アンシリーズを、現実離れして楽天的な作品だと思うのは早計です。
私たちと同じように、生老病死の苦しみを抱えた老若男女が織りなす陰影ときらめきの両方をたたえた大河小説なのです。
しかし傷ついた大人も子どもも、太陽のように明るく暖かいアンによって生まれ変わったように人生が変貌していきます。
アンの愛情深さ、希望に満ちた態度、善に対する強い信念に感化され、人々はまた生きる価値を見出していくのです。

★『アンの青春』の幸福哲学★
もっともアン本人も、常に天真爛漫ではありません。
最愛のマシューが急死した悲しみ、さらには、そのために大学に行けなかった無念さを、誰にも告げないまま、じっと胸にしまっています。
人にはどんなに願っても実らない夢があり、思いがけない不幸や死別も訪れます。
それでも徒(いたずら)に悲嘆に暮れることなく、いつか夢を実現させようと根気強く努力を重ねる強い精神力が、アンにはあります。
つまり村の教師として働きながらも、アンはさらなるキャリアアップを目指してラテン語と文学の独学を続けます。その甲斐あって、カナダ本土の名門大学への進学も現実のものとなります。
若い女性が未来にかける抱負と努力は、どんなに現代の私たちを鼓舞し励ましてくれることでしょう。(つづく)

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