1999年ヨーロッパ鉄道旅行記・2日目

3月5日


 午前7時頃起床した.興奮しているせいか余り眠られなかった.さてホテルの食堂で朝食である.これがかなり豪華なバイキングである.それがパンをはじめすべてうまい.特に手作りジャムのうまさは格別であった.外国へ行ったときは食事が自分の口に合うかが心配であるが,ここの料理はすべて日本人の口に合うものであった.皆満腹になるまで食べて,大満足である.これだけの料理が出て,朝食込みトリプル22000円は安いと思った.
 準備ができたら,いよいよ旅行のスタートである.ホテルの前ではKR山氏が「宿泊したホテルの写真はすべて撮ることにしてるんだ」ということでホテル前で記念撮影をする.天気はどんよりと曇っていて,また道は雪解けでびちょびちょである.しかし街並みは美しい.それぞれの建物はデザインが洗練されているし,また市電や2両連結バスとかが走っていていかにもヨーロッパらしい.まずは駅で両替である.英語係のKR山氏が両替のお姉ちゃんと交渉してくれる.お姉ちゃんは気を利かして,大きい200NOK紙幣だけでなく,100NOK紙幣や50NOK紙幣を混ぜてくれた.これで昨日あれほど苦労したノルウェー現金を手に入れることができた.次にユーレイルパスのヴァリデートと列車の座席予約である.駅のみどりの窓口?に入り,“DOMESTIC”と書かれたボタンを押し,整理券を取る.順番が来て呼ばれたので,「次の10:48発のベルゲン行きの予約をしたい.ユーレイルパスを持っている」と言うと,発券作業をしてくれるが,なかなか発券されない.ようやく発券されたと思うと「ヤイロ,ヤイロ」と言ってきたがヤイロの意味がわからなかった.そうすると切符に“GEILO”と書いてあり,駅名だということに気付いた.どうやら“GEILO”までしか指定を取れなかったので,それ以降は車掌と相談しろということだった.座席指定料は一人当たり25NOKだった.その後ユーレイルパスをヴァリデートしてくれ,パスには“Billettekspedision 0100-7 05 MAR 1999 NSB OSLO S”というスタンプを押してくれたとともに,パスポートナンバーと有効期限(19 03 99)を書いてくれた.我々は礼を言い,切符売り場を離れた.次に売店で昼食用の食料を買い込む.私はサンドイッチとジュースを買い込んだ.そしていよいよプラットホームに降りる.
ノルウェー国鉄の指定席券
▲ノルウェー国鉄の指定席券

Hønefoss駅に到着したベルゲン行き
Hønefoss駅に到着したベルゲン行き
 プラットホームにはまだベルゲン行きの列車は到着していなかったが,ほどなくして真っ赤な電気機関車に引っ張られたベルゲン行きが入線した.かなり古そうな客車であるが,寝台車なみの天井の高さとゆったりした座席によりかなり広々とした感じである.とても2等車とは思えないほどゆとりがある.日本のグリーン車なみである.隣のホームには,昨日乗り損ねたいかつい顔をしたノルウェー国鉄最新型のエアポート特急が停まっている.乗りたかったなあ〜.列車は定刻にオスロ中央駅を発車,オスロ市内は地下を通り郊外に出ると地上に出る.車内はすいていて,とても途中から満席になるとは思えないほどである.しばらくして,車掌が検札に来るが,チケットを見ては笑顔を見せ,「Thank you.」と言ってくれた.列車はそれほどスピードを出さないものの,一定のスピードでしずしずと快適に走る.オスロ〜ベルゲン間はヨーロッパの中でも特に景色の美しい路線として有名であるが,最短でも6時間半,今回乗ったものは8時間も要する.オスロを出発してしばらくは北欧らしい雪景色の森林や川沿いを走り,またある程度大きい町では教会が美しく建っているものの,やや単調な景色が続く.オスロを出発して約1時間半でHønefossという駅に到着,オスロ行きベルゲン急行とすれ違うためやや長時間停車する.