ゲド戦記
なんて静かな、そして熱い語りでしょう。
これは『ゲド戦記』第一巻を読み終えた時の私の感想です。
『ハリー・ポッター』の第一巻を読んだ時とはまるで正反対の
(ファンの方はごめんなさい。好みの問題と思って下さい。)じんわりと満ちてくる、大いなる感動でした。
無駄な小道具はひとつもなく、派手なところも少しもなく。
物事を知れば知るほど無知になる、と時として言われるように魔法について知れば知るほど
使わずに済むならばそれに越したことはない、と言いたいかのようです。
まるで魔法使いと魔法との戦いの物語ではないかと思いました。
またゲドは唯一の友人カラスノエンドウと真の名を交わします。
その場面は読んだ後にも宝石のような輝きを放っていて、終盤でも二人は共に戦いに出掛けるのですが、
結局はゲド自身の戦い。そして自分の意思で立ち向かっていく。つまりは魔法を通じてそれを扱う人間の
在り方を問うている、そんな作者の奥深いながらもさりげない愛情がうかがえて、それがとてもよかったです。
さて、この素晴らしい一巻を読んだ時点でジブリ版『ゲド戦記』をみてきました。
全体の雰囲気といい、その何ともいえないゆるやかなテンポ感は、とても心地良く感じました。
「テルーの唄」も。ですが内容はというと結局少年アレンと少女テルーの問題(?)は解決したようでしたが、
ゲドの旅はまだ続く…のでしょうか。それにクモという魔法使いは一体何だったのか、
少々説明が足りないのでは、という点で疑問が残りました。
ただ、原作に忠実でないにしても一作品としてこれはこれで悪くないとも思いました。
全く別のものと割り切ってしまえば。
それにそのために原作の質が落ちることはありえないわけですから。
そんなわけで読書の秋。二巻からの続きを読むのが楽しみです。
<2006.09.15 vol.78>