第9回●働く女性として、夢見る娘として……(松本侑子)

 『アンの青春』は、カナダの作家ルーシー・モード・モンゴメリ(一八七四〜一九四二)の出世作『赤毛のアン』の続編である。
 第一巻『赤毛のアン』の筋書きは、ご存じの方も多いかもしれない。
 カナダ東海岸にあるプリンスエドワード島に、孤児のアンがやってきて、農家グリーン・ゲイブルズの老兄妹マシューとマリラにひきとられる。
 すがすがしい自然のなか、アンは周囲の人々の愛と友情に恵まれ、優しく、賢く、独特の魅力をたたえた娘に成長する。
 それまでは人づきあいもなく生きてきた初老のマシューとマリラもまた、アンを育てることによって、人を愛し愛される幸福を初めて知り、暖かみのある人物へと変貌していく……。
 そうした心温まるストーリーを、笑いと涙、ゆたかな詩情をこめて描いた長編小説だ。
 まず英語圏で次々と版を重ね、フランス語、イタリア語、ポーランド語、スウェーデン語など欧州各国語、中国語、韓国語など、十数以上の言語に翻訳されて、百年にわたって世界中で読みつがれている永遠のベストセラーである。
 その続編『アンの青春』の拙訳が、発刊になった。
 私は、アンシリーズの新完訳を手がけている。
 新完訳の特色は、まずはモンゴメリの原書に忠実に全文を訳すこと。
 無数の英米詩の名句をちりばめた芸術性ゆたかな文章の味わいを日本の読者に伝えるために、文学小説らしい日本語に訳出すること。
 さらに巻末に訳注のコーナーをつけ、背景となるカナダの文化、社会、作中に登場する英米文学について解説していることだ。
 『アンの青春』は、アヴォンリーの村で、若き教員となったアンの二年間を描いた作品である。
(つづく)

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