第9回●働く女性として、夢見る娘として……(松本侑子)
(前ページより) アンは十代ながらも、教育には何がいちばん大切か、真摯に考える。失敗したり泣いたりの試行錯誤をかさね、規則や体罰で生徒たちを管理するのではなく、心を開いて一人一人に接し、教え子たちの愛情と信頼をえることが肝心だと実感していくのだ。
また、子ども扱いしないこと、子どもらと真剣にむきあうことを心がけ、思いやりのある熱心な先生として慕われていく。
ちなみに作者モンゴメリも、二十代前半に教職についていた。『アンの青春』は、その当時モンゴメリがしたためていた日記も元になっていて、教室での描写には現実味がある。
十代後半になったアンは、大人との交流も増えていく。しかしその誰もが、胸の底に人知れず傷をかかえているのだ。
たとえば、二十代に失った恋を忘れられないまま独りでいる中年女性ミス・ラヴェンダー。
妻を喪った悲しみを多忙な仕事にまぎらわせているアーヴィング氏。
妻に去られ、オウムだけを話し相手に孤独にくらす老人ハリソン氏。
長年つれそった夫を介護して看取ったリンド夫人……。
人が逃れることのできない生老病死の苦しみを、『アンの青春』の登場人物たちも背負っているのだ。
しかし彼らは、アンによって、人生が大きく変わっていく。アンの愛情深さ、希望に満ちた態度、善に対する信念に感化され、また生きる歓びを取りもどしていくのである。
けれどアン本人も、いつも楽天的ではない。
育ててくれたマシューが亡くなったつらさ、大学に行けなかった無念さを、じっと心の奥に秘めている。それでもくじけずに、今いる環境で最善をつくすことに努める。
と同時に、未来の抱負にむかって、働きながら、独学で大学の勉強をつづける。
その努力は実り、『アンの青春』の結末では、カナダ本土にある名門大学への進学が実現するのだ。
夢をつかもうと奮闘するアンの姿は、将来に夢をかけて学び、働く現代の人たちへの熱い応援、力強い励ましになることだろう。
(つづく)
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