1-1「廃園に戻りし日の夕景」

 

先生、私はここに帰ってきました。私だけには感じられる貴方の温もりのわずかに残る 旧校舎の教卓。
  私、この学校の先生になったんですよ、先生と同じ教科の国語教師です。 何でこの学校を志望したかって、それは先生にこうされてすごしたあの夕暮れの一時を またこうしてここで感じたいから。
  先生が私をこうして縛った時、私たちは学校という私たちを縛る常識、生徒と先生という関係から 飛び立つことが出来ました。
 
あの時の縄、まだ持ってるんですよ。私たちを繋ぐ今唯一の絆。今私を縛っている縄が それなんです。 あ、私自分で自分を縛りました。結構上手いもんでしょ、でも後ろを見せると余りカッコよく無いから こうして黒板を背にしています。 これでも練習したんですよ。 ドキドキしながら親の寝静まった真夜中に。あの時、先生が縛ってくれた 時の事を思いながら。
  でも先生、皮肉なものです。私たちを縛る縄は私たちの関係をいろんなことから飛び立たせるものだったけど、今はこうして私は先生との思い出に縛られ、先生は私の思い出のために旧校舎に縛り付けられています。
  旧校舎に先生が出るって噂で聴いた時、私は心を揺すぶられました。 あの時の先生の手紙に残された言葉、先生はずっと守っていたんですね。「またここで会おう」って。
  だから先生、私は帰ってきました。先生の言葉に答えるために。そして先生を、私を縛り付けているものを 解放するために・・・。 いやですね、悲しくなっちゃいます。先生、早く出てきて下さい。
  私、こうしていたらまたあの時の事を思い出しちゃうから・・・、先生を解放出来なくなっちゃうから・・・。私もずっとこのままでいたくなっちゃうから・・・。

 

 

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