W−3 世 界 経 済 覚 書



                             地域と地球をつなぐ学びの広場
                               http://www.ne.jp/asahi/onuki/hiroba/
                             主宰 : 小貫 仁


■ 世界経済の未曾有の危機 (2009年の覚書より)

 ついに来てしまった。2008年末以降の「虚」の経済の世界危機。

 これは、想定してした範囲での最悪のシナリオである。
これは 「100年に1度の危機」どころではない。
これは「人類にとって未曾有の危機」なのではないか。。
なぜか。

 今日の危機は、単なる景気循環でも、単なる信用収縮でもない。
米ドルを基軸とした通貨危機であり、資本主義経済そのものの危機だからである。

 これは、実は、とてつもなく拡大した「虚の経済」の崩壊である。
それは、世界のGDP総額の10倍以上にも達するデリバティブ市場の崩壊である。

 もともと世界経済は、成長しなければ存続できない資本主義経済を維持するのに、
アメリカの巨大な経常収支の不均衡を必要とした。
輸出志向工業化に成功した国々はアメリカの輸入過剰に支えられてきた。
かつての日本も、今日の中国も同様である。

 南北問題の解決には南の国々の経済成長が必要だが、
その糸口がアメリカの旺盛な輸入(貿易赤字)にあったことは事実である。
貿易相手国は輸出で稼いだドルを米国債等に還流することで、アメリカも利を得た。
それが、ドル本位制の実態であった。

 そして、今日の世界危機は、この構図を根底から崩す規模で発生している。

 今日の危機には、ふたつの側面がある。
ひとつは世界的な有効需要の不足(財政危機)であり、
もうひとつは世界的なバブル崩壊(金融危機)だ。

 かつての世界恐慌の反省から、世界各国は財政政策・金融政策に努めている。
けれども、今日、世界各国は政府支出ばらまきの限界に達している。

 今日、世界各国は、もうこれ以上の金融緩和の余地を残していない。
こうして、今日の危機においては、
「実の経済」の困難も「虚の経済」の困難も、克服が難しい。

 確かに、世界は協調して行動し、無理を承知で財政支出を膨らませている。
確かに、世界は協調して、デフレ不況に立ち向かい、金融緩和を進めている。
けれども、これらは、このままでは息切れし、金融緩和も役立たないだろう。

 少し遡って、アメリカ経済はITバブルの崩壊による危機があった。
それを、住宅バブルで置き換えることで危機を乗りきってきた。
しかし、その住宅バブルが破綻した。

 そして、ここには、デリバティブ市場の崩壊が伴うことで、最悪の現実となった。
ただでさえ、政府による銀行システムの救済には莫大なコストがかかるが、
今日のレバレッジの効いたデリバティブ市場崩壊への対応は桁違いである。

 マネタリストは、デフレが鎮静するまでマネーサプライで解決しようとする。
けれども、いくら紙幣を印刷してばらまいても、そのマネーの使い道は限られている。
分配がこのままである以上、余分な資金が人びと(消費者)に行き渡ることはない。

 つまり、過剰な供給に対して、消費はバランスを回復することができない。
そもそも、今日のデフレ不況がバブルの破綻なのだ。

 そして・・・
このままでは、危機を乗り越えるには、またもや新たなバブルが必要なのだろう。。
それが強欲資本主義の現実ではないか。
それは歴史的必然性でもあるだろう。

 世界は、南の国々を底上げする傾向はもっている。
同時に、先進国・途上国双方の二極分化の傾向をもっている。
これらを念頭に、未来の持続可能な社会を展望しなければならない。

 さらに・・・

 資本主義経済は、経済成長を前提とする経済体制である。
投資のために借りた資金は、経済成長がなければ、利子を返すができないシステム
と鋭く指摘したのはミヒャエル・エンデだった。

 つまり、成長至上主義が資本主義の本質である。
これは、自然環境の破壊を伴ってきた。

私たちはこれに対し、開発のあり方として、成長至上主義でないあり方、
「持続可能な開発(社会発展)」 を課題としなければならない。

 次に、「虚の経済」が「実の経済」を蝕む状況が今日の危機を深刻にしている。
現実に、企業の内部留保は、設備投資に向かわずに有価証券に回りがちだ。
銀行システムにおいては、信用創造のバブルを常に警戒しなければならない。
金銭主義の行き過ぎをいかに制御できるかを課題としなければならない。

 最後に、資本主義は民主主義と一致するのか一致しないのかも考えたい。
近代という時代の歴史認識は、「資本主義+民主主義」であった。
そうした封建時代の克服としての近代は、パラダイムの転換が必要なのだ。

 今日の分配システムは、先進国においても、認めがたい貧困を生み出している。
労働そして需要が確保されるシステムは、今日のむきだしの市場にはない。

 「持続可能な未来」の前提となる経済のあり方を考察していかねばならない。


[ 戻 る ] [ トップページへ ]