第9回●働く女性として、夢見る娘として……(松本侑子)
(前ページより) 『アンの青春』には、古典文学の名句もきら星のごとく引用されている。
物語は、十九世紀アメリカの農民詩人ホィティアーの田園詩『丘にふところにて』の清らかな四行で幕をあける。これは農村に生きる娘さんの堅実さと慈愛をみずみずしく描いた一節で、『アンの青春』におけるのアンを象徴する引用だ。
本文では、ディケンズ小説の一節がいくつか、
日本でも怪奇小説家として人気のあるアドガー・アラン・ポーの詩『エルドラード(黄金郷)』、
『若草物語』のオルコットによる『八人のいとこたち』、
中世イギリスの古い民謡、
北欧ノルウェーの民話『太陽の東、月の西』、
マザーグースの唄『薔薇は赤い、スミレは青い』、
ペロー童話の『青ひげ』。
シェイクスピア劇では『お気に召すまま』『ウィンザーの陽気な女房たち』『夏の夜の夢』『アンソニーとクレオパトラ』など。
もちろん聖書の言葉も多出する。
さらに桂冠詩人ワーズワースの代表作『逍遙(しょうよう)』、
『失楽園』の詩人ミルトンによる『快活の人』、
夭折の詩人ジョン・キーツ作『エンディミオン』。
『アンの青春』の最終章では、アメリカの抒情派詩人ロングフェローの『失われし青春』が引用され、アンの無邪気な少女時代がここに終わりを告げ、魅力と謎、苦しみと喜びをたたえた大人の女のページがアンの前に開かれたところで、物語は静かに幕をとじていく。
『アンの青春』は、モンゴメリが独身のころ、三十三歳から三十四歳にかけて書いた小説である。
十代、二十代の若さのまっただ中にいる方はもちろん、青春の甘いときめきとほろ苦さに郷愁をおぼえる大人にこそお読みいただきたい名作である。
──「青春と読書」12月号(集英社)掲載のエッセイより。無断転載厳禁。
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