(前ページより)
 もっともアン本人も、常に天真爛漫ではありません。最愛のマシューが急死した悲しみ、さらには、そのために大学に行けなかった無念さを、誰にも告げないまま、じっと胸にしまっています。
 人にはどんなに願っても実らない夢があり、思いがけない不幸や死別も訪れます。それでも徒(いたずら)に悲嘆に暮れることなく、いつか夢を実現させようと根気強く努力を重ねる強い精神力が、アンにはあります。
 つまり村の教師として働きながらも、アンはさらなるキャリアアップを目指してラテン語と文学の独学を続けます。その甲斐あって、カナダ本土の名門大学への進学も現実のものとなります。若い女性が未来にかける抱負と努力は、現代の私たちをも鼓舞し励ましてくれます。
 そうした将来への野心だけでなく、変わりばえのしない日々の生き方についても、本書には、アンならではの幸福哲学が描かれています。仕事、勉強、家事とさまざまな用事に追われる煩雑で多忙な日々に情熱をそそぎこむことによって、美しさと喜びのある日常へ変えていく態度、何気ない小さな幸せに満ちた真珠のような一日、一日を楽しむ心がけもまた、アンのすこやかな強さなのです。
 二十世紀初めに書かれた本書は、今となっては古典とも呼べる作品ですが、二十一世紀にも通用する普遍的な魅力に満ち、人生を生きる意味を私たちに教えてくれるのです。
──『アンの青春』(モンゴメリ著、松本侑子訳、集英社)の「あとがき」より。無断転載厳禁
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