亡くなった母を恋しがって涙ぐむポール、愛情に飢え心を閉ざしてひねくれているアンソニー・パイ、きちんとした躾を受けられなかったために善悪の判断も持てず野放図に悪戯を重ねるデイヴィ……。
一見すると、本書は、のどかな物語に読めるかもしれません。
しかしそこには、心に傷を抱えた無力な子どもたちが登場しているのです。
大人に省みられず誰にも愛されなかった孤児のアンは、孤独な子どもたちが小さな胸に宿す悲しみを自分のことのように感じ、深い愛情を注ぎます。
しかしそうした子どもたちの悲しみは、かつてモンゴメリ自身の心にも漂っていたものなのです。
★傷ついた大人たち★
子どもだけではありません。大人たちもそれぞれが胸に秘めた傷(いた)みを抱えています。
隣人のハリソン氏は、夫婦仲が悪く、妻が家を出たために知人もいない島に独りぼっちで流れついてきた初老の寂しい男です。
ミス・ラヴェンダーは、若い日の失恋に、悔いても悔やみきれない後悔と未練を残しながら、人里離れた石の家で二十五年間も空しい歳月を送ってきた中年の独身女性です。
アーヴィング氏も妻の死によって幸福な家庭を失い、子どもと離れ、多忙な仕事に悲しみを紛らわせて生きています。
強烈な個性とエネルギーに満ちたリンド夫人でさえ、長年連れそった夫を介護して看取り、未亡人になります。
アンが熱愛するアラン夫人も、かつては愛らしく朗らかで、まだうららかな娘のようでしたが、今や幼い息子に先立たれ、思うに任せない人生の悲哀をその面ざしに翳らせた女性に変じています。(つづく)
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