ホームには10cmほどの雪が積もっている.Hønefoss発車後も,しばらくは単調な景色が続くが,高度を少しづつ上げていき,線路沿いの川はいつの間にか雪に埋もれて見えなくなってしまった.買い込んだ昼食を済ませ,引き続き景色を楽しむがこれだけ乗り続けるといいかげん疲れてきた.午後3時,問題のGeiloに到着した.そこはスキー場の真ん前であった.そこから高校生ぐらいの男女が大量にスキー靴のまま乗って来るではないか.車内は満席になり一気に賑やかになった.賑やかというよりうるさすぎる.スキー靴に付いていた雪が車内に散乱してびちゃびちゃである.我々は指定券を持っていないので,やむなくデッキで過ごすことにする.停車駅の度に車内放送の「right hand side」と「left hand side」を聞き分け,こちらのドアが開くとか3人で言い合って,扉の開かない方へ荷物を移動させて乗降客の邪魔にならないようにした.どんどん標高は上がっていき,雪も深くなってきた.Geiloから約1時間で,Finseに到着した.Finseはノルウェーの鉄道駅中で,最も標高の高い駅であり,標高は1222mである.Finse駅を出て少し経つと,ノルウェー鉄道最高地点海抜1303mを通過し,車内放送でもそのようなことが言われた.最高地点を過ぎると,列車は下るのみで走りも軽快になってきた.K口氏が車掌に「We want to go to Bergen!」と言うと,しばらくして車掌が空席2席分を見つけてくれて座るように案内されたので,我々は交代で座った.Finseから約30分で山間の駅Myrdalに到着した.駅の周りには何もないが,ここで有名なFlåm線と分岐する.我々は明日乗車する予定にしている.隣のホームにはFlåmから来たと思われる緑色の客車が停まっている.Flåm線の先は谷底につながっているような印象で,これは明日乗るのが非常に楽しみだ.Myrdalから約1時間でVossに到着,まだ明日の予定をはっきり決めてはいないがこのVossで明日宿泊する予定にしている.ここまで来るとかなり降りてきた感じだ(正確には海抜57m).列車はラストスパートとばかりに軽快に飛ばす.Vossを出てしばらくするとフィヨルド地帯に出て,美しい景色を楽しませてくれる.ちょうど日も暮れてきて夕日がまぶしい.Vossから約1時間の午後6時半,ようやく終点Bergenに到着した.日はもう沈んでしまいあたりは暗くなってきた.乗車時間7時間45分の非常に長いものだったが,それなりに景色の変化があり楽しめた.
趣のあるベルゲン駅
▲趣のあるベルゲン駅
 改札を出て振り返ると,駅舎がノルウェー国鉄のロゴとともに美しく輝いていたので思わず写真を撮ってしまった.とりあえず日本から予約していたホテルを目指すが,途中の道路に軌道敷もないのに架線が張っているので,ひょっとしたらトロリーバスが走っているのではと思った.その時,すぐ横をトロリーバスが走り抜けた.私はトロリーバスを見たのは初めてだったので,感動した.しかしその後は見ることなく,架線の下でも普通のバスばかりが通り過ぎた.歩き始めて10分くらいで目的のホテル『Rainbow Hotels Rosenkrantz』に到着した.ここのホテルの部屋も広く豪華だった.部屋に荷物を置いて,落ち着いたら,夕食を食べに外へ出ることにする.せっかくここまで来たのだからノルウェーのおいしい料理を食べたいというのが皆の一致した意見だった.町をけっこうウロウロしたが,なかなかこれという店を見つけだせなく決まらない.入ろうかと思った店もあったがあまりにもひとけがなくてやめた店もあった.世界遺産に登録されている三角屋根のブリッゲン地区に,はやっていて賑やかなレストランを見つけ,また店頭に置いてあったメニューには英語表記もあったので,この店に入ることにした.
