(前ページより)
その間ずっと不安と神経症に悩まされていた。いい本を作るのに望ましい環境ではない。とにかく書き終えて感謝している。しかし何といっても、書くことは楽しかった。まだ修正の仕事が残っている、それに一番厄介なタイプ打ちもある」(原書p338)
 モンゴメリはペンで下書きをして、後に推敲しながらタイプで清書をしたことがわかります。
一九○八年十月二十三日
「今日、『アンの青春』のタイプ打ちが終わった。実に単調で骨の折れる作業なので心から嬉しい」(原書p340)
 それから原稿を版元に送り、約一年後の一九○九年九月一日の日記には、次のように書いています。
「今日、私の新しい本『アンの青春』が届いた。人はすぐ物事に慣れてしまう。最初の本が届いたときは喜びのあまり大いに興奮し、半ば陶酔したが、今度の新刊は穏やかな興味をひいただけだった。装丁は気に入った。まずまず良い出来だと思いながらざっと目を通し、それから森へ散歩に出かけた。それ以上は何も思わなかった」(原書p358)
 モンゴメリの気分が沈みがちなのが何とも気にかかるところです。
 この頃、彼女はユーアン・マクドナルド牧師と婚約中でした。彼はモンゴメリと同じスコットランド系カナダ人で、また彼女と同様、長老派教会の信徒でした。ユーアンは遠く離れたカナダ本土オンタリオ州の教会に赴任し、一方のモンゴメリは島で祖母の世話があるために二人は離ればなれで、結婚は延期されていました。
 モンゴメリは結婚前から、ユーアンが時々鬱状態に陥ることに気づき将来を案じています。また自分がユーアンの妻、あるいは誰かの妻になりうるのか疑問に感じ、本人も不眠と鬱に悩み、信頼のおける医者に診てもらいたいと日記に書いています。
『赤毛のアン』の大成功によって、先の見えない下積み生活とは別れを告げましたが、周囲の悪意、嫉妬にさらされたことも日記に残しています。『赤毛のアン』が次々と版を重ね、世間的には成功を収めた彼女ですが、内面には悲観的な意識と虚無が漂っています。(つづく)
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