1999年ヨーロッパ鉄道旅行記・3日目

3月6日


 昨晩早く寝たせいかそれともまだ時差ボケがあるのか,数時間おきに目が覚めた.それが私一人でなく3人ともであった.6時前再度皆目が覚めた.もう眠られそうになかったし,昨日行き損ねたフロイエン山へのケーブルカーが朝早くからやっているかもしれないと思い,散歩をすることにした.辺りはまだ真っ暗である.ひとけもほとんどない.ケーブルカーは僅かな期待もむなしく9時にならないと動かないことがわかった.世界遺産のブリッゲン地区や港周辺を1時間程度散歩した.昨晩の賑やかさがうそのように静かである.散歩を終え,ホテルに戻る頃,夜が明けてきた.
世界遺産・ブリッゲン
▲世界遺産・ブリッゲン
 ホテルの朝食はオスロのホテル同様,豪華なバイキングだった.肉,魚,パン,ワッフル,ジャム・・・おいしいものばかりで大満足.これだけの食事が付いていれば,やや高めの北欧のホテル代も安く感じる.食事後,ホテルのロビーにフランクフルトの空港にあったインターネット端末と同じものがあったので,改めて日本の友人にメールを送ろうと思ったが,残念ながらクレジットカードを受け付けてもらえず,故障していたようなので諦めた.荷物を整え,ホテルのフロントに礼を言い出発する.
 ブリッゲン地区,ローゼンクランツの塔,市立公園と歩いて見られるところを回った後,駅へ向かった.結局時間の関係上,フロイエン山へ行くのを諦めた.切符購入担当係?になってしまった私はMyrdalまでの指定席を予約し,問題なく完了した.まだ発車まで1時間近くあるので,売店で飲み物を購入したり土産物を眺めていたが,昨日撮り損ねたトロリーバスの写真を撮りたくなった.そこで荷物を駅に置いたまま(一応2人に荷物を見てもらうように頼んだが,ほったらかしでも全く盗まれる心配のないほど治安は安定していた),トロリーバスを見に行くことにした.しかし,普通のバスは何度も通り過ぎるのにトロリーバスは1台も通らなかった.かなり粘ったが時間も近づいてきたため諦めて駅へ戻った.
Bergen駅に停車中のオスロ行き列車
Bergen駅に停車中のオスロ行き列車
 駅にはすでに乗るベルゲン行きの列車が停まっていた.昨日乗ったものと同タイプの客車だった.機関車は昨日より古いタイプのようである.Bergenを定刻に発車した.すぐに美しいフィヨルド地域を走る.昨日乗車しているので,美しい車窓のポイントを予測できる.今日はちゃんと座席があるので(うるさいスキー客もいないので)落ち着いて,車窓を楽しむことができた.ほどなくして車掌が検札に来た.Myrdalまでの指定券を見せると,「トゥー フロム?」と言ってきたが,すぐに「To Fråm?」と言っていると気付き「Ya!」と答えた.ということは逆向きの場合は「From Fråm?」と聞いてくるのだろうかとしょうもないことを考えてしまった.Bergenから1時間でフィヨルド地帯も抜け,Vossに到着した.我々は本日ここで宿泊予定なので,列車からめぼしいホテルがないか目をこらした.駅の真横に比較的大きなホテルがあり,街もそこそこの規模のようなので,なんとか見つけられるだろうと安心した.列車はVossからぐんぐん標高を上げ,豪雪地帯へ入っていく.Vossから約1時間でFråm線の乗換駅Myrdalに到着した.夏の観光シーズンは乗り換える客でごった返すらしいが下車したのはわずかだった.ホームには雪が10cm以上積もっており辺り一面真っ白だ.が肝心のFråm線の列車は隣のホームに停車しておらず,遅れているのかと思った.そうしているとアナウンスがあり,隣のホームにはBergen行きの列車が到着し,その発車後Fråm行きの列車が入線するとのことだった.しばらくすると朝一番にOsloを発ったBergen行きが到着した.新型の客車が使用されておりこちらが本物の「ベルゲン急行」だそうだ.そのベルゲン急行から一人の日本人らしい青年が降りてきて,我々に「Are you Japanese?」と話しかけてきたので「はい」と答えた.彼はFråm行きの列車がどこの乗り場かわからず困っていたようだったので,Bergen行き発車後このホームに入線することを教えてあげた.彼は京都の大学生で北欧中心に鉄道で旅行を続けているとのことだった.旅行期間が長いものの予算が限られているということで宿泊は夜行列車中心だそうだ.これからの予定を聞くとフィヨルドクルージング後Vossまでは我々と全く同じだったので,一緒に行動することにした.彼はVossからBergenまで行き,さらに夜行でOsloに戻るという強行スケジュールだった.
