シダレラクウショウ(ポンドサイプレス)
Taxodium distichum var. imbricarium

シダレラクウショウ

スギ科* ヌマスギ属(2017.8.6 (尼崎市上坂部西公園))【*APGⅢ:ヒノキ科】

Taxodium:イチイに似た distinchum:2列生の imbricarium:瓦状の

 ヌマスギ(ラクウショウ)は各地の公園や植物園によく植えられ、特に、池のそばでは地面や水中から気根(膝根)を出すことで有名な木である。

この木に近い仲間にメキシコラクウショウがあり、大阪近辺では、大阪市大植物園(交野市)と鶴見緑地(大阪市)に大木があることを本誌(「都市と自然」)2015年7月号に紹介した。メキシコラクショウは常緑または半常緑で気根を出さず、ヌマスギの自然分布域とも重ならない。

ヌマスギの仲間にはもう一つ、変種シダレラクショウ(ポンドサイプレス:英語名を和名に転用)があるが、こちらはなかなか難物で、これぞシダレラクショウと確信出来る木にはまだ尼崎市上坂部西公園(緑化植物園)にある2本にしか出会っていない。

2017.6.23 上坂部西公園 実はシダレラクウショウという和名が曲者で、検索表に記載される典型的な特徴は、小さい葉が密着した短枝が長枝の上に直立することで、「枝垂れ」とは真逆である(ちなみに、変種名 imbrica-rium は葉が短枝に「重なり合うように、瓦状に」つくという意味)。シダレラクウショウに付けられた学名の一つは T. ascendens で、「上昇」を意味するこの種小名は直立する短枝の特徴を表しており、和名としてタチラクウショウを使う図鑑類も多い。(右写真:長枝の上に直立するシダレラクショウの短枝(上坂部西公園2017.6.23))

2017.6.23 上坂部西公園 ところが、シダレラクウショウの形態は一筋縄では行かず、長枝が細長く枝垂れ、それにつく短枝も比較的長く下垂するため、シダレラクウショウという和名もあながち的外れでもないと思えることがある。たとえば、保育社の「検索入門・針葉樹」にはポンドサイプレス(タチラクウショウ)としてこのタイプの写真が掲載されている。


2017.6.23 上坂部西公園 シダレラクウショウが気になってあちこちの公園や植物園のヌマスギを見て回ったところ、直立短枝と枝垂れた枝を持つ典型的な(と思える)シダレラクウショウは非常に少ないが、樹冠の上部1/3~1/4はシダレラクウショウの特徴を示すが(ただし、直立短枝は無いか、少ない)、樹冠の中ほどから下につく枝・葉はふつうのヌマスギと変わらぬ個体がかなりある。印象として10本のうち2~3本はこのタイプといえそうだ(右写真:ヌマスギとシダレラクウショウの短枝の比較。ヌマスギ(左)の葉は大きく、軸の左右に2列に開平して並ぶ。シダレラクショウ(右)の葉は細く小さく、軸に寄り添う)。

これら、いわば中間的な形態をしめす個体が多いことや、両者ともに膝根を出すこと、シダレラクウショウの分布域がヌマスギの分布域に完全に包含されている(右図)ことなどからみて、お互いきわめて近縁であることは疑いなく、シダレラクウショウがヌマスギから派生したもので、古い図鑑類のように、シダレラクウショウを変種(または種)として区別せず、ヌマスギの1形態とみてしまうのもいいかという気もする。



初出:「都市と自然」2017年10月号。写真を追加し、多少表記を変更している。