フィーヴァードリーム
八月ということで涼しくて熱い(?)話を。
吸血鬼の話というと私としてはありきたりな気がして、
あまり進んで手に取ることはないのですが「タフの方舟」(少し前に読んでおもしろいと思った小説です)の
作者ならばと思い、ジョージ・R・R・マーティン氏の「フィーヴァードリーム」を購入しました。
これは!今までに読んだ吸血鬼ものの何よりも一番しっくりくるものでした。
とはいえ、それほど多くは読んでいないので偏りがあるかもしれないことはお断りしておきますが。
何しろ、吸血鬼と人間の友情物語なのです。といってしまうとそれこそありきたりと思うかもしれませんが、
このジョシュアとアブナーの二人の性格からして対等かつ非常に好ましいものなのです。
はじめはジョシュアから契約というかたちでパートナーとしての関係が始まりますが
結局はアブナーが問いつめることでジョシュアが吸血鬼だということが明らかになります。
この本来の姿をみせてその反応で人となりがわかるというかけひきのようなところは友情を語るには
欠かせない要素のひとつですが二人は(というよりアブナーは)互いの異種を越えて、また自分自身にも迷うことなく、
気持ちのいいくらいに相手を信用することで障害をこなしていくのです。
そのさわやかさがとても新鮮でした。
そして文章も。この作者は読ませる文章を書く人で、テンポもとてもよく、ゆっくり読もうと思っていたのに
そうはさせてくれませんでした。ショジュアは吸血鬼とはいえ血の支配者とはいえ絶対的存在として描かれているわけではありません。
が、それは人間にしても完璧な人間はいないということと同じでしょう。生きる者は死に向っていくからこそ
弱い部分が必ずあります。そして怒りが沸点に達したとしてもお互いに話し合いは必要。
それができれば、わかっていれば友情は継続されるし、できなければ消えてなくなるだけのこと。
私にも後者の経験はありますが、回復する価値があるかどうかの判断はそれぞれの自由です。
でもこのジョシュアとアブナーはそうではなかった。
二人の信頼はそれ以前に二人共が自分をわきまえた大人であったからこそでした。時に子供のように単純明快に。
これは物語だから、といってしまえばそれまでですが、だからこそ素敵なフィーヴァードリームをみせてくれてありがとう、
と私はいいたいです。
<2006.08.15 vol.77>