 Bergen行き発車後すぐにFråm行きの緑の客車(2両)と機関車がバックで入線してきた.車体には“FRÅM S BANA”と大きく書かれており,Fråm線用に改造された客車であることがわかった.乗ろうとする客は20〜30人程度で座席の争奪戦が起こるほどではなかったが,客は皆カメラを抱えており,冬のフィヨルドの景色を楽しもうというちょっと風変わりな人ばっかりだったので,窓際で特に窓の開けられる所は争奪戦に近いものが起きた.また座席はすべて折り畳み式になっており,夏場の混雑時に対応しているようだった.列車はゆっくりと谷底の方へ下っていく.滑り落ちないようゆっくりゆっくり下っていく.よくこんな所に鉄道を敷いたものだと驚くような所を走る.言葉ではうまく表現できないので,皆さんも実際に乗られることをお勧めする.私は色々な所で鉄道に乗ってきたが,ここが今までで一番印象に残った.いくつかのトンネルをくぐるが,進行方向左側は格子状になっており渓谷が見える.しばらくすると夏期は写真撮影のため停車するというヒョース滝の横をゆっくりと通過する.滝は凍っていて周りの雪山と区別がつきにくいため,注意していないとそこが滝であることに気付かない.滝通過後もいくつかのトンネルをゆっくりと下っていき,高度をどんどん下げる.トンネルを抜けたところで,進行方向左手を見ると,かなり上の方につい先程まで居たMyrdal駅が見えた.距離的にはそれほど来ていなくて,高度だけ下がってきたようだ.ここまでがFråm線のハイライトで,一気に高度を下げた.これ以降はそれほど急な勾配はなくゆっくりと終点Fråmを目指す.さてここで質問です.
ツララはなぜ青い色をしているのですか?
というのは,この区間で雪をかぶった岩の所々で青い色をしているところがあったのですが,それはすべてツララでした.なぜ青い色をしているのか疑問に思いましたが解答に結びつきませんでした.答えあるいはそれに対する考えがある方は私まで電子メールで連絡願います
Fråm駅に到着した列車
Fråm駅に到着した列車
 Fråm線のハイライトを過ぎるとのどかな所をゆっくりと走っていき,Myrdalから50分でフィヨルドの港町Fråmに到着した.乗ってきたFråm線の列車の写真を撮っていると,すぐさま機関車の付け替えが始まった.駅舎内には土産物屋があるが,冬季ということで閉まっている.食べ物屋らしいものも見当たらない.列車から降りたフィヨルドクルージングしようと待っている風変わりな旅行者を除いては駅はひっそりしている.予想通り食堂や売店がないということで,カロリーメイトを食べる.私は今回の旅行で初めてお世話になるが,K口氏に至っては関空,ベルゲン行きの車内そして今回と3回目のカロリーメイトである.さて3人で今後のプランを話し合っていると,3月9日にドイツのフュッセンでプラハ組の3人と合流するためには,明日のオスロ発コペンハーゲン行きの夜行で北欧から脱出しないとうまくたどり着けそうにないことがわかってきた.(たとえ今日の夜行で明朝オスロに着いたとしても,昼行で北欧を南下するのは無駄が多いことが判明した.)またそのコペンハーゲン行きの夜行列車は人気があり混雑するので,乗ると決まったのなら,ここFråmで予約を取った方が良いとのアドバイスを,例の京都の大学生がしてくれた.そこで3人で話し合い,第1希望は寝台車(3人用個室),第2希望はクシェット(簡易寝台車),最悪座席車ということに決まった.そこで予約を行うことにするが,こんな田舎のFråmにもちゃんと駅員がいてしかも指定券発行用の機械があるのには感心した.寝台車の空席を聞いてみると「ない」とのことで,「How about Couchette(クシェット)?」と聞いてみると運良く空きがあり,予約ができた.発券された切符を見ると3人とも同じ部屋のようだった.Fråm線のデザインされた入れ物に切符を入れてくれたのがうれしかった.
