桜井哲夫氏の会

二月二十日、知立市で桜井哲夫氏の詩の朗読とトークの会があり、行ってきました。 氏は、ハンセン病元患者さんのお一人です。

桜井氏は、後遺症によってすべての手の指がなく、失明もされていました。 私は、わかっていたとはいえ、実際に舞台に出てこられたときは、じっとみつめてよいものかどうかと、 気持ちとして、どうしていいかわかりませんでした。 それほどショックでした。その姿だけで、それまでの人生の全てを現わしている、そんな印象を受けました。

会の中では、NHKのアナウンサーの方による詩の朗読や、音訳の方の声を借りながら、ご自身の声をかすれながらも 発していらした様子には、心に染み入るものがありました。 会の後には別室で、一人ずつお会いできるということで、私も少しだけお邪魔しました。 順番がきて、あいさつをし、私が「握手をさせて下さい。」と言うと、手をさし出して下さって、 改めて「お名前は?」と私にたずねられました。あの声は今でも耳から離れません。

ただ、桜井氏自身は、お会いしてわかったのですが、ユーモアのあるごく普通の方でした。 私たちと変わらない、同じ普通の人間でした。おそらくハンセン病にかからなければ、お互いにすれ違うだけの 存在だったかもしれません。 私がそう思えたのも、やはり常にご自身が「診療所にいても、社会人として生きていこう」と努力されてきたからに他なりません。

差別や偏見は悲しいことに、人間であれば誰にでもあります。 けれど、理解しようという気持ちさえあれば、忘れずにいれば、どれだけ時間がかかってもその壁は乗り越えられるもの、と信じたいです。 <2005.03.15 vol.62>

vol. 63へ vol. 61へ





もくじへ戻る