彼女の初恋、理不尽な別れ、仕事への情熱の目ざめ、思いがけない病気と失意、仕事の再起をかけた挑戦、結婚、初恋の人との再会、不倫、離婚、恋敵との対決、そして……。
ドラマチックな展開を意識しながら、テレビとの違いを明確に意識したのは、性愛描写と、恋する男女の苦しいほど切実な心情です。
テレビドラマは未成年者も見るために、そのあたりがもどかしいほど生温(なまぬるい)いのです。
きれいごとだけではなく、読み手の心臓をぎゅっと鷲掴(づか)みにする人間の不可解さと純粋さ、映像化できない人の心のこまやかなひだを読むことが小説の醍醐味です。
それらをじっくり書きこむために六百枚近い長さは必要だったと思います。執筆にあたっては、映画製作、演劇、医学の本を読みましたが、主人公の病気「再生不良性貧血」については、編集者の方を通じて質問をした日本赤十字病院の先生にお世話になりました。
私があまりに奇想天外な質問ばかりするもので……たとえば「骨髄移植の提供者と被提供者は、移植後、同じ血液成分と免疫をもつと思いますが、仮にこの二人が結婚すると子供はできるですか?」には、「一体どうしたら、こんな質問が出てくるのか?!」と先生は絶句なさったそうですが、あらゆるストーリー展開を念頭において筋書きを考える作者としては、どんなに小さな可能性も見逃したくなかったのです。
主人公は女優ですが、彼女のまわりにいる男たちの野心と絶望こそ、私がもっとも書きたかったことなのかもしれません。(次へ)

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