 階段で店の2階へ上がる.店の雰囲気はかなり良かった.私はを食べたかったので,『Whale Steak』を注文することがすぐ決まったが,後の2人は英和辞書を片手に何を注文するかなかなか決まらない.K口氏に至っては「もうなんでもいい」とか言い出した.ようやく注文するものが決まり,オーダーした.担当してくれたのは若い女性で,しかもかなり美人だった.なぜ鯨を食べたかったかというと,小学校時代給食で1ヶ月に1回の割合で『クジラのノルウェー風煮』というメニューがあり,これがおいしかったのだが,いつの日からか捕鯨問題でこのメニューがなくなってしまったため,もう一度鯨が食べたかったからである.しばらくすると料理が運ばれてきた.私の鯨肉のステーキはすぐわかったが,あとの2人は自分の頼んだ料理が何であったか良く覚えておらず,どちらの料理がどちらの頼んだものかはっきりしなかった.2つの料理のうち,1つは見た目『鮭』,もう一つは白身魚だったので,“salmon”と書いてあった料理を頼んだ覚えがあるか聞いてみたが,そんなのは頼んでいないと思うとのことだった.結局話し合って,K口氏が鮭のようなもの,KR山氏が白身魚の方を食べることにした.出てきた料理はどれもボリュームたっぷりである.メイン料理とは別にご飯代わりのポテトも大量に出てきた.さて料理の方であるが,鯨は魚というよりは肉みたいな感触で(鯨は魚類ではなく哺乳類なので当たり前か),かつかなり臭みがあったのでおいしいというものではなかった.それでももう2度と食べられないかもしれないと思っていた鯨肉を食べられたので満足であった.(実を言うとこの半年後,四国の高知で鯨を再び食べてしまった.こちらの方がたれが鯨の臭みをうまく消していたのでおいしかった)料理はたっぷりあり,しかも同じものばかり食べていると飽きが来たので,それぞれの料理を交換しあって食べてみた.鮭みたいなものはおいしかったものの,ややかすかすしていたのでそんなに大量に食べられるものではなかった.白身魚の方は味付けも身の方も口に合いおいしかった.
 さて満腹になり,会計を行いたいが,その仕方がわからない.テーブルで支払うのか,1階のレジで支払うのかよくわからない.日本では基本的にレジで支払うが,アメリカではテーブルで支払うのが常識になっている.はたしてここノルウェーはどうなのか?とりあえず周りの人を観察して様子を伺った.私の座席は向きが悪く,見にくかったので,KR山氏とK口氏が見ていてくれた.そうすると近くのグループが支払いをせず下の階へ降りていったと2人が証言したので,決心がついた.いつまで経っても請求書を持って来ないので,例の美人のウェイトレスを呼んで,私は「Bill, please!」と言った.(KR山氏とK口氏はbillという単語も知らなかったらしい)そうしてしばらくすると,お姉ちゃんがbill(勘定書)を持ってきてくれた.請求額は526NOKだった.こんなに高価な食事をしたのは久しぶりだった.さて席を立ち,下の階へ降りようとしたその時だった.美人のウェイトレスが慌てたように我々を追いかけ,追いつくと,「Pay for me!!」と大声で話しかけてきた.やっぱりテーブルで支払うんだった.慌てて支払って釣りは要らないとか言ってしまったが,気が動転していたみたいで良く考えてみるとチップにしては少なすぎる額を払ってしまった(いくら支払ったかは記憶があやふや).2人は何を見ていたんだ!後になって,テーブルでチップを払っていたようだったとか言い出すし...それは会計だったちゅうの.ああ恥ずかしいことをしてしまった.ウェイトレスが美人だったので余計,悪いことをしてしまったという感が強かった.我々の行為は食い逃げしようとしていたととられても不思議ではなかった.恥ずかしい思いをしたので逃げ出すように店から出てしまった.店の前では,何を注文したかもう一度確認したく,メニューを見てメモを取る.結局,K口氏とKR山氏はお互い自分の頼んだ料理と違う方の料理を食べていたことが判明した.白身魚は『wolffish』,鮭みたいな魚は『trout』とうことが判明した.辞書で調べるとtroutの日本語訳は鱒(マス)であることが判明し鮭に似ていたことに妙に納得してしまった.wolffishの方は辞書に載っておらずよくわからなかったが,帰国後調べてみるとオオカミウオであることがわかった.そのままやんけ.食い逃げ事件の影響で,気が動転していたのか,夜景がきれいと言われているフロイエン山に登ることをすっかり忘れてしまい,ホテルにそのまま戻ってしまった.風呂と明日の支度だけして早めに布団に入った.今日はK口氏がエキストラベッドで寝ることになった.zzz.
恥をかいたレストラン紹介記事
『るるぶ北欧'00〜'01』に我々が恥をかいたレストランが紹介されていました


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