物語
物語には魔力がある
現実も空想も同じくらいに
読書は自己満足だろうか
映画は現実逃避だろうか
日常は死に至る病
物語は治療薬のようなもの
物語には浮力がある
美しくても哀しくても
大人らしくもあり子供らしくもあり
人間はただ一度の道をたどることしかできない
それでも物語には何度でも出会うことができる
物語をたぐりよせ見離された物語もまた
物語に左右され
物語に生きていく
物語にはまた魅力がある
公園の隅の一本の木にも
海深くに眠っている小さな砂にも
物語は潜んでいる
当然のようにその力を発揮して
物語はいつどこにいても
物語であろうとする
それが世界を信じる手段のように
物語は相変わらず物語を呼ぶ
生きていくのは困難の連続
そして物語は容赦がない
恐れを知らない物語には
やはり数えきれない魔力がある
<2006.07.15 vol.76>