Q13 高校ではどのように行われているの?
 高校教育の後は?


『 「開発教育ってなあに? 開発教育Q&A集 』 (開発教育協議会、1998) より

                             開発教育協会 小貫 仁
                             地域と地球をつなぐ学びの広場主宰
                             http://www.ne.jp/asahi/onuki/hiroba/


世界を引きうける自己の確立が課題

 高等学校の開発教育では、具体的な学習の重要性は小学校・中学校と変わりませんが、より抽象的な考察に踏み込むことが可能です。したがって、開発をめぐるさまざまな問題をより構造的に理解し、開発のあり方について考察を深めるとともに、環境問題など地球的諸課題の関連についても総合的に理解できることを重視します。
 高校時代の特徴は、自己を探究して、人生の進路を自覚的に決定することを大きな課題としていることです。この時期に、「南」 の国々を視野に入れた世界観を確立し、地球社会の課題を深く理解して、私たち自身のあり方をも問い直しながら課題解決のために自分に何ができるかを考えることは、個人の生き方の模索にとっても必要不可欠なことでしょう。そこでは、他者に関心をもち、世界との関係を引き受け、現実に対して絶望でなく希望を持って対峙できる自己を確立できることがことのほか重要です。

問題を自分のものとする学び

 高等学校での開発教育は、各教科で独自のテーマ学習が展開されています。開発教育の扱う内容領域は文化理解から課題解決までの広がりをもっていますが、高校段階では、人権を普遍的価値とし文化的多元性と地球社会の相互依存性の認識を基礎として、課題領域を中心に世界を構造的に理解します (図参照)。

 ( 図 「発達段階と学習目標」 −省略− )

 具体的には、例えば公民科の「現代社会」で、学習指導要領を開発教育の視点で読み込み、各単元ごとにテーマを設定して再構成したり、そのテーマに相応しい手法を適用して新しい内容と方法で実践するなどが基本的な取り組みになります。
 テーマは、自分自身あるいは自分たちの生活上の問題を見据えることから、世界を知るための「身近な開発問題」さらに視聴覚教材などを活用しての世界の現実のケーススタディまでさまざまに設定できます。学習の展開は、(1) 課題の問題性を理解し、(2) 原因を構造的に考察し、(3) 解決策を模索するという構成が基本です。開発をめぐる問題の結論は、たとえ構造的な認識を深めても単純ではありません。問題性を考察し、開発・発展のあり方の悩みを共有したり、自分とのつながりを理解して、私たち自身のあり方を見つめ直したりする視点を得ることができれば、学習のねらいは果していると考えられます。

不可欠な参加型の学習形態

 方法では、学びの関係づくりを前提として、各テーマ学習に相応しいと思われる参加型のあり方を求めます。教えられる内容が共感の伴わない単なる知識として受け取られがちな従来の知識注入授業は、生活や社会のあり方を見直す契機になり得ません。かといって参加型の手法を用いればそれで十分というわけでもありません。
 特に構造理解を求める高校段階では、参加型の手法の場合、いかに深い認識に至るかが課題です。そこでは 「問いかけ」 「わかちあい」 「ふりかえり」 などの過程をどう効果的に展開するかを見直す視点が必要でしょう。ファシリテーターとしての教師の創意工夫が問われます。また、テストや評価でも新しいあり方が求められます。今後は、こうした実践上の課題を踏まえた授業実践がますます期待されます。

各教科での実践事例

 社会科系(地理歴史科・公民科) の実践例は、途上国理解のケーススタディや、バナナや外国人労働者など身近でありながら世界につながる題材でのテーマ学習など、事例が積み重ねられています。方法は、対話しながら資料を検証したり、グループの主体的研究と発表を組み合わせたり、内容に応じてさまざまな参加型手法を活用しています。
 外国語(英語)では、南の地域や地球的諸課題を扱う教材を使用することで、さまざまな課題を英語で理解しようとする傾向が出ています。インターネットを活用する取り組みも新しい傾向です。また、アジアの人びとと交流し、アジアの英語に親しむことで、ネイティブ英語偏重の枠を超える試みも貴重です。
 その他、例えば家庭科では、南の国々と関わるモノとしてのエビなどを題材にアジアの開発問題に迫り、自分たちの生活とアジアのつながりを知って、アジア諸国との関係のあり方や 「豊かさ」 を問いなおす実践などがあります。
 教科外では、生徒会主催の国際ボランティア活動、HR(ホームルーム) の文化祭での発表、ユネスコ/ユニセフ/JRC(青少年赤十字) などの部・クラブ活動、さらに、教員と生徒と市民が協力して学ぶ自主講座や校外での日本語ボランティア活動などの事例もあります。
 なお、近年、「国際科」 など新しい学科やコースを設ける学校が増えています。また、新学習指導要領で特設される 「総合学習」 の時間は新たな実践の場となるでしょう。そこでは、少人数で教科を超えたティームティーチングの実現も期待されます。

高校教育以降の取り組みも多彩

 高校以降では、専門学校や大学に国際研究の学部・学科が増えてきました。開発経済学は国連職員になるには必須の科目です。教育学の分野でも、国際理解や社会科教育の講座で開発教育の視点を生かす実践があります。ここでは論理的な分析とともに、講義一辺倒でなく学生の調査研究やスタディツアーなどの形態も試みられています。
 今後の課題は、国際研究で開発教育の視点が一層いかされるとともに、教員養成課程に開発教育が正当に位置づけられることであるように思われます。

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