メキシコラクウショウ  Taxodium mucronatum

2014.1.28:鶴見ノ森迎賓館 2014.1.24:大阪市立大学理学部付属植物園

メキシコラクウショウ 
(左:鶴見ノ森迎賓館(大阪市鶴見区:2014.1.28)、右:大阪市立大学理学部付属植物園(交野市私市:2014.1.24)

スギ科* ヌマスギ属 【*APGⅢ:ヒノキ科】

Taxodium:イチイに似た mucronatum = 微凸頭の

去年(2014年)正月3日は快晴で、前夜計画した初詣はやめて鶴見緑地へ出かけた。
 1990年、各所からメタンガスの吹き出すゴミの山を中心に整備して国際花と緑の博覧会が開催され、その後、順次公園として整備・公開されてすでに25年が経過する。

この日風車の丘から脇道へ入り、初めて鶴見ノ森迎賓館の庭園へ向かった。
 少し進むと左にシダレヤナギを思わせる青々とした葉をつけた木が見えたが、この時期にシダレヤナギの筈はないとそばへ寄ってみると、意外にもヌマスギ (Taxodium distichum) の葉をもつ大木であった。ただ、ヌマスギなら遅くとも12月には黄葉・落葉が終わっているからヌマスギではない。庭園内には池のそばに2本、前庭に4本植えられていた(他に自然園そばに2本ある)。

帰宅後、すこし調べてこの木はメキシコラクウショウ (T. mucronatum) と判明した。手がかりは簡単、ヌマスギ属で常緑または半落葉はこの木だけ、膝根ができないことも特徴である。
 メキシコラクウショウの植栽例は少なく、Webでは鶴見緑地自然体験観察園のほか、東大小石川植物園、鹿児島大植物園、大阪市大理学部附属植物園(私市)だけが検索される。

私市植物園には40年以上前に数年間勤務したが、長く枝垂れて冬でも葉が緑のヌマスギの記憶がまったく無く、さっそく確認に出かけた。
 二の谷・ヌマスギの池に隣接する湿地に大木2本(*)があった。ただ、鶴見のものと異なり、こちらはほとんどの葉が赤褐色に色づき、緑の葉は高い梢の先にしか残っていない。鶴見の常緑に対し、私市の木は半落葉ということかと納得した。 (*:私市植物園の管理苗圃には、この2本とは別に高さ7~8mのメキシコラクウショウ2が本ある。)

メキシコラクウショウはメキシコの National Tree に指定されている。
 世界で最も太い樹幹を持つという「トゥーレの木(右写真)」がこの種で、日本人が地上1.3mで測定した幹周りが45m、別にレーザーで測定された樹高が35.4mあるという。この種の分布域(上分布図)はヌマスギと隔離し、ほぼメキシコ国内の標高300~2500mに限られ、他にも巨大な木が何本もあるというから「国の木」とするにふさわしい(写真と分布図:Wikipedia)

この木はもともと川岸などに生育するが耐乾性もあり、成長も早い。事実、鶴見のメキシコラクショウの樹幹も植栽後35年にしては大きく、昨年1月の測定で胸高幹周りが2.83~3.58m、私市の1本はもっと大きく、3.93mある(右写真:2014.1.24)。この木の材は非常に強くて腐りにくく、家屋の梁や家具材に供されるという。目立った病虫害もなく栽培が特に困難とも見えないのに、日本での植栽例が少ないのは不思議なことだ。

ヌマスギ属にはヌマスギ、メキシコラクウショウの他に落枝・落葉性のポンド・サイプレス(T. imbricarium)がある。分布域はヌマスギとほぼ重なり、膝根も出る。若い短枝は長枝にほぼ垂直につき、葉は針状で、短枝にらせん状に圧着する。日本での植栽例はまれで(**)、私はまだ実見したことがない。
 この3種は別種とせず、ヌマスギの変種レベルの違いしかないとする説も有力である(たとえば(4))

(**) ポンド・サイプレスには「シダレラクウショウ」の別名もあり、開設当初、大阪市大植物園(私市)に導入された。現在、メキシコラクウショウの傍にその和名のついた個体が植栽されているが、枝・葉の形態が記載とかなり異なり、誤認ではないかと思われる。
メキシコラクウショウとあわせ、私市植物園への導入経緯を知りたいと思い、開設当時在職されていた安藤萬喜男・坂崎信之両氏に問い合わせたところ、当時、副園長だった玉利孝次郎先生(故人)にメキシコ在住の親しい知人がおられ、たびたびメキシコにも行かれていたから、多分、そのルートではないか、導入年、導入時の形状・サイズなどはわからない、ということであった。


左:ポンド・サイプレスの短枝(1)、中:ポンド・サイプレス分布図(2)、右:ヌマスギ分布図(3)

(1)https://facultystaff.richmond.edu/~jhayden/conifers/taxodium.html
(2)http://www.fs.fed.us/nrs/atlas/tree/222(原図を元に分布域を塗りつぶす)
(3)http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Taxodium_distichum_range_map.svg(部分を切り取り)
(4)G. C. Denny et al. (2007):Taxonomy and nomenculture of baldcypress, pondcypress, and montezuma cypress: One, two, or three species?(http://horttech.ashspublications.org/content/17/1/125.full)

注:このページは、「都市と自然 No.472」(2015年7月号)へ寄稿した記事本文をベースに、写真、地図、注記などを追加して作成しました。

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メキシコラクウショウ:その他の画像


写真左から、メキシコラクウショウ樹形、下垂する枝の様子、雄花穂、最大個体の樹幹(いずれも鶴見ノ森迎賓館 2014.1.28)


写真左から、黄葉したメキシコラクウショウ、雄花穂、苗圃奥の個体(いずれも私市植物園 2014.1.24)