■『海と川の恋文』のあとがきにかえて〜(「本の旅人」2005年12月号掲載)
この小説は「野性時代」編集長から「今までに書いたことのない新しい分野にチャレンジしてほしい」というご要望を頂いて一年間連載したものです。
そこで考えたのは「メロドラマ」でした。
今までどちらかというとまじめな主題で書いてきた私にとって、古風に言えば「手に汗握り紅涙(こうるい)しぼる」波瀾万丈の恋愛小説こそ開拓してみたかったのです。
きっかけは、2003年春に見たドラマ「冬のソナタ」でした。
今でこそ韓流は大ブームですが、当時はそれほどでもなく、実に新鮮な感動がありました。
あのドラマの魅力は様々にあると思いますが、もっとも傷つきやすく純粋な青春時代に人を恋する高揚感、若さゆえのひたむきさ、別れた後もいつまでも忘れずに思い続ける喜びと苦しみ、大人になって失っていくものを知る虚無に、私は心を打たれました。
と同時に書き手として、人々のピュアな情感に深く訴える良質な娯楽小説を自分も書きたいと創作意欲を刺激され、初恋の記憶、若い日に愛した人をずっと忘れられない大人の秘めた純情を物語にしようと考えたのです。
小説は、主人公の遥香が大学に入る十八歳の春から始まります。
舞台を見て、芝居のもつ魔法的な魅力の虜(とりこ)になった彼女は、演劇部に入り、部長の修平から熱心な指導を受けます。また夏休みには、映画監督をめざしている徳明が撮る自主上映に出演したところ、それが映画人の目にとまり女優デビュー……。(次へ)

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