同 僚 へ の 長 期 研 修 報 告 メ ー ル 



 『 FORUM 2000 』 ( 立教大学大学院文学研究科活動報告書、2001) より
 立教大学客員研究員(2000) 小貫 仁


 以下は、この1年間、職場の同僚に送ってきた 「近況報告」 の最も最近のメールです。
 田中ゼミ をはじめとして、立教大学の皆さまへの感謝の気持ちを込めて、長期研修の総括に代えさせていただきます。

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 御無沙汰しておりますがいかがお過ごしですか?
 この冬は、十数年ぶりという冬将軍の居座りで寒さが身にしみました。それでも最近は春の兆しを感じることができるようになりましたね。
 当方は県への報告書の校正が何とか終わりました。そこでは、「総合的な学習の時間」 に関して、学校(特に高校)で 「何のために、何を、どんなふうに」 学ぶのか。それを、自己形成、学びの履歴、切実な諸課題、地域との連携などをキーワードにまとめました。開発教育を背景として、国際理解を地域からどう進めるかに重点を置いているのが独自性ということになると思います。
 これに関連して、『つながれ開発教育〜学校と地域のパートナーシップ事例集』(開発教育協議会刊) の解説編の半分を執筆する機会がありました。現在、やっと脱稿できそうです。私の担当部分の構成は次の通りです。

「学びの転換と開発教育の新しい展開」
 1 なぜ、学校と地域の連携か〜学校教育の視点から
  1)学校における学びの転換
  2)総合学習の模索と地域との連携
  3)国際理解における学びの転換と地域との連携
 2 子どもたちと地域の人びとが共に学ぶ開発教育
  1)学校と地域のパートナーシップの事例
  2)世界とのつながりのあり方を考える
  3)地域と地球をつなぐ学びの展開
 3 新しい開発教育のカリキュラム
  1)「開かれた学校」の運営体制
  2)地域から地球への学びのカリキュラム
  3)課題と展望

 1月末には、事例提供者数人との座談会がありました。高校でも、地域に開かれた学校として、「市民と共に学ぶ」 総合学習を実現できればと考えています。

 さて、以下は、私の現在の危機意識です。それは、「総合的な学習の時間」 そのものに対する危機感であり、そこでの 「国際理解領域」 に対する危機感です。
 総合学習の先駆者でもある丸木政臣氏はこう言います。

 ”新しい荒れ”の広がる学校状況のもとで、「総合的な学習」 を換骨奪胎して真の 「総合学習」 を創ることに意味がある ・・(中略)・・ ほんとうの総合学習には、現代の学校の矛盾を克服する可能性が含まれている。

 私もそのように思います。けれども、既に文部省からさえ 「学力低下」 を嘆く声が聞こえてきます。
(従来の学力観からの批判はともかく、内在的な問題は 「はいまわる経験主義」 の再来)
さらに、例えば小学校では、国際理解は英会話学習に尽きるといった矮小化した国際理解学習に陥ったり。
(中教審の国際理解教育観からの帰結。私たちと世界のつながりを理解しそのあり方を考える、つまり 「地球規模で考え地域で行動する」 ための学びとは無縁)
・・・ こうした危機を乗り越えるものは、何よりも、ほんとうの総合学習を模索する現場の実践とその共有でありましょう。

 ご存知のように、私の教育課題は 「グローバルな自己形成」 です。私はそのプロセスを、自己撞着を超えて自分を他者に解き放ち、世界との関係性を築く生き方にたどり着く自己変革の営みと考えています。
 その関連で言うと、国際協力NGOの世界では現実の協力活動に対する深刻な反省が出てきています。「自分たちの社会の中で行っていないことを、事情の違うよその社会においてできるはずがない」 という叫びがそれです。これは元シャプラニール職員の中田豊一氏の声です。「不正や不公平を告発しているつもりでいながら、その裏では、それを生み出す側にまわりかねない自分というものの存在」 を厳しく問う氏の発言だけに重みを感じます。私が意図している、身の回りから世界との関係性を築こうとする 「地域と地球をつなぐ学び」 の総合学習は、まさに、このことを意識する必要があると思います。

 研修に残された日々はわずかですが、こうした問いに対応しながら、具体的な実践のためのまとめの作業を進めていきたいと思います。(その内容は新設のホームページに反映させます) 果たしてどこまで煮詰められるか・・・ 「道半ば」 の心境ですが。
 以上、研修の総括に関連しての近況報告まで。最後に、私が今年度に出会った書の中のベスト3を記しておきます。
○中田豊一『ボランティア未来論』(コモンズ、2000)
○ロジャー・ハート『子どもの参画』(萌文社、2000)
○西川潤『人間のための経済学』(岩波書店、2000)


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