W−2 書 評 『 子 ど も の 参 画 』



     『 研究年報 第44号 』 (立教大学文学部教育学科研究室、2001) より

                          立教大学客員研究員(2000)  小貫 仁


 本書は、環境教育での持続可能なコミュニティづくりに 「子どもの参画」 を提唱しているロジャー・ハート(ニューヨーク市立大学)がユニセフの二つの部(環境部と国際子ども発達センター)の依頼を受けて執筆したものである。1997年の原書発刊以来、その 「参画のはしご」 は既に広く紹介されている。環境教育のみならず、開発教育、子どもの参加論などにおける画期的な文献としていち早く評価されてきた。
 ロジャー・ハートによれば、環境教育の基礎は、子どもが自分の住む地域の持続可能なコミュニティをどうつくるかに関わることによって自然についての関心を深めることである。また、生活を基盤として問題を把握し活動することで自らさまざまに気づいていくことである。
 本書は、持続可能なコミュニティづくりに子どもがいかに参画するかについて、世界各地の事例をもとに、その原理と方法を具体的に示している。

 本書の構成は以下の通りである。
第T部 序論および概論
 第1章 序 論
 第2章 子どもの参画する能力の発達
 第3章 組織の原則
 第4章 子どもの参画の新しい形態およびいろいろな団体との提携
第U部 子どもの参画の実際
 第5章 子どもたちと行なうアクション・リサーチ
 第6章 子どもたちによる環境の計画、デザインと建設
 第7章 環境の管理
 第8章 環境の監視
 第9章 子どもが一般大衆に問題を気づかせることと政治的活動をすること
 第10章 地域から地球へ−−提携とネットワークを通じて
第V部 方 法
 第11章 描写とコラージュ
 第12章 地図づくりと模型づくり
 第13章 インタビューと調査
 第14章 メディアとコミュニケーション
 第15章 結論:21世紀の持続可能な開発をめざしたコミュニティ

 第T部で、子どもの参画に関する理論を理念とともに解説している。次いで、第U部と第V部で、具体的な方法として 「アクション・リサーチ」 による活動のさまざまな手法を紹介している。
 本書は、子どもを、保護の対象としてより権利の主体者としてみる。同時に、身近な環境の問題を特定する者として重要な存在とみる。その上で、「アクション・リサーチ」 という方法を活用する。子どもたちは、問題の特定と分析のリサーチによって問題を把握し、環境の計画やデザイン、環境の管理や監視、人々の意識や喚起などでコミュニティづくりに民主的に参画し、その変化のプロセスにも関わる。このような環境教育の新しいあり方を提唱している。
 さらに、自分たちのコミュニティに関わることは世界の他のコミュニティに関わることにもつながる。子どもはプロジェクトに関わって成功した体験をもつと、他のコミュニティに存在する共通の環境問題により強い関心を示すようになる。また、身近な地域の調査と活動を通してさまざまな壁に出会うと、それが何であるかを理解し、他のコミュニティとの問題の共有を通して世界各地の変革の過程にも出会う。こうして子どもたちは、民主的な社会変化の担い手としての市民に育っていく。
 本書は、現代のグローバルな市場原理の潮流を超えた地方分権化の地平を展望していることも魅力である。

 さて、今日学校では、2002年からの新学習指導要領の実施に伴い、「学びの転換」 として、地域の人たちと共につくる授業の模索が始まっている。本書の 「アクション・リサーチ」 は、学校での総合的学習の方法論としても極めて有効である。事例の中の 「年少の子どもたちによる環境研究の事例」(ボックス10) などは総合的な学習そのものとして読むことができる。その他にも参考になる事例が満ち満ちている。
 ただし、大切なのは方法そのものよりもその理念であろう。ロジャー・ハートは 「アクション・リサーチ」 をパウロ・フレイレの 「意識化」 と一致する方法論としている。社会の状況を批判的に観察し、自ら気づくなかで意識の変化を伴い、状況理解を通してそれを改善するものであると。
 状況の改善は民主的な変化の過程である。子どもたちが 「操り参画」 や 「お飾り参画」 や 「形だけの参画」 でなく、自ら考えて地域で行動し、地方分権の参加型民主主義を体験することが重要である。「社会発展へのもっとも確かな道は、環境の管理について理解と関心をもち民主的なコミュニティづくりに積極的に参画し活動する市民を育てることである」 というのが本書の信念である。
(萌文社、2000年10月10日刊行、216頁、3200円)
評:小貫 仁(客員研究員)

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