいた振る舞いをしなければならない、ということを強く含意する。そのため、これらの職務に付帯する義務は、デレとの先鋭なコントラストをなすのである。
 とりわけ風紀委員にはこの要素が強い。そのため、平委員であっても委員長的な扱いを受ける。このあたり、保健委員や図書委員などとは事情がまったく異なるのである。
 というわけで、「委員長」ということで、学級委員長、生徒会長、風紀委員を中心に扱うことにしたい。

 では、具体的に委員長を挙げるとどうなるか。選択の基準は私の主観なので悪しからず。最近の作品への目配りがあまり利いていないのは、いつものことである。
 最近のゲームでぱっと思いつくのは、やはり『処女はお姉さまに恋してる』の厳島貴子(生徒会長)である。清々しいまでの王道(女王道と言うべきか)を威風堂々と進んでいる。
 ただ、ゲームということになると、私はどうしても古いところ(そしてマイナーなところ)に目が向いてしまう。実は私にとっての委員長の双璧は、『ファイヤーウーマン纏組』の美山玲子(風紀委員)と『星の丘学園物語〜学園祭』の水沢翔子(生徒会副会長兼学級委員兼学園祭実行委員長)なのだ。当時のギャルゲーは熱かったなあ。
 もちろん、90年代ギャルゲーと言えば、『トゥルー・ラブストーリー』春日千晴(風紀委員)を無視することはできない。これまた正統派だ。
 義務デレにもいろいろな現れ方がある。「デレているにもかかわらず義務のヴェールのせいで気づいてもらえない」とか「デレを義務のヴェールで隠す」とかいったパターンが考えられるだろうか。
 梅川和実『ガウガウわー太』の尾田島淳子(学級委員長)の凄みは、このあたりの細かい技を完全に使いこなしている点にある。やぎさわ景一『ロボこみ』神崎香澄(学級副委員長)も上手い。教科書的委員長だ。あとは、畑健次郎『ハヤテのごとく!』桂ヒナギク(生徒会長)や、大高忍『すもももももも』の中慈島早苗(学級委員長)なども素晴らしい。ウマ仮面って…。
 小笠原朋子『悪の生徒会長』の日下部めぐみ(生徒会長)は、義務デレというよりは権力デレとでも言うべきか。変化球である。
 山東ユカ『ヒミツの保健室』の佐々木絵真(保健委員長)は、保健委員長という地味な役職にもかかわらず、保険医の香椎ちゃんが駄目人間なので、我々の定義する委員長的振る舞いをなす。これも変化球と言えよう。
 他にもいくらでも委員長はいるだろうが、さしあたりはこの辺で。

 さて、義務デレから委員長萌えを理解するということは、学級委員長、生徒会長、風紀委員といった職にあっても委員長萌えでは語れないキャラがあるということを意味する。他の属性が強烈に入っている場合、委員長の義務の契機が消えてしまうのである。
 古い例で恐縮であるが、『同級生2』の水野友美(学級委員長)は、幼馴染属性に委員長属性が完全に打ち消されている。また、『To Heart』保科智子(学級委員長)のツンデレの「ツン」は、委員長の義務とは無関係のところで成立している。二人とも委員長でありながら、委員長萌えの典型例とは言い難いのである。『To Heart2』小牧愛佳(学級副委員長)もそうだ。彼女のシナリオの軸をなす図書整理は、委員長の仕事ではなくボランティアだから。
 『つよきす』の二人、霧夜エリカ(生徒会長)、鉄乙女(風紀委員長)も微妙だ。エリカは生徒会長である前に存在そのものが女王様だし、乙女さんは風紀委員長である前に姉である。
 また、委員長が学校云々を超えた重大な責務を担ってしまった場合は、義務デレは起きにくい。組織が義務を超えて堅く結束してしまうからだ。長谷川裕一『轟世剣ダイ・ソード』千導今夜(生徒会長)には、義務デレなどしている暇があまりないわけだ。あと、義務の感覚は子どもにはあまりないので、『絶対無敵ライジンオー』の白鳥マリア(学級委員長)には委員長の香りがあまりしない。地球防衛組の司令官だけどな。

 数多くの委員長を挙げてきた。それらの委員長を統べる存在がいる。
 『魔法戦隊マジレンジャー』のスフィンクス(インフェルシア冥府十神が一柱)である。委員長の神にして眼鏡っ娘の神。そして、『マジレンジャー』の物語のなかで、「闇の戒律」中心主義から脱却して主人公たちの味方に、という、実に見事な義務デレ展開を見せてくれた。なんとも素晴らしい。某『響鬼』に傷ついた私の心を癒してくれたのは『マジレンジャー』、それもスフィンクス様なのである。(あと『牙狼』ね。)
 委員長教信者としての私の信仰心は一途に彼女へと向けられている。

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