フィヨルドクルージング
フィヨルドクルージング
▲フィヨルドクルージング
 さてしばらく待って,ようやくフィヨルドクルージング船の入船手続きが始まった.厚手のジャンパーの下にもヤッケを着込み,さらにタイツ,マフラー,カイロ,靴下2枚重ね等あらゆる防寒対策をとって,クルージングに備えた.どうやら運賃は船上で支払うようだ.「国際学生証を持っていないか?4人(京都の大学生を含む)のうちだれかが持っていれば割引料金になる」と船長から言われたが,我々は皆持っていなかったため,通常運賃(135NOK)を払うことになった.私は運賃を聞き取れなかったようで,払おうとした金額では不足していたため,船長が私の手持ちのお金から不足分を取っていった.なんで数字くらい聞き取れないんだ,ああ情けない...と自分に腹が立ってきた.乗客は皆,景色を楽しもうという人達なので,船内の座席の方へは行こうとせず,甲板上の座席についた.乗客は30人程度だろうか,地元の人は皆無で皆観光客のようである.定刻に船はGudvangenへ向けて出発した.
 噂通りの素晴らしい景観である.海面から一気に標高1500m程度の断崖絶壁となっており,ものすごい迫力である.断崖には雪が残っており,パンフレット等の写真に使われている夏のフィヨルドとはまた違う味を出している.また海面は海とは思えないほど静かで,波などは全く立っていない.乗客は皆写真を撮ることに熱中している.同行のKR山氏は,「2年前にグランドキャニオンで写真を撮りすぎて失敗した(たくさん撮ったのにまともな写真はほとんどなかったらしい,そして肝心なときにフィルムがなくなってしまったそうだ).今回はその反省を生かすぞ.」とか言っていたのに結局今回もたくさん撮ってしまったようで,「また撮りすぎた.グランドキャニオンの二の舞だ.」とか言っていた.私は「良いところではフィルムを惜しまずどんどん写真を撮るべきであり,フィルムはそれを考慮して大量に準備すべきものである.」と考えているため,撮りすぎることは悪くないと思っている.船上のノルウェー国旗が風により激しくバタついている.気温は緯度の割に暖かいのであるが(摂氏+5度程度?),船が進むと風がもろにあたるため体感気温が非常に低くなる.出発してから30分くらい経った頃から寒さのため,乗客は写真を撮るのをやめて船内の客室へと入っていく.甲板に残ったのは私の他数名だけになってしまった(連れのK口氏とKR山氏,そして京都の大学生も船内へ入ってしまった).私は防寒対策をほぼ完璧にしていたためほとんど寒さは感じなかった.所々フィヨルド沿いに小さな村があったが,道路は全く無いそうで,唯一の移動手段が今乗っているようなフィヨルドボートだけとのことだ.なお所々に断崖絶壁から落ちる滝らしいものがあったがすべて凍っていて流れてはいなかった.夏のシーズンには雪解けの滝があちらこちらからフィヨルドへと流れ落ちるそうだ.クルージングを始めて1時間後くらい経った後,Sogne Fjordの末端であるAurlands FjordからNærøy Fjordへと進路を変更する.直進していればSogne Fjordの本流であり,北海へとつながっている.Nærøy FjordAurlands Fjordと比較してさらに海の幅が狭く両側の断崖が間近で迫力がある.分岐点から1時間程度クルージング後,下船場所であるGudvangenへと到着した.
 下船し,2時間のフィヨルドクルージングが終わった.いよいよフィヨルドともお別れということで,京都の大学生に我々3人の集合写真を撮ってもらう.Voss行きのバスの発車まで30分ほどあるため待合所の売店で暖をとりながら,土産物を見て回る.結局親戚へ送るための絵はがきとフィヨルドの写真集を購入した.しばらくするとVoss行きのバスが到着したので,運賃62NOKを支払い,バスに乗り込む.バスはやや単調な道を進んでいく.途中正面にものすごく狭く,急な上り坂でしかもヘアピンカーブの連続というすさまじい道路が見えた.あの道をバスが登っていくのかと驚いたが,登らずバイパスのようなトンネルへと入っていってしまった.「地球の歩き方」には「GudvangenからVossへのバスの道中,Stalheimホテルで数分の休憩があり,そこのロビーからの眺めは絶景である」との紹介がある.どうやらあのヘアピンカーブの上がホテルで,冬季は休業しているのでバスは通らなかったようだ.残念! Gudvangenから1時間強で終点のVoss駅前へ到着した.辺りは暗くなりかけている.京都の大学生には礼を言い別れる.「Vossでのホテル探しに失敗したら,Vossから同じ夜行に乗るかもしれないけど」と言って...さてホテル探しである.これはドイツでのホテル探しの予行演習でもある.列車から見えていた駅のすぐ横のホテルは立地条件等によりどうせ高いだろうと思い,とりあえず街中へ出て少し探してみようということになった.
