T−2 何 を 学 ぶ の ?



『開発教育ってなあに?』(開発教育協会編、2004)より
〜『開発教育ってなあに? 開発教育Q&A集』 改訂版〜

                             開発教育協会 小貫 仁
                             地域と地球をつなぐ学びの広場主宰
                             http://www.ne.jp/asahi/onuki/hiroba/


<参考> 第1章 理論編 (開発教育って、なんだろう?)
         Q1 何をめざしているの?
         Q2 いつ、どのように始まったの?
         Q3 何を学ぶの?
         Q4 どのように学ぶの?
         Q5 どんな教材があるの?
         Q6 国際理解教育とどう違うの?


Q 3 何 を 学 ぶ の ?

1 開発教育の内容と留意点

 Q1で挙げられた5つの学習目標は文化領域から課題領域までの幅広い学習領域に対応しています。そして、それらの学習目標には開発教育の具体的な内容が存在しています。図は発達段階に応じて重点を置くべき学習目標の内容を示しています。初等教育段階で取り組みやすい「文化の多様性」や「世界とのつながり(相互依存)」は感覚的に理解しやすいはずです。中等教育段階では「貧困・南北格差」の原因分析など発展的な学習ができるでしょう。

 [ 図 ] 発達段階と学習目標 (略)

 以下、各内容の学習上の留意点について触れていきます。
 まず、「文化の多様性」の学習ですが、これまでの国際理解で大切にされてきたのは異なるものを受容することで共に生きようとする友好の心でした。けれども、課題解決の視点を伴わない異文化理解は単なる交流イベントや珍しいもの発見だけにおわりかねません。忘れてならないのはその友と共に互いの課題を解決していこうとする協力の心です。この2つが伴ってこそ、開発教育の考える共生の心となります。また、「世界とのつながり(相互依存)」の学習で留意すべきは、「相互依存」といっても対等な関係とは限らず、どちらかが一方的に利を得ている関係もあることです。これも開発教育の大切な視点です。
 次に、開発教育の原点でもある「貧困」「開発」「協力」について。
 「開発」の学習では、従来、私たちは開発を経済的側面のみでとらえがちでした。けれども今日では、1995年の社会開発サミットで示された、文化・人権・環境などに配慮した人間中心の「社会開発」、さらに、2002年の持続可能な開発サミットで示された、経済成長優先のグローバル経済のあり方を問い直す「持続可能な開発」の視点が大切になってきています。このことは「貧困」の学習でも同様です。従来は貧困を経済的欠乏のみでとらえがちでした。けれども、何らかの社会的仕組みで人びとが人間としてのあり方を妨げられている「権利の剥奪」としてとらえることも大切です。経済的側面はその一部です。国連開発計画(UNDP)の「人間貧困指数」も所得以外に健康や教育の指標を重視しています。そうなると、それらの社会的歪みは途上国ばかりでなく私たちの身の回りにも現れている現象です。貧困(貧しさ)の克服としての開発は私たち自身の課題でもあります。求めるべきは剥奪された力のエンパワー。つまり私たちに欠落しているものの獲得です。そこでは、私たち一人ひとりの生きる力や世界の人びとと共に生きることのできる地域づくりが課題となるでしょう。そうした活動が「地球規模で考え地域で行動する」ということです。さらに「協力」の学習では、「恵まれた私たちが困っている人びとを助けてあげる」というような意識ではなく、開発・発展のあり方の悩みを共有したり、世界とのつながりの自覚から生活を見つめ直したりして、相互に協力しあう視点を得ることが大切です。

2 カリキュラムとテーマの構造

 開発教育は家庭も含めた多種多様な場で学習できます。学校では、教科や課外活動で様々に実践されてきました。今日では、「総合的な学習の時間」での実践もあります。ここで考えるカリキュラムとは、従来のように教師が意図して計画するものではなく、計画する側(教師)と学習する側(生徒)とが共に創り出すものであり、いわば学びのプロセスそのものです。ここにはアプローチの仕方が二つあります。一つは身近な問題から世界の問題につなぐアプローチ。もう一つは世界の問題から身近な問題に帰ってくるアプローチです。実際には、これらは有機的に関連し、相互作用を持っています。例えば、子どもが地域の課題の民主的な解決に主体的に参画していく時、次に日本の開発問題と同じような世界の開発問題を知ることで子どもたちの視野は世界に広がっていきます。同時に、世界の問題を知ることで自分たちのあり方を問い直す学びも成立します。ここでは、身近な問題と世界の問題のつながりを知ること、さらに、そこに共通する課題に気づくことが重要です。
 カリキュラムの具体的な学習課題(テーマ)としては、子ども、文化、食、環境、貿易、貧困、識字、難民、国際協力、ジェンダー、在住外国人、まちづくりなどがあげられます。 カリキュラムの展開ではこれらのテーマ群の構造化を考慮すべきでしょう。先に示した「発達段階と学習目標」の図では、共感的理解から構造的理解へと進む発達段階を配慮しました。一般に、テーマ学習の順番はどのようでも可能ですが、強調したいことは、そこでの中心軸は「貧困」「開発」「協力」の学びを考えたいということです。開発教育は「共生」と「公正」という概念の理解を大切にします。開発に関連する諸課題を共生のビジョンでどのように解決するかを模索することが開発教育の焦点です。カリキュラムは、こうしたことに配慮しながら、自由かつ自在に展開したいものです。

3 開発教育で得る知識・態度・技能(評価の観点)

 カリキュラムの展開で得るものに関しては、目標を「知識目標」「態度目標」「技能目標」に分けることができます。各々の目標では次のような観点が想定できます。

+−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| 目 標 |                 観 点                       |
+−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| 知 識 | @人権、文化、A貧困、格差、B有限性、対立、C相互依存、関係性、|
|      | D変革、未来                                   |
+−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| 態 度 | @人間尊重、多様性尊重、A共感、正義感、B広い視野、興味・関心、|
|      | C不正を嫌う、責任感、D参加、協力                    |
+−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| 技 能 | @調査、情報活用、A論理性、批判的思考、B整理、表現、      |
|       | C民主性、コミュニケーション、D合意形成、意思決定          |
+−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

 知識目標と態度目標は開発教育の学習目標に対応しています。「知る〜考える〜行動する」展開を通して、知識と技能の力量を高めながら地球社会の課題に取り組み、より良い未来に関わって生きようとする態度を形成することが開発教育の学びの核心です。


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