魂の素肌に触れる日々

実は、何ということはない声なのかもしれません。それほど騒ぐことはないのかもしれません。 でもなぜか気になる声。なぜか一度きいたらもう一度ききたくなる、そんな声。
元ちとせというひとのうたう声を初めて耳にしたとき、私はそんな印象を受けました。 彼女のプロフィールには「高校三年で奄美民謡大賞の民謡大賞を史上最年少で受賞」とあります。 民謡ときくと、私は少々金属的な響きを思い出すのですが、どちらかというと彼女の声はまるく、 木造住宅のようなあたたかみのあるやわらかさを感じます。(ちょっと変なたとえでごめんなさい。)
魂の素肌に触れた、というのも、CDをききながら、ふと浮かんできたことばでした。 きっと無意識に私の中でその声のことばにしたいという気持ちが働いていたのでしょう。 こえそのものがしっかりと意志を持っているかのような強さと不思議さ。彼女自身、雑誌のインタビューの中で 「歌うってことは、唄の生命を歌うこと。素直に歌わないと、とっても失礼なことになる。」 「唄だって自分のいいように生きていきたいだろうし、伝えていかれたいだろうと思うんです。」 と言っています。彼女の声は心の奥深くまでまっすぐに届いてくる。 けれども逆にきき手である私にはその声に対しては必要以上に入りこんではならない聖域を感じずにはいられません。 くりかえし、きけばきくほど響いてくるのは嘘のない、正直で素直な素そのもの。 だから、触れていいのは魂の素肌まで…。思えばそれが、もう一度ききたくなる声の理由であったのかもしれません。
七月十日には『ハイヌミカゼ』というアルバムが発売されました。 南の風という意味だそうですが予想通り、ただ情熱的なのではなく、やさしさが吹きこまれている、そんな風が流れていました。 ひとりの人間の声にこれほど強く引かれたのは随分久しぶりです。 おかげさまで私の中にもうたが舞い降りてきています。きっとしばらくはこの状態が続くことでしょう。 <2002.07.17 vol.33>

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