 歩き始めて少しすると,こぎれいでちょっと高価そうなPARK HOTEL VOSSEVANGEN というホテルを発見した.高そうでやめようかと思ったが,辺りは暗くなってきており早くホテルを見つける必要があったため,とりあえず入り,値段を聞いてみることにした.ホテルのフロントでは女性の係員が対応してくれた.「今日宿泊したい.値段はいくらか?」と問うと,「ツインルーム1室とシングルルーム1室だ.」と答え,「Five-hundred twenty-five, each.」と言われた.私は「Can you make a triple room?」と尋ねたが,「No.」とのことだった.私はちょっと高いなあと思っていたが(旅行中ノルウェークローネと日本円の暗算による換算は約20で行っており1万円となるので),一番予算が限られていてホテル代を気にしていたKR山氏があっさり「OK」を出したため,K口氏や私もOKを出して,今晩の宿が決定した.トリプルルームではなかったが,わざわざ隣り続きの部屋を用意してくれ,さらに部屋内部で行き来ができるよう2部屋をつなげるロックされていたドアを開けてくれた.片方の部屋はシングルルームと言われていたが,ベッドも同じであり,枕も2つあったためツインルーム2部屋用意してくれたのかなと思った.しかしよく見ると片方の部屋は,バスタブが無くシャワーのみとなっているなどやはりシングル仕様となって差別されていた.(後から判ったことだが,このPark Hotelはそれほど高価なホテルではなく,むしろVossでは安い部類のホテルになることがわかりました.「地球の歩き方」にもちゃんと紹介されていました.3人で2部屋だったため若干高くなってしまったようでした.スキーシーズンということも影響しているようでした.)
 Vossのような田舎町では夜早いうちに店が閉まり食事にありつけなくなる心配があったので,ホテルでは荷物を置いただけで,すぐに食事に出かけた.その前にVoss駅に寄り,明日の列車の指定を行うことにした.明日はOslo発の夜行列車を予約済みなので,それに間に合うようにOsloへ行けば良いのだが,せっかくだからOslo市内でも観光を行いたいので,Vossを朝一番に出るベルゲン急行の予約を行うことにした.列車予約担当係の私が,「明日8:40発の列車オスロまで3人分予約したい.ユーレイルパスを持っている.」と駅員に言うと,「First Class?」と聞いてきたので,私は慌てて「No. No. 私たちの持っているのはユーレイルユースパスだ.」と言い,2等車を予約してもらった.今まで乗ってきた列車は『ばったもんベルゲン急行』で1等車など付いておらず,今回予約した『ほんまもんベルゲン急行』に1等車が付いていたのを予測できなかったためであった.予約の方は問題なく,3人分確保できた.
 夕食の方は予想通り適当な店がなかった.ようやく見つけだした店はファーストフード系だった.入り口から店内にある料金表見たいなものを覗き込む.覗き込んでいたK口氏は「高い!」と叫んだが,K口氏が見ていたものは,ハンバーガーとピザのセット料金であり,ハンバーガーだけではそれほど高くないということを私は確認した.ということでこの店でハンバーガーを食べることにした.セットメニューで69NOKと若干高めだが,物価の高い北欧のことだからいたしかたない.注文がちょっと難しかったが(いろいろ質問された),暖かくて美味しかった.
 ホテルへ戻り,風呂へ入り,寝る準備をする.KR山氏とK口氏はベッドに入ってしまったが,私は親と親戚に,Gudvangenで買った絵はがきで手紙を書きはじめた.が,普段手紙というものを滅多に書かないため,非常に時間がかかった.手紙を書くだけで1時間くらい費やしてしまった.なんとか手紙を書き上げてから,ベッドにもぐった.おやすみなさい...
 今日はフィヨルドクルージングという今回の旅行のハイライトであったので大変興奮していた.

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